第39話 進行
「草をとるとき、根を抜いた後、平らにするために均していたのだが……」
ダメだったのか!
ショックがでかいんだが。
「カタバミやらドクダミやら根で増えるタイプはともかく、そうでない種類は根自体そう気にしなくていいんじゃないか? そこまでするのは大変だし」
草の見分け方からなのか、草取りマスター! 女百人切りとかやってる関わりたくない阿呆だと思っていてすまん。認識を改めた、誰にでも多面性はある。
「よければ手伝いを。コレは草取りが趣味ですから」
控えめな様子で申し出てくる椿。
様子が控えめなだけで、弟を売ったな? 何も払っておらんが。しかし草取りが趣味……好きこそもののなんとやらなのか。
「趣味じゃねぇよ! 単にばあ……祖母の真似してたら癖になっただけだ!」
「癖……」
癖にまで昇華せんと、庭の草と日常的に戦えないと?
そういえば柊さんが、佐々木のばあさんの漬物は孫が手伝ってると言っていた。椿のことかと思っていたが、もしかして一馬の方もか? 漬物石とか重そうだしな。
椿の方はともかく、一馬は仲が悪いと噂される姉と一緒に大人しくお返し物を抱えて来るイメージがなかった。もしかしておばあちゃんっ子か? 私が佐々木のお婆さん宛てに肉を贈ったから、お婆さんに頼まれたのか?
ちょっとこの姉弟について噂を精査しよう。関わるつもりもなかったのでどうでも良かったが、佐々木さんのお使いで来るなら話は別だ。認識を改めるべきなら改めよう。草取りマスターだし。
「少し待っていてくれ」
そう言いおいて、台所に戻る。
いかん、動揺して素が少し表に出ていた。まあいいが。
アジフライ以外の揚げたてのもろもろを紙袋に突っ込む。それと明日用に作り置いた餃子を冷蔵庫から取り出し、チャック付きの袋のまま別の下げられるビニール袋に入れる。
「お待たせした。こっちの餃子は焼き餃子でも水餃子でも、好きな方で。こっちはちょうど揚げていたところだったので、よかったら。具のチーズは頂き物です」
チーズ、トリュフと物々交換だったが嘘は言っていない。
ああ、アジやらもオークションに流せば買ったものと言いはれるのか。よし、でかい魚はそう言って、柊さんにおすそ分けしよう。
「ありがとうございます」
つつましやかにほほ笑む椿。
なんだ? そういう性格じゃないだろう? 私と同じく社会的な猫を被っているのか? 外でも静かではあるが、大人しいというわけではないタイプだったはずだが。
「こちらこそ」
本気にはしていないが、草取りは自由にしてもらってもいいぞ。
柊さんちの庭経由で帰るらしい2人を見送り、漬物と野菜を抱えて土間の流しに向かう。
ニンニク、新ショウガ、シシトウガラシ、キヌサヤ、ウド、じゃがいも、玉ねぎ、キャベツ、枝付きのままの大葉。
玉ねぎが柊さんからもらったのもあって、カードを【開封】する必要もないくらい溢れた。キャベツはちょうど食べ終えたところなのでうれしい。
それぞれ長持ちするように、冷蔵庫に入れる分と、紙で包んでしまう分、冷暗所保存のものを分ける。
うちには重しなどはないので漬物は台所の冷蔵庫へ。少しツマミにしよう。
そして揚げ物再開。オイルポットでろ過するほどではないので、かす揚げで少し掃除。
どうしようか、ここでまた自然薯を揚げたら量に困る。ついでに間を置いたせいで、揚げ物欲が満たされてしまった。
シシトウの素揚げでいいか。明日はダンジョンにこもるつもりなので、ニンニクの素揚げもいっておこう。で、茄子
明日の昼飯予定の餃子を渡してしまったのだが、そっちは荒巻鮭を解体してお茶漬けでもしよう。というか、ダンジョンにこもるなら弁当だな。
揚げ物を食べながらビール。ダメな大人だ。
本の続きを読み終え、ダンジョンへ。21層はこれまでのパターン的に、魚のはずなのでウキウキである。ウキウキで駆け下りて来たのだが……。
なんだこれは? 床と時々壁に通行を妨害するかのように張り付いた赤黒い岩のようなもの。もしかして本来は周囲の色に擬態をする魔物か? 色で失敗している?
様子見に苦無を投げる。コツンとそれに当たった途端、がぼっと口を開いて噛もうとする何か。そしてまた口をつぐんで静かになる。
食虫植物のハエトリソウというかシャコというか……。もし保護色だったとしたら結構厄介な魔物だったかもしれない。それにこいつ、割と堅い。
が、黒猫のお陰で赤黒いので100%見つけることができる。コンと刀の先でつついて、そのまま開いた口の中を斬ればそれで済んだ。21層くらいの魔物だと通常では攻撃が通らない硬さのかわりに生命力が極端に少ない場合が多いのだ。
そしてあれだ、ドロップが『マガキ』『イワガキ』『イタボカキ』『ヨーロッパヒラガキ』。『胡粉』や『石灰』とかもでたがどうでもいい。
これは隅々まで回らねば。もう一種類はなんだ? 色違いでも歓迎だが、色が違っても赤黒いという不条理さ。
『ハマグリ』『桑名のハマグリ』『チョウセンハマグリ』『鹿島灘のハマグリ』『九十九里のハマグリ』。
ハマグリは内湾性、チョウセンハマグリは外湾性。はっきりしないが、江戸時代に命名された後者の名前は、ちょっと遠いとか、日本から少し離れたくらいの意味らしく、立派な日本在来種で貝殻は白い碁石の材料だ。
ダンジョン以前は汽水域に住む内湾性のハマグリが良しとされたが、今は海があれなもので外洋性のハマグリが珍重されている。
味は汽水域のほうだろうか? いや、外洋性の身の大きさ厚さも捨てがたい。
そして、ダンジョン攻略はまったく予定通りに進まない。さっさと駆け抜けて、24層くらいまで進めるつもりだったのだが、22層で終わった。
今日はオークションの終了期日なので、もうあがらんと。
スライム? ダンジョン以前にウレタンと呼ばれていたものと似たものを作る、『白粘液』『発泡剤』『難燃剤』とか、『ラテックス』『耐熱性ゴム』『耐候性ゴム』『耐摩擦性ゴム』とかだったんで、おそらくホワイトスライムとゴムスライムだったぞ。
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