第114話 スローライフ
鮎を食べ、解散。残った魚のうち、何匹かもらって帰る。
鮎の数は、甘露煮にする手間を考えると少ない。これも塩焼きにして食ってしまうのがいいだろうか……。ああ、焼いて鮎飯にするか。
イワナとヤマメの食べ比べもできたし、上機嫌である。
一馬たちが魚を獲った網は、ホームセンターに売っているらしい。買ってきて、もう少し鮎が大きくなった頃に仕掛けてみよう。
軽く汗を流して、着ていた物一式の洗濯。ふと気づくとバーベキューの煙を浴びた自身が臭かった。洗濯の間にビールを開ける。
1本飲んだ後だが、あの場所、あの面々では落ち着かなかったので口直し。単純にシャワーを浴びてもまだ体に熱がこもっているのもある。自分が炎天下でバーベキューをやる人間だとは思っていなかった。
塩焼きにしとる間に流れるように肉と野菜が追加されて、立派なバーベキューだったな。一人、外で肉を焼くのとは違う陽キャの所業だ。
とりあえず半年後、無花果を植える手伝いの約束もとった。草取りマスターが忘れても、私は覚えているぞ。
ビールを飲みながら、無花果について調べる。
病気の類はとりあえず、水捌けと風通しがよければ当面は大丈夫そうだ。害虫は――
カミキリムシ、ハダニ、アザミウマ、アブラムシ。アブラムシ!!!! 貴様、無花果にも付くのか!!
スズメバチは書いておらんが……。ああ、実がなってからか。スズメバチと鳥と蟻との争い? 蟻は粘着テープを巻いておけ、と?
もしかして実がなる木はハードルが高いのだろうか? 柿の木が一本残っていて、何の手間もかけていないのになっていたのだが、もしかして運がよかったのか?
確かに鳥は来ていた。だが、私は固い柿がよく、熟した柔らかな柿は好かんのでそのまま食べ放題にしていた。単純に食いきれんほどなっていたのもあるが。
木守りの柿という風習がある。実を収穫する時に木に1つ2つ残しておくことを言うらしい。 鳥のため、旅人のため、柿の木への感謝、来年もまた実がなるようにとの願掛け、色々な意味があるようだ。
だがしかし、無花果は鳥に根こそぎ食われるのか。草取りマスターの家の無花果も今はもうないというし、もしや実がなる木の中でも育成のハードルが高い木なのだろうか。
まあいい、半年は先の話だ。それまでに私の植物を育てるスキルを上げておけばいい。自信はないが。
もうじき陽が落ちるので、家の中に洗濯物を干す。そのために脱衣所が広いのである。洗濯のついでに軽く拭き掃除をし、本日の家事はこれでよしとする。
メールとオークションのチェック。旧職場関係者からのメールもなく、オークションの方も目立った動きはない。
暗殺対象者――ではない、イレイサーの対象の配信チェック。こちらは、少し前と比べると勢いがなく、ダンジョンを攻めあぐねているようだ。
コメントによると落ちているのは、ドロップの種類、クリティカル率、選んだ道の先の結果。
クリティカル率というのは通常攻撃より大きなダメージを与えられること。そのような能力もあるようだが、コメントを見ているとどうも能力ではないらしい。
偶然に頼ってダメージを叩き出していたのか? 理解できないんだが。以前の職場でも弱点をついての大ダメージをクリティカルと言って喜んでおったのがいたが、偶然に頼らず最初から弱点を狙えと思った記憶。
――イレイサーの対象は、クリティカルは置いておいて、やることなすことダメな方を引いているようだ。
私がこいつらの存在を知る以前の動画と、それ以降の動画で偏りがひどい。以前の幸運で成り上がったような部分は、イレイサーが選ばれることになったダンジョンの禁忌に触れた結果で、最近のことは黒猫が絡んでいるのだろう。
相変わらず個人情報を垂れ流した動画だなと思いつつ、終了。
チェックの後は、本を読んで1日が過ぎる。一応スローライフなのか? 定義はなんだ? 時間を気にせず、ゆっくり生活を楽しむ?
時間というか、暑くなる前に外での活動を終えようと、アホのように早起きになっとるが。
とりあえず、この場所に引っ越そうと思った当時の沢の鮎を外で塩焼きは達成したのだが、スロー判定難しいな? あの野生児の姿がスローライフとは思いたくない。もっとこう優雅なものではないのか?
理想と現実のすり合わせが難しい。だが、まあ、好きな時に酒が飲めて、好きな時に眠れるのだからよしとしよう。
そう思いながらベッドに入り、就寝。
翌日は薄明の中、沢登り、菜園の手入れ、水遣り、暑さに耐えられなくなるまで草取り。朝から暑いのは勘弁していただきたい。
飯を炊く間にシャワー。ビール2本ほどは、飲んだ翌日にカウントしないのである。ビスケットと牛乳ではなく、普通に食う。
なめこと豆腐の味噌汁、おかずは冷蔵庫から適当に。梅干し、昆布の佃煮、頂き物の漬物、塩鮭切り身の半分、卵焼き、金平牛蒡、青菜のおひたし、苺。一品ずつ入れた小皿を盆に並べるとそれなりに見える。
昼は鮎飯を作って、夜は何を食うか。だいたい行動の軸は食事だな、我ながら食い意地がはっている。
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