第113話 相談のゆくえ

 アユ以外の魚、イワナとヤマメは滑りをおとし腹を裂き、とっとと内臓を取り出す。いや、待て。炭火でじっくり焼くと、2時間近くかかるのではなかったか?


 焼けるまでどうしろと? 話すことなぞないぞ。


「肉、お待たせ〜」

一馬が肉を持って戻ってきた。


 そしてどうやらダンジョンで自分でドロップしたもののようで、ブロック肉をいくつか。うちのダンジョンと違って、市のダンジョンは部位ごとにドロップする。


 そう言うわけで切るところからである。これは一馬が慣れていたのでお任せ。ステーキのように分厚く、焼肉用に薄く。


 凍った肉をスライスするのは楽なのだが、常温の肉は切りづらい。だが器用に切り分けている。


 私は隣で玉ねぎやピーマン、とうもろこしを切っている。シシトウはそのままでいいだろう。


 牛肉はすぐ焼ける。


「そういえば、滝月さんがここに移住してきたのって何で?」

蓮が肉を食いながら聞いてくる。


「食材が豊富だからだな。ダンジョンから手に入る肉の種類、外で育てられる野菜の種類――と、もしダンジョンが崩壊した時、範囲に入らない場所を検討した」

最初は無謀にも自給自足で野菜を賄おうとしていた。


 今思えばなんという無謀。まあ、上手くいかなかった時のためにポーションの【生産】という保険はかけていたが。


「酒の落ちるダンジョンと迷ったのだが、そちらのダンジョン周辺には大抵クマが出るようでな……」

ダンジョン内でなら大抵のものは何とかなるが、外のクマを相手には無力である。


 日本刀があれば何とかなるかもしれんが、それを持ち歩いていたら私が捕まってしまう。


「食べ物目当てだったんだ?」

「ああ。自給自足は諦めたが、柊さんと佐々木さんのおかげでなんとかやっている。肉も美味いな」


 ところで。


 私に探りを入れているつもりなのかもしれんが、貴様らが越してくるより先に土地を買い上げて家は着工していたんだから、ダンジョン&ダイブから派遣されたとかは成立しないぞ。早く気づけ。


 それとも本人たちが決める前に帰ってくることを見越して、柊さん宅を見張っていたとでも思われているのだろうか。


 そして面倒になって口調が素なのだが、オオツキと同一人物だといつ気づくんだろうこいつら。


「あ、シシトウ焦げるの早い!」

「こっちも焼けてるよ、蓮」

「少々煙いな」

「虫除けになっていいだろ」


 いい肉なのだろう、油が垂れてもうもうと煙が上がっている。そしてその煙が動く椿を追っているように見える。


「焼けたものは、炭の少ない方へ寄せろ」

そのために網の下の炭を少なくした場所を作ってある。


 差し入れに持ってきたビールが、氷水を入れたクーラーボックスに冷えている。一度渡したものを私が最初に開けていいものだろうか? 


「おっと、滝月さんから差し入れのビール!」


 判断に迷っていたら、一馬がビールの存在を思い出した。さすが草取りマスター! ……今、草取りは関係ないが。


「乾杯しようぜ、乾杯」

ビールとコーラを配る一馬。


 コーラは誰の提供だろうか。手作り品にしては缶入りであるし、市のダンジョンではドロップしないので、わざわざ取り寄せたことになる。 


「滝月さんはどちらを飲むのだ?」

椿に聞かれる。


「私はビールを」

コーラも気になるが。


「差し入れ、ラムネかコーラか迷ったんだよね」

「気が向いたらコーラも飲んでください」

そう言って笑う蓮と雪。


 どうやらコーラは双子からの差し入れのようだ。と、すると双子のどちらかのダンジョンで出た可能性もあるのか。


 缶を掲げて形だけ乾杯に参加し、再びの肉。食べすぎると鮎が入らなくなるので慎重に。


「ところで冬に無花果いちじくを植えようと思っているのだが、何か注意はあるだろうか?」

あの畑予定だった場所に、食えるものを!


「どの辺に植えるんだ?」

「庭から降りてすぐの、元畑だったという場所に植えようかと思っている」

あそこならば、木が大きくなっても上から収穫できる。


「根が石積みを壊さないよう対策すること、猪がくるから肥料をやりすぎるなくらいかな?」

「猪が無花果に?」

一馬に聞き返す。


 根は対策するつもりでいたが、肥料?


「栄養豊かだとミミズが大量に集まって、そこに猪がくるんだよ。ミミズは猪の好物なんでな。山の中に何か植えるのならば、肥料は少なめにしといた方が無難だ」

「そんなことが……」

うっかりたっぷりやるつもりになっていた、危ない。


「無花果か〜。木に登って食べた記憶と、カミキリムシとスズメバチの記憶しかないなあ」

「スズメバチ……」

蓮が嫌なことを言う。


「植えれば完熟が食えるしいいんじゃないか? 無花果は傷みやすいから売ってるのは、味が薄いやつばっかだし」

「うちはカミキリムシで切ってしまったが、対策すれば大丈夫だろう。一馬に手伝わせる」

さらりとまた弟を差し出してくる椿。


 カミキリムシは対策がありそうだが、スズメバチは? まさかアブラムシや夜盗虫に次いで、カミキリやスズメバチに殺意を抱く日々が来るとか言わないよな?

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