第71話 ユキから難題

 鷹見さんと飲んで帰って、気づけばユキからメールがきていた。どうやら、私から出す必要はなかったようだ。


 何々? 


『――オオツキさんも気付いてらっしゃると思いますが、昼間ツバキたちと一緒にいたレンと僕(ユキ)はイレイサーです』


 ああ、やっぱり私が気付いていることを理解していたか。まあ、同姓同名のレンとユキが周囲に突然生えたら普通は気づくし、気づかないと思われてる方が微妙だが。


『姿が違いますが、怪しむ目を向けて来られないということは、僕たちがイレイサーであることに疑いではなく、すでに確信を持ってらっしゃるのだと思っています』


 疑う小芝居をするのも面倒だったしな。代わりに全力でスルーしていたんだから、その意図を汲んで関わってくるのを控える方向に何故いかん? レンと違って聡いようなのに。


『動画配信など目立つことをとお思いでしょうが、対象は僕たちの家の場所を知っています。そしてダンジョン内での僕の(イレイサーではない方の)姿を知っています』


 おっと、ユキもレンもレベル1だったので何かの理由で――十中八九対象関係だろうが――両方とも『運命の選択』をしていないのかと思ったら、イレイサーに選ばれる ひっこす 前から、ユキの方は『化身』を得ていたのか。


 なるほど、では名前もしょうがあるまい。『運命の選択』を行うのは、まだ少年少女と呼ばれるころ。冒険者名になかなかイタイ名前をつける者もいる。


 そして冒険者カードは、人の技術ではなくダンジョンに属するもの。一度登録したら変更が効かない。ユキならまともな部類だ。


 ――獣牙皇帝龍天魔王くんは元気に過ごしているだろうか? 思わず皇帝なのか王なのかはっきりしろと、平坦な声で言ってしまったのは仕方がないことだと思う。


『配信は幼馴染同士の遊びのようなものですが、以前の場所で人気の配信者であった対象の言葉をきく者が多く、対抗するのだとレンが張り切っています。

 その実、有名になれるとは思っていないようですが、多少知らない誰かにも広く自分を信じて欲しい欲求もあるようです。

 もう隠れて行動を制限することは嫌だというのも本音でしょう。それは僕にもありますので、よくわかります』


 メールが長いぞ、ユキ。長文吐露するオトモダチがいないのか? 対象に囲われるというと語弊が出そうだが、過去配信見る限り監視されるような生活しとったようだし、同じ年齢帯の友人がいなかったのだろうな。


 だが椿と一馬が今はいるだろう? そっちに相談しろ、そっちに。いや、待て。相談してイレイサーのことまで打ち明けられたら、芋づる式に私のことも? 


『レンは『化身』になると、少し思考が幼くなるようです。そしてイレイサーの『化身』になると、生身での記憶が曖昧になるようです』


 おい。いきなりぶっちゃけるな。暴走理由はそれか!


 『化身』は元の性格を強調するようなものになるとか、逆に『化身』が生身の思考にも影響を与えるとか言われる。


 また、『化身』は外の世界の社会的環境で培われた性格がなりを潜め、束縛のない元の性格よりに変わることも多い。


 私も人のこと言えんが。


『僕のことは双子の片割れの扱いは変わりませんし、対象を絶対殴ることは深く心に刻まれているようです。時々ふっと詳しいことが思い浮かぶこともあるようです。本来の『化身』の時の記憶は覚えているようです。――タガが外れてとても楽しそうです』


 自由奔放で何よりだが、たがが外れたら桶がバラバラに分解するからな? その行動で何もかも台無しにするのは避けろよ?


『ツバキはレンの奔放さを面白がっているため、ストッパーにはならず、僕とカズマでは止め切れません。スズカさんは手にしか興味がありません。嬉しそうに手の写真コレクションを見せられて、ちょっと怖いです』


 おい、やめろ。知ったら巻き込まれそうな気がする。


『スズカさん本人曰く、手を写真や映像に閉じ込めることに喜びを感じるそうです』


 続けるな!


『そういう方向なので、本体の手を撫で回すとか、切り落とすとかそっち方面にはいかないようですので安心してください』


 安心できない上に、むしろユキの思考が怖いんだが?


『それでも安心できず、配信が無理であるのならば、イレイサーのダンジョンにたまに付き合っていただけないでしょうか?』


 だからどこに安心できる要素があった? まあ、ちょっとイレイサーのダンジョンには興味があるが。


『今のところツバキにもカズマにもイレイサーであることを教えていないので、イレイサーでの戦闘を見てもらえるのがオオツキさんとテンコしかいません。僕はダンジョン経験が浅く、レンの戦い方がおかしいのはわかるのですが、どう直していいのか分からず……』


 ああ……。イレイサーのレンも無茶しとるのか。


『レンとも相談して、もしツバキとカズマに僕たちがイレイサーであることを告げる時でも、オオツキさんやテンコのことは黙っていることと決めていますが、たぶんレンは顔に出ると思いますので、オオツキさんを知っていることはまるバレになるかと思います』


 ……。レンに隠し事は無理そうだとは思う。


『なので、配信の参加は無理でも、市のダンジョンで挨拶してもおかしくないくらいには親しくしておきたいです』


 親しくってどうやって? 人付き合いの嫌いな私を舐めるなよ? 陽キャと違うのだ、理由のない交流なんかできると思うなよ?

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