第103話 設備の確認
黒猫の台所を漁る。
ファイリングされた説明書を見る限り、精米機はある。説明書を片手に棚の扉を開けて中身を確かめている。
よくよく見れば、棚や引き出しに小さな番号プレートが付いており、ファイリングのガイドの番号と対応しているため、見つけやすい。
黒猫、整理整頓得意なのか?
精米機のほか、色々な道具がある。家を建てる時、散々家電のカタログを見たので、全部最新モデルっぽいことがわかる。そして、使いこなせそうにないものもある。
蒸し器でさえ、仕舞うと使わなくなるというのにどうしてくれよう。とりあえず使いそうなものは、カウンターに並べておこう。幸い、広いしな。
すでに水を張ったボウルに玄米を突っ込んでしまったので、1回目は玄米ご飯でいいだろう。
漬物をつけて、魚を捌いて寝かせ――色々仕込む。小鉢で出せるようなお菜もいくつか仕込んで、冷蔵庫へ。この辺は私の弁当にも詰める予定なので多めに。
肉の塊も冷蔵庫へ。これは市のダンジョンで捌いてもらったもの、余分な脂身と筋を落として綺麗にしてある部位をいくつか。
ダンジョンの浅い層で落ちる肉は、大抵不味いわけではないが脂が少ない肉。肉のドロップは多いので、家庭にドライエイジング用の冷蔵庫がある家もちらほら。
が、私のダンジョンのドロップはサシの入った脂の多い肉が多く、そういった肉は熟成の方法を変えなければいけないと、解体してくれた人が言っていた。
「おう!」
台所でごそごそやっていたら黒猫が来た。
「来たか」
「来たとも!」
「では作り始めるから待っていろ」
黒猫を待たせて、料理を始める。玄米は浸水時間が全く足りない。これは私の夕食に回そう。
精米機に米を突っ込みつつ、何をつくるか考える。調味料の類が揃ったので、前回よりはできるものの幅は広い。
が、仕込み途中だし、あまり待ち時間が長くなるものもパスだろう。前回は魚だったし、今回は肉。飯も炊くしカツ丼でいいか。
割下、だし4・醤油1・みりん1。だしを作るところからだぞ? 簡単だが、昆布を戻す時間がかかる。ただのロースカツに変更だな。だし汁も作り置きできるよう、ガラス瓶を買ってこよう。
ガラス瓶は作れるのだが、生産器具的に小さいものしか作れない。完全に薬特化で、薬瓶以外のサイズを作る気がないのである。
先ほど冷蔵庫に入れた肉から豚ロースを取り出し、使う分を切り分け、常温に戻しておく。まあ、入れたばかりなので冷えてはいないが。
『パン』のカードから、食パンのシルエットをしている物を選び、【開封】。おい、四角いデニッシュやめろ。
パンのカードは2から5の数字。一番個数が少ない2のカードを開けたらこの様である。もう一つ【開封】で無事、食パンを手に入れる。
適当にちぎってミキサーにかければ、パン粉はこれでいい。うっかり出したデニッシュ2斤はどうするか。食パンも3斤あってキツいんだが。黒猫、食うか? まあ、午後から市のダンジョンに行って誰かに押し付けよう。
……キャベツがない! 完全にある気になっていたが、ダンジョン産キャベツがない。いかん、どうしよう?
カツサンドに再びの変更。炊いた飯は、焼きおにぎりの下拵えして、冷凍しよう。食パンも消費できて、いいことだ。
「できたぞ」
カツサンドとサラダ、ついでに揚げたエビフライ、カボチャの冷たいスープ。および、72層のドロップ『ジャーマンピルスナー』。
「おう! これなんてーの?」
黒猫が一口齧りながら聞いてくる。
「カツサンド。しばらく時間を置いてしっとりさせるとパンと一体化するんだが、揚げたてはこれはこれで美味い」
飯と合わせたくなる感はあるのだが、ビールを飲むとこれでいい気分になる。
肉はしっとり柔らかいが、パンとの調和は考えずカツを分厚くしたので、食べ応えがあり、一口あたりの満足感が高い。
『ジャーマンピルスナー』はホップが全面に出ていて、リッチでドライ。すっきりとした後味なので、揚げ物の脂と濃いソースの味を流してくれて、料理の次の一口を早める。
「あー、いいなあ。料理ってやっぱり美味しい方がいいな。生産レベルが高いほど、不味い料理にするんだもんなあ」
黒猫がぼやく。
「目的が違うからな。味より効果を求めているのだろう」
【生産者】の作る『料理』は、能力や耐性などの上昇効果を持たせることができる。レベルが高くなるほど、その効果を高めるため、味は捨て置かれることが多い。
浅い層に行く勢は『ブランクカード』に【封入】なぞせんで、そのまま持っていく者も多く、別に【生産者】が作った弁当でなくともいい。
が、黒猫が関わるのはイレイサーかその協力者。能力上昇の効果目的が多いのだろう。だって、ダンジョンの外では普通の飯が食えるわけだし。私も200層以降目指せと言われたら、それなりに不味いのは覚悟してボス前は食うだろうし。
「はぁ〜。幸せ」
黒猫がビールに抱きついてくねくねしている。
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