第17話 レベルアップ

 よし、昼休憩! 漬物と焼きおにぎりを食べて、ざっと汗を流し、さっぱりしてソファで昼寝。


 小一時間で起き出して、作業の続きをするつもりだったんだが、うっかりたっぷり寝た。ついでに起きようとしたらぷるぷるした。荷物を持っての階段往復による軽い筋肉痛。生身の体力がなさすぎ問題。


 さっさとダンジョンに入り、変転。ぷるぷるから解放される。さすがに少し真面目に運動するべきだろう、このダンジョンを貰えたのはいい機会だ。苦無は控えて、刀を振るおう。


 1日1層、5日目にしてアジが復活したため、1層から9層をウロウロしていた。


 イレイサー側もせっせとダンジョンに通っているらしく、物を共有する箱に素材系のカードが詰め込まれている。二人がかりとはいえ、大部分をこの箱に詰め込んでいるのではないだろうか?


 余ったのは好きにしてくれとメッセージが来ているが……まあいいか。


 1層、アジ。2層、グリーンスライム。3層、鶏。4層レッドスライム、5層、玉ねぎ――ではなく、青虫。6層、グリーンスライム集団(5匹から6匹)。7層、アジ集団。8層レッドスライム集団。9層、鶏集団。


 こんな感じで大変規則正しいパターン。10層はリトルコアなので野菜類は出にくいようだ。


 グリーンスライムの落とす薬草は傷薬、レッドスライムが落とす赤っぽい薬草は体力回復薬に使う。今のところ、豚肉を購入するついでに、町のダンジョンに出向いて作っている。


 そしてレベルアップ。頭の中に響く軽やかな音と、目の前に浮かび上がる四枚のカード。


 ダンジョンでは魔物を倒し続けると、レベルアップという現象が起きる。それこそゲームのように強くなれる。


 私がこのダンジョンでレベルが上がるのは2回目。さすが能力そのままにレベル1状態、上がるのが早い。ただ、冒険者カードにあらわれているレベルは変わらず、能力などが上がっていくので、なんとも不思議だ。


 宙に浮かび、淡い光を放ちながら、ゆっくりと回るカードには花の絵。【菊】【椿】【桜】【梅】。

 

 選ぶのは【桜】と【梅】、期待するのは『速さ』と『能力』。


『桜、速さ』

『梅、能力』


 おお、珍しく両方希望通り。2枚のカードは光の粒となって懐中時計の中に吸い込まれた。うん、レベルアップがあると気分が高揚する。


 上機嫌で鶏を狩り、『白地図』を見ながらまだ足を踏み入れていない場所を探し、9層を埋めてゆく。


 で。


 若鳥だらけになったので、柊さんにお裾分けしたいのだが、私の予想通りに柊さんの孫2人だった場合、色々バレる。人付き合いが大好きな人種には、バレて何か問題があるのかと聞かれそうだが、私には今の淡い交流程度がちょうどいい。必要以上に関わること自体が不具合だ。


 迷った末に差し入れをやめる。当初の目標通り、何か柊さんと被らない野菜ができたら差し入れる――それまでは町のダンジョンの少しいい肉を買って差し入れることにする。


 だが、ギルドに売るだけでなく、珍しいドロップ品を見せびらかしたい気持ちも少々。我ながら厄介だ。


 最初の部屋でドロップカードの整理。作業台の上でカードを分けてゆく。素材系のカードは【収納】に突っ込みっぱなしになりがち。以前はリトルコアか対象を倒したら整理する、と決めていたのだが、現在はどっちも機会が遠い。


 このダンジョンのリトルコアを倒すのは、防具ができてからだ。まあ、ダンジョンの最初のリトルコアなら、おそらく攻撃を食らうこと自体がない気はするけれど。


 装備の揃わない今、防御力はどうしようもないが、速さだけは元のままだ。いや、速さも装備の付与分失っているが。整えられる準備は整える主義だ。一応、苦無に塗る毒も用意したが、必要はないだろう。


 それはともかく、カードだ。すでに作業台からはみでそうなんだが……。


 食材は『マアジ』『アカアジ』、『若鳥』、『卵』、『玉ねぎ』『新玉ねぎ』。素材は『ウロコ』、『羽根』、『麻』、『薬草』、『赤い薬草』『スライムの粘液』『スライムの粘膜』『鉛』『銅』、『魔石』、『オパール』。


 攻略系カードは『覚えのくさび1』が2枚に、『強化』が1枚。あとは『魔石』が少々。


 ……このダンジョンで出たカードで強化しても、強化分が消える可能性があるのだが。新しく手に入れた武器防具に使うべきか? だが、それに慣れずに結局元から持っているものばかり使う可能性もある。


 迷った末にコートに使う。【収納】がこの先どうなるのかちょっと興味もある。『強化』のカードは出にくいのだが、こんな浅い層でも出るということは、黒猫の言う通りドロップ率が上がっているのだろう。……たぶん。せっかく家にダンジョンがあるのだ、せっせと回ろう。


 『オパール』はオパールだ、ドロップはグリーンスライムから。これも稀にしかでないが、価値はそうない。


 宝石の類は浅い層でも出るが、小さい上に透明度がなく、輝きもよくない。おそらく本来は宝石には分類せずにおくようなランクのものだ。深い層のものはまさに宝石、という感じでコレクターもいるのだが。


 とりあえず宝石の類は魔石と同じく、集めれば生産に使えるのでとっておく。ここまで細かく、不純物が多い石だと成功率が下がるのだが、かえって練習になっていいだろう。


 『鉛』や『銅』なども小さく、集めて使いやすいように加工するところからなのだ。本当は売り払って、スキル持ちがインゴット状態まで加工したものを買ってしまったほうが楽なのだが、慣れない作業がゆえに一通り覚えておこうかと。


 【正確】は成功したこと、覚えたこと、反復したことに補正がかかる。【生産】は本職でないのだから、上手くできるようになるまで時間がかかって当然だ。覚えた後は失敗なくきっちりできる、代わりに突出していいものというのはできんが。


 売るものと取っておくものを分けて、【収納】しなおす。私がきちんと把握した状態で入れれば、出す時も瞬時に選び取れる。こちらも【収納】の強化分岐でとった機能だ。

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