第62話 反省中

 夜に食べる予定の弁当は、豚肉で大葉とチーズを包んで焼いたもの、半熟より固めの折りたたんだハム付き目玉焼き、ニンジンのきんぴら、小カブの漬物、ミニトマト。


 ミニトマトは水分も出ないし、弁当の彩には便利なことを理解した。【収納】してしまえば、弁当が傾くことも汁が広がることもないのだが。


 佐々木さんに漬物の仕方を教えてもらいたい。漬物はたくさんいただいて、外で食べる分には間に合っているのだが、それをダンジョンに持ち込む弁当に入れると【収納】できなくなってしまう。


 持ち込むものは自分で作らねばならんのである。おのれ……。


 で、今食べる弁当。ご飯とおかずの境に横たわる焼き鮭、ソーセージ、卵焼き、インゲン豆の胡麻和え、ミニトマト。


 ダンジョン以前の、とても弁当らしい弁当にしてみた。出来立てのまま持ち込めるのだが、あえて弁当っぽく冷ましている。焼きシャケは冷めても味がそんなに落ちないので、弁当にはいいようだ。


 弁当歴が短いのでとても楽しい。焼いただけの肉は、食料であって弁当ではなかったと思う次第。弁当も売ってはいるが、他のダンジョンから運ばれてくる食材のカードはそれなりにするので、弁当らしい弁当はかなり割高だ。


 市のダンジョンは、運動感覚で仕事帰りや休日に入る人も多い。うちと違ってダンジョンはかなり広いが、それでも5層くらいまでは混み合い、ドロップ率が悪いというか、そもそも魔物が倒されていて効率が悪い。


 ダンジョンへ入るために入場料がかかる場所もあるが、市のダンジョンは無料。効率が悪くても、損をするわけではないので人は減らない。


 で、少し時間がある人は6層から9層に行く。この辺りまではソロも多い。


 10層のリトルコアを倒せるようなら、『覚えの楔』を手に入れて、リトルコアをまた倒して11層以降。この辺は、朝から潜って日帰り。


 日帰りならば一食、一番安くてまあまあ美味しい焼いた肉が定番。


 なにせ広いので、階段の位置を把握していても進むのも戻るのも時間がかかる。リトルコアを倒した数でダンジョンが広がるそうなので、人が集まるダンジョンは広い。


 20層以降は進む人数が減る。この辺りは冒険者をメインの職にしている人たちが多い。20層のリトルコアを大人数で倒して21層以降で稼ぐ人も多く、その場合、2回目からは20層のリトルコアは倒さず、10層から始める。


 この層以降が、赤字にならない範囲で弁当らしい弁当を買うようだ。


 あまり色々な食材を使いすぎると高くつく。弁当はシンプルなものが多く、おかずもそのダンジョンでとれるものがメイン。正直、焼いた肉だけの方が美味いのでは? と並んでいる弁当を見て思うことも多々ある。


 まあだが、毎日仕事として通っている人からすれば、焼いただけの肉だけでは飽きるのだろう。――人気は、白飯の上に焼いただけの薄い肉がたっぷり乗っているもののようだが。いいのかそれで。


 美味いとは思うが、肉続きには変わりがないと思うのだが。魚は高いし、卵は県内とはいえ他のダンジョン産。主食である米、塩は政府が行き渡らせるため色々しているので安い。


 外の世界でも、三食肉と白飯でいい男は多いしな。彩りよく食べたい人はエンゲル係数が高くなって大変そうだが。


 一方私は、気に入った弁当箱に気に入ったおかずを詰めている。焼き鮭の塩気で食べるご飯が美味しい。いんげんの胡麻和えで箸休め、卵焼きは夜の弁当の卵に塩気があるので、少しだけ甘め。人の弁当事情と比べてテンションが上がる。


