第38話 訪問者

 草に憤りながら草取り。草はただそこに生えているだけで、悪意も何もないことは分かっている。分かっているが!


 ……草に悪意があったら、あっという間に飲み込まれて廃墟になるな。自然の前に、人間は無力だ。ススキと葛がないだけマシとしよう。


 カタバミの種をつついて遊んだかつての私よ、反省しろ。今でもつつきたくなるが、触った途端2メートル四方に飛び散るからな。


 終わらない戦いから一時離脱して、昼。アジフライとオニオンリングを揚げる、キャベツの残りを千切りに。ご飯に味噌汁、刻んだ大葉を載せた冷奴。


 熱々に使い放題になったレモンをギュッと絞って食う。ああ、後で少し材料を買い足してドレッシングも作るか。


 オニオンリングは美味いが、油を吸いまくっている気がするのでたくさんは要らない。


 アジフライを魚料理として食う場合は醤油、フライとして食う場合はソースと誰かが言っていた。タルタルソースも欲しいのだが、玉ねぎだけはいまいち。らっきょうを混ぜるのも試したのだが、昔のレシピのキュウリのマリネを混ぜるのを試したい。


 あの小さいキュウリはガーキンというらしいが、ダンジョンで出るだろうか。普通のキュウリで作ったマリネでも同じだろうか?


 大きいというか、身の厚いアジフライはすばらしい。齧ると香ばしい衣、身はふわりとしてアジの脂がさらさらと流れ出す。熱いのだが、それがいい。


 甘いオニオンリング、口の中をさっぱりさせる冷奴と千切りキャベツ。白飯――いっそ昼間から酒をくらいたいのだが、最近昼間に飲み過ぎな気がそこはかとなく。


 肝臓をはじめ、内臓は丈夫なんだが、どこまでも自堕落になる気配がこう……。


 だがしかし、朝から働いたが、今日はだらだらしようと決めた日。それに油を用意したからには、もう少し揚げ物をしないともったいない気がする。揚げ物は揚げたあとの掃除やら始末やらが面倒なのだ。


 中間をとって、夕方早くから飲み始めよう。そういうわけで、昼を食べ終え、揚げ物態勢――はねた油は軽く拭いたが、鍋の油もそのまま、床にまだ新聞紙が敷いてあるのもそのままに、しばし読書。


 今は回復しているものの、ダンジョン出現で一度ネットがダメになって以来、紙の本が見直された。物資と輸送の関係で、大量に増えたとかではないのだが、そこそこ手に入る。


 置き場所の確保に困っていたのだが、今は本が増える前提で家を建てたので大丈夫。引っ越してくる前、自分の部屋がカオスだったのだが、あれは本来他のものがしまわれるべきはずの場所に、溢れた本が突っ込まれていたからなんだな。


 夕方、おつまみに揚げ物を再開。


 ――する前に餃子を作る。大部分は明日の昼用だが、その中のいくつかを揚げ餃子に。


 ソーセージとチーズを餃子の皮で包んで揚げる。他にハムとチーズ、大葉とチーズ。

 

 『ヤマイモ』がドロップしたと思ったら、『自然薯じねんじょ』『ナガイモ』『イチョウイモ』『ツクネイモ』も出たので、自然薯を食べやすいサイズに切ったもの、すりおろしたものを小分けにして海苔で包んだもの、鰹節を混ぜて小分けにしたものも揚げた。


 ……さすがに揚げすぎた。チーズはアウトだが、自然薯と揚げ餃子はお裾分けしても怪しまれないんだが、揚げ物は揚げたてでないと。


 自然薯、外はさっくり中はホクホク、すりおろしたものは外はさっくり中はもちっとふわっと。なかなかいい感じのツマミなんだがさすがにこの量は食いきれん。1本使い切ろうとした私が悪かった。


「ごめんください」

などと思っていたら来客。


 女性? 誰だ? 来客の覚えも、女性の覚えもないぞ?


「こんにちは、下の佐々木です」

そして後からチャイムとインターホン。


 椿が何故? と思いながら、玄関へ。


 鍵は開いているのだが、外で待っている気配。田舎暮らしを調べた時、返事を待たずに入ってくるとか、玄関に入ってから声をかけてくるとかあったので、少々あれだったのだが、幸い私周辺はそういったことは起こっていない。


 土間を広くしてしまったので、実は玄関を開けるのが面倒なんだが、人同士の適度な距離感は大切にしたいところ。


「はい?」

扉を開けると、椿と一馬。


 椿はにこやかにこちらを見ていて、一馬はそっぽを向いている。何の用だ? 私がオオツキなことは知らんはずだよな?


「こちら祖母からです、先日はいいお肉をありがとうございます。柊のおじさんが、滝月さんが漬物を喜んでいたというので、また漬物なのですが」

そう言って、椿が笑顔で漬物の入っているらしい袋を渡してくる。


 なるほど。柊さんだけでなく、やっぱり佐々木さんにもと思って、柊さんを通して肉を贈ったのだが、そのお返しのようだ。


「ありがとうございます。いつもこちらがいただいてばかりです」

漬物のお礼のつもりだったのに、また漬物をもらってしまった。新しくたくさん漬けた時、また回ってこないかと期待はしていたが早いぞ。


「それと、野菜ももらってください。一馬?」

「ん? ああ」

椿の言葉に一馬が手にさげていた大きな袋を二つ私の足元に置く。


 一馬はそっぽを向いていたのではなく、庭の何かが気になっていた? 何だ?


「何か気になりましたか?」

ここは聞いてしまおう。庭に何かやばいのがあったら困る。


「大したことじゃない。ただ、あんまり土を引っ掻くと、空気に喜んだ草の種が芽をだすぞ」

「!?」


 貴様、もしや草取りマスターか!?

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