第94話 会合
せっせと弾丸を作る。
協力者を選んだ時、イレイサーはだいぶ拗らせていたようだが、今は市のダンジョンにも通っている。
市のダンジョンで本職が作ったものを買えばいいのでは? と思わなくもないが。
弾丸も回復薬もいったいどこでそんなに消費するのか疑問に思う者が出てくるのを心配している……訳ではないな。レンの行動を見れば、どこかで無駄弾撃ちまくってるんだろうとか、無謀な戦い方をしているんだろうとか、そこで落ち着く。
見た目だけならおとなしやかなのだが、中身はハスキー犬みたいなノリと勢いだけで突っ走るような性格しとるからな。
そして私が、うっかりそれなりのものを作れているので支障がないのだろう。【生産】は持っているが、【運命の選択】で得たものではないので、本職ではない。
本職ではないが、【生産】があるのでダンジョン内で効果があるものを、作れてしまう。派生スキルを使っての時短や、作業補正、大量生産、能力向上などはできないのだが、手作業で普通の生産結果を出す分には問題がなく。
そして繰り返した手作業には【正確】の補正が効く。
面倒なことは面倒だが、一度作り始めてしまえば作業自体は嫌いではない。むしろより効率的で速く、思った通りの物を作り出すよう調整してゆくのは楽しい。
ただ、量ができないためたいした金にならない。回復薬のように付加価値がつけられれば別だが。あれも毎日作っている訳ではないので、支出と釣り合っているかと聞かれたら微妙だが。
いや、自宅にダンジョンができる前までは、さすがにここまで外食――しかもお高めの店――はしていなかったので、釣り合っていたはず。
今はダンジョンドロップのおかげで収入の方が多くなったので無問題。それ以前も預金に余裕はあったが、やはり目減りするのは精神衛生上よろしくないしな。
最後の弾丸を作り終えたところで、ノックの音が響く。ノックをするのはイレイサーしかいない。黒猫は突然現れる。
返事をして扉に向かう。扉を開けた時に、部屋の中が見えないよう棚を据えてある。正面ともう片方、L字型に扉を囲っているため、狭い部屋だが回り込むことになる。
「こんばんは〜」
「こんばんは」
扉を開けるとレンとユキが揃っている。
「どうした?」
二人の肩越しに、テンコの姿を認めながら聞く。
「何もないけど、ちょうどみんないたから、アイテムとかお金とか調整したほうがいいかと思って!」
「オオツキさんの予定が今空いていればですが……」
レンが明るく元気よく、ユキが自信がなさそうに提案してくる。
「ちょうど一区切りついたところだ。何か要望があるなら話は聞こう」
聞くだけで終わらせる可能性もあるが。
「わーい!」
何故か喜び、はしゃぐ様子のレン。
イレイサーのダンジョンに足を踏み入れると、なんとも雑多。
「あの歯車はなんだ?」
壁に立てかけてあるでかい歯車に目が止まる。
「昔の時計塔の歯車だって!」
レンの答え。
違う、そうじゃない。
「それが何故ここにある?」
「格好いいから!」
単純な答えといい笑顔が返ってくる。
「……」
私も趣味と実益を兼ねて酒器を集め始めている。うん、格好いいという理由で錫の片口を注文した。趣味のものは、本人がいいと思えばいいのである。深く追求しないことにしよう。
……そこの床に転がっているバルブのついた、どことも繋がっていない配管はなんだろうか。
濃い茶色のチェスターフィールド風のソファ。二人掛けが1つと、一人用が2つ。ソファの間には大きな革のトランクがテーブルがわりに置いてあり、1人用にはテンコが座っている。
「どうぞ。お茶を淹れますね」
そう言ってユキが離れる。
遠慮なく一人用のソファに座る。レンは二人掛けソファの肘置きに行儀悪く腰掛けている。
座面が沈み、体を受け止める。一度座ると、立ち上がるのが億劫になるような、包み込むような沈み方。私の好みから言うと、ちょっと沈みすぎだ。
「久しぶりだこと。何か良い物は出たのかしら?」
テンコが話しかけてくる。
幼さと妖艶さが混在する狐の獣人、生産系の配信でそこそこ有名。生産は付与系で、宝石への能力向上の付与と、紙への攻撃魔法付与が得意。布への付与もするようだが、こちらはごく弱い出来のようだ。
「ああ。個人的には満足している」
イレイサー用の素材が邪魔だが。
「家にダンジョンがあるの、便利だよね!」
「同意する」
レンが言うようにとても便利だ。
完全に黒猫の思う壺だが、あのダンジョンを消したくない。いざとなれば、私が対象を消そうと思っているほどには。まあ、その他の特典的に、なるべく5年の期限いっぱいは討伐せずにおいておきたいが。
確かテンコのダンジョンドロップは付与のための宝石、調整で選んだ紙の類。
宝石は私のダンジョンでも時々落ちるが、ドロップするよう選んだテンコのところはもっとドロップ率はいいのだろう。たまに落ちるレア扱いのはずなので、私のところの食材並とはいかんだろうが。
「こちらは薬草の類のほか、『平織りのロータス』『スーパーファインメリノウール』『光のカシミア』あたりが落ちている」
45、6層で落ちただけだが。
テンコは着道楽に見えるので、布の提示を。できれば、向こうから欲しいと言わせ、それから付与の交渉に入りたい。深層に潜るために付与が欲しいのである。
「あ! 俺の装備の補修お願い! 『光のカシミヤ』売って!!」
レンが釣れた。お前じゃない。
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