第96話 政府の勇者

「オオツキさんって新潟にいたんですか?」

「たまたまだな、前職はあちこちに移動生活だ。【収納】持ちは、ダンジョンからダンジョンへの長距離移動で荷物の運搬が金になる」

ユキに答える。


 前半は本当、後半は一般的な事実。


 いや、ついでにとばかり詰め込まれたというか、たまに使う対外的な身分は政府系の運搬人だし、それが本業だったと言って差しさわりないな。


 なんかそれだと配達に行く先々で、リトルコアにあたる人のようになってしまうが。


「天魔、格好よかった?」

「よく分からん。最初の回復・・・・・は、生産者も出て来て大勢いるからな。むしろ映像で見る方がよく・・見えると思うぞ?」

映像ならば変なフェチ持ちだとわからんし。


 回復行動を取ると魔物に狙われる。それを利用して、リトルコアを誘導するのである。もちろん『政府の勇者』が来る前も、地元のダンジョン攻略者がリトルコアの足止めや、人家のない方への誘導などをしているのだが、『政府の勇者』が配置についた時一番派手に回復が行われる。


 リトルコアにダメージを入れられない自覚のある者たちは、少しでも協力――と見せかけて、ドロップカード狙いで『回復薬』を投げまくるのである。真面目に協力しとるのもいるのかもしれんが。


 回復した者たちも含めてリトルコアを含む魔物の敵視を上げる行為なため危険を伴う。ただ、リトルコアから離れた場所での最初の回復行動くらいはリカバリが効くし、『政府の勇者』の元へリトルコアを誘導するという目的もある。


 深い層のドロップカードは政府にとっても有用であるし、どうせレアドロップ率が下がる5人以上にはなるので、参加は多い方がいいのである。派遣されて来た人たちもそれを承知で、少しダメージを負っている状態だったりもする。


 このサービスは海から人の住む地への距離があるとか、余裕があればの話だが。それに、回復に参加する数が数なので、ドロップカードがもらえる率はそう高くない。


 なお、獣牙皇帝龍天魔王くんは出動前に私が踏んだ。ドロップカードを手に入れた人は感謝して欲しい。


「探せばオオツキさんも映ってる?」

「どうだろうな? 少なくとも自分では見つけられなかった。撮影は大抵勇者を中心に撮すものだろう?」

レンに答える。


 回復行動には参加していないので、絶対映っていない。私はその時、戦闘のための位置どり中である。


 戦闘中は勇者とセットで送られて来た政府の人間が撮影者だ。戦闘に参加するのならばともかく、撮影している一般人がいたら戦闘の邪魔だとすぐに排除される。


 リトルコアの周りはダンジョンと同じく、ダンジョン用の機材が必要であり――【収納】持ちでない限り、いつ起きるかわからん撮影のために機材を持ち歩く者はあまりいない――、そして撮影者の周りには撮影している映像のウィンドウが浮かぶ。隠し撮りというのはかなり難しい。


「確かに天魔様以外の印象は薄いわね……。視聴者も天魔様が映っている方が喜ぶけれど」

テンコが映像を思い出しているのか黙る。


「そういえば勇者以外も戦闘する人たくさんいるよね。同じ格好してるせいか顔の印象ないや」

「『勇者』を除いたら、普通の攻略者の活躍の方が目立ちますね」

レンとユキ。


 地元の勇者や勇者未満の攻略者を目立たせることは政府の方針なので、ユキの感想は正しい。


 海底などの確認困難な場所でのダンジョンの氾濫、外に溢れ出たリトルコアの上陸。リトルコアの周囲では、ダンジョン内と同じ現象が起きる。リトルコアのコアが、ダンジョンコアと同じ役割を果たすのだろうという推測。


 リトルコアにその個体のレベル以下の魔物が付き従い、能力を振るうが、人々も『化身』に変わることができる。『化身』に変わることができる距離で、どの層のリトルコアなのかおおよその判別がつく。


 リトルコアが上陸して来た時、私の仕事は『勇者』のフォロー。目立つべきは『勇者』で、『政府の勇者』だけでなくそれは他の『勇者』も同じ。


 やることはリトルコアの致命傷になりそうな能力の発動を、周囲に気取られずに止めること。


 回復を担うことは滅多にない。他に『回復薬』を投げるような者が周囲に複数いること、自分の位置が周囲から分からないこと。なかなか条件が厳しいので、勇者たちの怪我は大抵スルーである。業務外なんで自分たちで何とかしろ。


 あくまでもリトルコアを倒すのは『勇者』でなくてはならない。全国に頼りになる勇者が複数いる方が住民は安心して暮らせる。……という建前。


 私の普段のダンジョンでの仕事は、堕ちた勇者とかの化身の剥奪という名の暗殺任務だったので、普通に顔出しはNGである。もともとそっちが仕事のはずが、外の手伝いにも派遣されるようになったという流れなので、隠れる方向でいた。


 目立つのは鬱陶しそうだったし。交流はないが、おそらく私のような立場の者も何人かいたはずだ。


 思い返すと、私大分使い倒されてるな? そのぶんもらう物をもらったのでいいが。若いうちに働いて後は悠々自適のスローライフ――のはずがダンジョンをくるくるしている現在。なかなか思い通りにいかないものである。


「それでも天魔様の一助となれるなんて……。私だったら一生の思い出にするわ」

ほんのり頬を染めるテンコ。


「一助もなにも、回復薬を持ってる奴は投げまくるんで、よくわからんことになってるだろうあれ」

思わず突っ込む私。


「いいなあ、150超えのリトルコア、勇者との共闘」

レンはなんか少年漫画的な憧れの様子。


「僕らも5年内に強くならなくては……」

ユキが呟く。


 ユキとレン、イレイサーの対象も『勇者』である。確か110層のリトルコアだったな。階層イコール魔物のレベルなのだが、道中の一山いくらの魔物とリトルコアとでは違う。101層の魔物より100層のリトルコアの方が強い。


 『政府の勇者』の派遣なく、110層のリトルコアに勝ったならばそこそこ強い。その時の配信を見る限り、挑んだのは大勢だったが。


 外での討伐はダンジョン内と違い、大人数での討伐となりがちだが、レベルの高いリトルコアに大きなダメージを入れられる者は少ない。


 そして倒したリトルコアのドロップでさらに装備を整えているはず。


 がんばれイレイサー。とりあえず応援はしているぞ。

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