第75話 63層へ進む

 バナナのカードを定期的に纏め売りすることを約束し、市のダンジョンを後にする――前に買い物。


 減っている薬と弾丸用の素材、自宅用とダンジョンの弁当用の食材。ダンジョンの1部屋目用の料理道具。外のホームセンターで、追加のカード整理用の箱、ブロッコリーとキャベツの苗を2つずつ。


 ニンジンの種はもう蒔いたが、出た芽は果たしてニンジンだろうか。不安なまま見守っている。


 培養土2袋と肥料、消毒薬。無農薬は無理です、虫が無理です。育つ前に少し使うくらいは許容範囲です。アブラムシにも絶滅してほしい。


 豆腐屋に寄って、油揚げを購入。分かってはいたが、豆腐は売り切れ。


 家に戻って苗を植え、いくつか野菜を収穫する。新しい装備を手に入れたので、今日から――は、もう夕方なので明日の朝からダンジョンの新しい層に進む予定だ。


 薬類の納品やら作り置きは昼間に済ませた。飯を食ったら少し弾丸を作って、早寝をしよう。弁当の用意もしておかねば。


 機嫌良く夜を過ごした翌朝。


 日課の散歩をすまし、朝飯。昨日は呑んでいないので、体を動かした後だし普通に食う。冷蔵庫を開き、保存袋を取り出す。作ってもらった西京漬けの中からサワラを選ぶ。


 ご飯と味噌汁、サワラ、チーズ入りのサラダ、漬物。味噌汁は油揚げと蕪。


「……」

いかん。


 西京漬け、漬かりすぎた。味が濃くて美味いというか、断然酒だろうこれ。朝飯はもっと薄味で頼む。


 朝っぱらから酒を飲みたくなりながら、白飯で食う。一膳分、一膳分しか炊いてない。


 思わぬ罠にはまりかけたが、誘惑を退けダンジョンである。楔を打ち込んだ60層のボス後、61層から。


 鯛、ミツバ、ハム。さっさと下に行きたいので、階段を探す。


 次のスライムは、オオカミっぽい何か。また模倣型かと思いつつ、【天地合一】を使う。上に戻るのが面倒なので、なるべくダンジョンに長くいたいのだが、使いこなせるようにならねば。幸い、気力の消費は多くない。


 核の場所が分かれば、スライムを倒すことはそう難しくない。核の場所を探るための【天地合一】は、強化してだいぶ使い勝手が良くなった。魔物に触れていないと解らなかったものが、20センチ離れていても分かるように!


 たかが20センチと言うなかれ。スライムは、衝撃を与えると核が内部で移動するパターンが多いのだ。深い層の魔物ならば尚更。


 まあ、姿を模倣しとるスライムは、最初は模倣した魔物の弱点の位置に核があることが多いようだが。オオカミだとやはり心臓の位置かな?


 硬化するスライムもいるが、【苦無】の貫通属性はこれでもかと強化している。リトルコアのようなデカブツであれば別だが、このサイズの魔物ならばよほどでない限り貫通できる。


 先々のために日本刀の修練もしなくてはいけないのだが、今は先に進みたいのである。


 ドロップは『炭酸水』『重曹』『クエン酸』、『軟水』『中軟水』『硬水』、『塩酸』『硫酸』『硝酸』。――料理素材! と思っていたら3匹目のドロップが混ぜるな危険だった。


 これはもう水のために次回からは殲滅コースだなと思いつつ、倒してゆく。80層まで進め、60層から80層を何度か繰り返し、その後100層まで進むつもりでいる。


 このあたりの階層からリトルコアの強さが段違いになるので、使えそうな魔物の能力を奪って貯めておきたい。


 63層。


 『山口の地酒・1』『三重の地酒・2』『福井の地酒・1』。


 おい。過去の私、なんで61層で止めた!? ただの日本酒じゃなくて産地指定なのか! なんだ後ろの数字は、絶対数字で種類が違うだろう!? 


 酒の出るダンジョンはあるが、『大吟醸』とか『芋焼酎』などとざっくりした分類のものが出ることがほとんど。その土地で造られていた酒が出るダンジョンもあるにはあるが――少ない。


 これ、進めば日本各地の地酒が出るのか? まずはさっき地酒を落とした小鬼を倒さねば。気合を入れて魔物を倒す。


 幻覚を見せる靄を吐く貝のような魔物がいる中、魔法を放ってくる小鬼のような魔物と戦闘。放ってくる魔法が違うので、小鬼は数種類いるようだ。


 『カンパチ』、『クロミルガイ』、謎の『プレ・サレ』。違う、そうじゃない。


 普段ならカンパチもクロミルガイも嬉しいが、今はそうじゃない。主に酒を落とす小鬼を倒したいのだが、見分けがつかん……っ!


 まさか酒を落とす小鬼、レア魔物とか言わないよな? 黒猫、信じてるぞ!

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