第36話 踏ん切り

 市のダンジョンに寄って、薬の納品、販売カードの確認と補充。


「またよろしく頼む。それと、こっちはオークションに流して欲しい」

生産品の納品ブースの机にカードの山を二つ。


 頼むのは藤田さん、今週は午後からの勤務だそうだ。ダンジョンの勤務は4交代、土日は昼間も職員の人数を増やすが、平日は冒険者が多い夕方からの方が職員も多くいる。


「はい、登録してしまうのでお待ちください。オークションに流す方は、説明はどうしますか?」

「大きさにばらつきがあります、で頼む」

出すのはトリュフ系のカード、とりあえず様子見。


 使わないカードを抱えているのも馬鹿らしいし、鷹見さんの勧めにしたがって、オークションに放出することにした。物欲も満たしたいしな。


「全部同じでよろしいですか?」

「ああ」

藤田さんがカードを数え、ノートパソコンに打ち込み始める。


 本当は私がオークションブースで打ち込んで、その書類にカードを添えて提出するのだが。


 藤田さんに書類を見せられ、カードの名称と枚数、販売形式を確認し、間違いがない旨告げて、手続きを頼む。私が言った品物の説明より丁寧に記載してくれている。


 お礼を言って終了。そのうちまた何かのカードを進呈しよう、毎回送って藤田さんの負担になっても困るので、オークションで高く売れたとか、何か理由がつけやすい時に。


 その後は弾丸の素材と肉類の購入。そして外でクーラーボックスの大きいものを買って、冷蔵庫を注文する。


 魚を寝かせることを考えると、どう考えても必要なので。大型家電は値段も配達料もなかなか。夜にはオークションで出ている、カウチソファに入札するつもりでいる。冒険者ギルドのオークションはカードで届くので、当然【収納】できる品だ。


 家に戻って冷蔵庫に包んでもらった鮭と筋子をしまう。イクラの醤油漬けのために、漬け汁を作って冷ます。


 ここまで準備したところで、18層まで駆け降りる。


 天ぷらにできるような白身の魚を鷹見さんに頼まれているし、赤身の魚で寿司や刺身に色を添えたい。正直、肉はこれ以上何が出るのだ? と思わんでもないが、深い層で地鶏とも再会したい。


 魔物はブラックスライム。普通は艶消しのようなブラック一色なのだが、ここでは赤黒い。動きはゆっくりだが、床が微妙に溶けてるので見分けがつく。


 深い層に行くと、同じブラックスライムでも、もっと大々的に溶かすヤツが出てくるのだが、このくらいの層では不用意に触れなければ問題のない魔物だ。


 ということでさっさと狩る。ドロップは酸の類で、これらは工業用に利用される。酸はダンジョン内での生産でも、余計なものを溶かして特定の物質を取り出す際などに使われる。


 同じく酸を吐くイエロースライムも出た。こちらはほんのり黄色い『生糸』、『丈夫な粘膜』なども落とす。そろそろドロップからもスライムの見分けが難しくなりそうな気配がする。


 酸の類は弾丸生産で使うかもしれんので、とりあえずストックするが、18層だと覚えておいて、使うことになったら真面目に回ればいいだろう。


 さっさと19層。今までのパターンからすると肉なのだが、どうだろうと思っていると、そう進まないうちに赤黒い2体。


 豚? いや、肩甲骨のあたりが盛り上がっとるし、毛もあるようだから猪か。


 猪は外でも柊さんの畑を荒らすヤツだ。私の住んでいる山には幸いクマは出ないのだが、猪と狸は出る。まだ未遭遇なのだが、話を聞く限り対策が面倒そうだ。とりあえず私の家には来ないでいただきたい。


 猪の下の牙は上の牙に削られ刃物のようによく切れる、らしい。なおドロップ品の牙は中が空洞なので、ダンジョン的不思議素材以外での用途は少ない。肉も取れるが、少し寝かせないと硬い。


 片方は鼻息に混じって炎が小さく見える。


 おそらく「熱血猪」。熱血猪は、別に他の猪に比べてやる気にあふれているとかではなく、字面のまま血が熱い。かぶると火傷を負うので注意だ。


 首を落としてすぐに退けば問題ないが、手負のまま走ってこられると、血をばら撒かれるので少し厄介。


 動物の形をしている魔物は、スライムと違って弱点が赤黒くてもわかりやすいのがありがたい。


 カードを見る限り、丸ごとドロップが健在なので、ここも隅々まで回らず階段を探す。ただ、『猪の皮』も別途ドロップしていて、確か牛系に比べてだいぶ長持ちし、そして軽いので大きなものは防具屋に喜ばれたはずだ。


 20層に満たないので、そう大きい皮ではないと思うので、まあこれも保留。もっと大きければ鷹見さんを通してツツジさんに回すところだが。『生糸』もありがたがられるのは、純白か、銀か金だったはず。


 『熱血猪の皮』は、火に強い。市のダンジョン、25層だったかに『火鼠』とかいう燃えるような体で何匹かで体当たりしてくる魔物が出ると聞くが、需要あるかね? こっちもドロップする皮は小さそうだが。


 ……って、『山芋』がドロップに混じってるんですが! 自分で食う分、少し確保!!!!


 市のダンジョンに寄った時に、牛タンを買って来ればよかった。麦飯を炊いて、とろろ。キャベツの漬物を添えるのが王道だろうか。


 とろろごはんにイクラと海苔という手も。いや、イクラもまだ作ってない! 仕方がない、細切りにして梅肉と和えるか。


 20層、リトルコア。巨大スライムだが、見分けがつかん。


 動きは10層の巨大スライムより速いし、力強い気はするが、いかんせん赤黒い。何か特殊な攻撃をしてくる個体でないと、ただ層が深くなった――レベルが上がった同じ種類の巨大スライムと見分けるのは無理だ。


 私が50層で得る能力カード、【鑑定】になるのか、それとも【心眼】やら【弱点看破】系になるのか、どっちだろう?


 『魔月神』は強化したおかげで、繊月から三日月、有明月くらいに見えるようになった。まだ分岐はでないので、どの方向に進むかはわからん。


 巨大スライムが強くなった分、『魔月神』も強化されているので、戦闘にかかった時間はそう変わらないはず。


 とりあえず本日のダンジョンはリトルコアで終わらせて、飯を食ったら弾丸と薬を作る予定でいる。のんびりするつもりが、なかなか忙しい。

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