第131話 90層リトルコア
90層のリトルコア。
巨大な黒猫……じゃないな? 耳と体型的にジャガーか? チーターやヒョウはもう少し細いはず。
何かの魔物を模したスライム。猫系の魔物は速い、90層なら私の方が速いはずだが気をつけねば。
魔物の荒い呼吸まで真似ているのか、スライムのくせに口を開き、喉が動いている。
苦無を真ん中よりやや左に投げ、リトルコアが避け易い方向を作る。避ける先に駆け込んで――いや、普通に苦無が当たったな?
それはそれで隙になるので、刀で斬りつける。【天地合一】を発動、スライムの核の場所を探す。
頭と胸に1つずつ。
他の魔物の姿を借りているが、スライムなのは変わらない。斬った手応えがなんとも微妙。
「……」
スライムなので叫び声もない。
飛びのいたスライムの背中が、波立つように震えただけだ。
さて、どうしたものか。【天地合一】で感じた胸の核は、スライムの呼吸のような動きに合わせて上下に動いている。
頭にある動かない核を狙うのは簡単。だが胸の核は、苦無では少々狙いにくい。見えていない上に動いているのは厄介だ。
こいつの攻撃はどうやら速さに飽かせた物理攻撃。ただし、前職時代にレベルアップ時の能力をほぼ速さに振っていた私よりは、少し遅い。
それでも少しであることにレベルアップの困難さと、思うようにいかない能力の上昇を痛感する。
今は黒猫のおかげでレベルアップをするが、速さだけを選べない。刀を振るい損ね、手首を痺れさせているような力ではさすがに心許ない。
ずっと走っているだけで、体力もすぐ減り始めるし、頑健さも上げねば。忍び寄って暗殺する対人メインだったんで、力や頑健さ、体力はあまり必要としていなかった弊害である。
勲章の付与の底上げは大きかったなと思いながら、苦無を投げ頭の核を破壊、怯んだところにそのまま踏み込んで、下から擦り上げるように胸を一閃。
刀の攻撃が弾かれないことは、先に確認している。速さの付与をなくしても、速さに慣らした目はそのまま。避けることも、相手の動きと速度を予測することも今の所問題ない。
弱点のはっきりした魔物は対処が楽だ。特に弱点が致命傷になる魔物は戦闘が早くていい。
リトルコアの散る光を受けながらそんなことを思う。
そしてレベルアップ。
リトルコアのドロップカードより近い位置、私の目の前に4枚のカードが出現。
【椿】【藤】【桜】【梅】。
1枚目、【桜】の速さを望み、得る。2枚目、【藤】の頑健さを望み、地の属性を得る。
ままならないものだが、属性が上がるのは悪いことではない。何がどう対応するのか忘れたが、一定以上属性値が上がると、気力回復が早くなったり、防御力が上がったり、スキルの発動速度があがったりと様々なことが起こる。
ただ、一定以上を超える前にレベルアップが頭打ちになってしまう罠があるので、嫌がられている。
『生命』『体力』『気力』『頑健さ』『力』『速さ』の基礎能力が上がった方が、分かりやすく結果がでるので喜ばれるのだ。
さて、リトルコアのドロップは何だ?
道中で出た触媒ですか、そうですか。いらん。
珍しく毛皮が出たので、これはツツジさんかアイラさんへ。毛皮はどちらの扱いになるのかわからん。毛皮といえばコートや襟巻きなので、アイラさんな気がするのだが、毛
個人的に『帰還の翼』が出たのは嬉しい。これも999の数字がついてほしいところだが、単独でしか出ないのである。残念。
さて、今晩はここに泊まり。
90層のリトルコアの部屋で焚き火をする、そして黒鮑を焼くのだ。キャンプ用の焚火台なので、網と鉄板がセットであるのである。この場合は鉄板だろうか。
どうせ蒸すための蓋的なものはないのだから網でいいか。
焚火台を広げ、苦無で薪を削る。
ファイヤスターターで火熾し完了。薪を追加して、火が落ち着いてきたところで網の真ん中に黒鮑を設置。
パンを持ってきたので醤油はないがバターはある。菓子パンだったせいで使っていないが。
『栃木の地酒』の1の数字のカードを【開封】、四合瓶が手に現れる。飲むのではない、ダンジョン内は禁酒だ。これはバターと共に鮑に掛ける用。
シシャモも焼きたいが、マヨネーズも醤油も塩もない。おのれ……っ。まあいい、じゃがいもを焼いてラクレットチーズをかけよう。
あとはテンコのダンジョンに持っていったおにぎりの残り。料理の系統がバラバラだが、食いたいのだからしょうがない。明日は99層まで進みたいところ。
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