 それはそうとして、10層ごとにいるリトルコアを倒すとその前後5層分が広がる。――ちなみに10層のリトルコアに関しては、1層目から15層目が広がるらしい。


 一人で倒す回数はたかが知れているが、広がられると困る。かといって、『覚えの楔』はリトルコアのドロップ以外ではドロップ率が低い。


 とりあえず行けるところまで行って、広げてもいいと思うドロップの層を把握する所存。酒が出ることも分かったので進むのが楽しみだ。


 弁当を堪能し、お茶を飲んで休憩終了。


 楽しくないスライムを倒す。この層のスライムは、スライムらしい姿で魔法を使ってきた。わりと効果範囲の広い魔法なので、奪って不発にせんと対処が面倒なのもあり、1匹1撃を奪いながら進む。


 次の魔法の発動を待って、奪えるだけ奪うこともできるのだが、時間がかかりすぎる。今は進むことを優先、この能力まほうが便利なことが分かったらやればいい。


 ドロップは『水の魔法石』『つぶての魔法石』『風の魔法石』、時々その上位。投げれば魔法が発動するが、だいぶ弱い。どちらかというと矢や投げナイフなどの消耗武器に、うっすら属性をつけることに使うもの。


 ――弾丸か。


 下へと降りる階段は見つけたが、しょうがないのである程度狩って、下に降りる前に何度目かの強化を【天地合一てんちごういつ】に行う。この能力、範囲が広がらんことにはどうしようもない。


 せめて普通サイズのスライムの体内くらいは把握したい。私が知りたいのは弱点の位置だけで他の情報はいらんのだが。


 55層。 


 『鹿児島の黒豚』『沖縄の豚』『もち豚』。産地がつくと豚の中でも美味しいのでは? と思うのだが、相変わらず丸のままドロップの壁。小分け、小分けで頼みたい。


 これはいよいよ鷹見さんに紹介してもらって、解体してくれる人を訪ねねばならんか。豚を一頭車に乗せて行くってどうなのか。ダンジョンから車まで運ぶことを考えると、思考が停止する。


 そして再びの酒!


 『地中海のダーク・ラム』『カナダのダーク・ラム』『最古のラム』『地中海のホワイト・ラム』『奄美のゴールド・ラム』などラム。ラムだ。


 ビールか日本酒を先にしてくれんか?


 などと思っていたらリトルコアに遭遇。早いな?


 オーク、リトルコアなので多分魔法持ちのオークなのだが色がわからんので謎。55層ということはスライムではない。人型は首を落とすか、心臓をえぐるかすれば大抵なんとかなるので楽だが、オークは生命力が強く、それをしても暫くは動くのでそれだけ注意。


 って。


 日本刀、まだ55層のリトルコア相手ではすぱんといかんか。【天地合一】も【収納】も強化したいし、いくらドロップ率が高いとはいえ『強化』のカードが足らん。


 刀を握っていた手のひらが痺れ、手首と肩が少々痛む。斬れ味を見誤った自分に少々反省しつつ、もう一度。


 『青のり』『あおさ』『ひとえぐさ』『焼き海苔』『海苔の佃煮』『味海苔』『昆布』『乾燥昆布』。その他いつもの。


 海苔はすぐ湿気るから小分けでください……っ! おにぎり作り放題は嬉しいが、10帖1束を510とか一度に出されても困る! 657パックのあおさも困るけど……っ!


 身体能力は足りているが、55層で接近戦をするには装備が足りていない。いや、装備が劣る自覚が足りていなかった。効率よく『強化』のカードを集めるには、低層で殲滅するのがいいのだろうが、せめて日本酒かビールが出る層まで進みたい……。

 ……。


 今回の予定を終えたら、大人しく低層を回ろう。おそらくイレイサーが次に望む弾丸の種類、その素材である魔法石系はもうドロップしている。急いで次の階層にゆく理由が、自分の欲望しかない。


 55層、11層以降に進むと言って作ってもらった防具は、とっくに更新しているのが妥当だ。それでも進めてしまうので、つい進んでいたが。うむ、新しい防具ができるまでは諦めて真面目に低層をこなそう。


 そう反省して、先に進む。弁当持ってきたしな、今回の予定時間までは進むとも。

 『荒節』『枯節』『本枯節』『あごだし』。いや、あの。削ってない鰹節なのも、だし巻き卵が作りたい放題になったことも分かったが、鰹節シリーズの違いがわかりません。


 いかん、調べねば。関前さんのところに持ち込んで、ついでに使い分けを教えてもらおう。

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