第135話 生産ブース
市のダンジョンでツツジさんとアイラさんに冒険者のカードを使って面会打診の連絡。鷹見さんへのヘルプ要請は今朝メール済み。
アイラさんからはすぐに返事が来た。ツツジさんは睡眠と起床の時間が不規則な上、生産作業を始めると他が意識にのぼらなくなるため、返事は期待しない。
それにツツジさんの返事はどうでもいい。彼女はアイラさんのところでお茶をする習慣――アイラさんが習慣づけた、ツツジさんの休憩時間――があるので、アイラさんからの返事で指定がその時間ならばツツジさんもいるということである。
鷹見さんからは調整しますともう返事をもらっている。鷹見さん自身の予定の調整なのか、相談したワインをはじめとした食材を確認できる店の調整か。キャベツのこともあるので、とりあえずは前者だろうか。
待ち時間は生産と納品、だいたいこのパターンに落ち着いてきた。
どうせ『化身』でここにいるのならば、昼酒を飲んでもよかったのでは? いや、ダンジョンに車を置くならともかく、『翠』の駐車枠に停めておくのはダメだろう。
市のダンジョンから『翠』まで、クーラーボックスと酒を運ぶのは大変であるし、酒を飲めないことは決まっていたことなのだ。うん。
「よければ食べてくれ。中身はムースだ」
ツツジさんとアイラさんに用意したベリー類のムースを藤田さんに渡す。
保冷袋に冷やすのに使ったタッパー的な容器をそのまま突っ込んできた。映えから遠い見かけは諦めてもらおう。ただ、前回評判のよかった苺のパックもつけているので嫌がられはしないだろうと思っている。
「ありがとうございます」
「それで、こちらが今回の登録分のカードになる」
つけ届けをしてからの商談。
商談というか、事務手続きという面倒なことの押し付け。もちろん手数料は払っているが、それ以上の手間をかけさせている自覚はある。
「引き出し、増やしますか?」
「そうだな、そろそろ増やしたほうが手間が減るかな」
引き出しというのは売買するカードを預けるスペースのことである。1つ目より2つ目、2つ目より3つ目と値段が上がってゆき、無闇に増やして占有できないようになっている。ダンジョン内のスペースは限られるのだ。
スペースを増やさないのならば小まめに補充することになる。とても面倒だ。カードの種類も増えたし、追加しておこう。
「今回、こちらがメインだ」
「あら……」
差し出したのは絨毯、藤田さんがまじまじとカードを見る。
「効果がついている……。もしかして、宝箱ですか?」
「ご名答」
私はいつも食材ばかりを持ち込むし、藤田さんも私のダンジョンドロップにしては異質に感じたに違いない。それですぐに宝箱と正解に繋がるのは流石だが。
「こちら、もしかしたらギルドも入札に参加するかもしれません」
「構わない」
ギルドや政府関係の入札は税金がかからないので一般より有利だ。それに不公平さを感じるのか、入札者だけでなく出品者も嫌がることもある。
色々手続きを済ませ、ダンジョンの駅で買い物。菜園作業用のシャツ、タオル類の買い足し、一夜干し用のネット、軍手、培養土など車に積んでおいても悪くならないもの。
食材は帰りに買う、マヨネーズを忘れないようにせねば。
自分のブースに戻り、時間まで読書。茶を飲みたい気がするが、これからお邪魔するアイラさんのブースで出されると思うので今飲むのはやめておく。
――時間になったので、保冷袋に入ったムースを取り出す。こちらも苺のパックつきで好感度を底上げ。
自分のブースを出て、パネルで仕切られた狭い通路を進む。この通路で人と会うことは少ない。ここは出来上がるまで時間のかかる、こもりがちになる生産者のブースが並ぶ区画だ。
消耗品の生産者は大抵もう少し手前、売買が楽なよう顧客である冒険者の出入りが楽な方にあり、そちらは人の姿が多い。
私は個人への売買をする気がなかったので、奥まった武器や防具の生産者の広めのブースの隙間に入った。一部屋目の形やら、他のブースとの折り合いで狭くなってしまった場所だ。
個人ブースを割り当てられるだけで、一般の冒険者にとっては羨ましいことなのだが、個人ブース持ちの生産者からは「余った部屋に割り当てられる程度の」と思われる場所。
どうせ人付き合いもないし、
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