第105話 捗るダンジョン

 来たついでに市のダンジョンで生産中。


 家のダンジョンでも生産はできるのだが、不足する素材の買い足しの容易さでこちらの方が便利だ。


 いつもの『回復薬』を所定の数作り、今はその上の薬の練習中。机と椅子の側の棚に素材を揃え、初めに設計図のカードで正しい手順の確認、その後手作業。


 できることはできるのだが、薬効が薄い。ダンジョン内だけで効果を発揮するものの出来は、手に入れた【能力】に左右される。


 リトルコアからのドロップで得た能力ではあるが、【生産】は持っている。『運命の選択』で得た【生産】の半分以下の成長度になるはずだ。


 能力全体に関わる『変転具』の強化はしているため、理論上はできるはず。というか、できているが薬効が薄いのか。


 【能力】は強化の先、分岐で選んだものが突出するので、強化が足りないということだな。苦無も強化したいし、収納も強化したい。強化したいものだらけで困る。


 市のダンジョンへの納品を済ませ、家に帰る。『ダンジョンの駅』にある適当な店に入るくらいなら、家で食った方がいい。『翠』をはじめ、夜は予約を入れないといっぱいなのである。


 本日の夕食は玄米飯、豚の照り焼き、おひたし、瓜の漬物、豚汁。


 冷蔵庫にあった豚肉の賞味期限がそろそろ危なかった結果のメニュー。そして昼間、『化身』で黒猫と飲んだことだし、生身は休肝日にした。


 漬物と豚汁には七味。玄米飯はぷちっとして、しっかり噛めばもちっとしてほのかに甘い。微かに糠の匂いがするが、糠漬けで慣れているし、濃いめの甘味噌にした照り焼きと相性はいい。


 まあ、酒の方がいいんだが。


 もともと黒猫にも食わせるつもりで用意した玄米飯は当然余った。残りは田舎味噌に大葉と茗荷を刻んで入れたものを塗った焼きおにぎりに。焼きおにぎりというか、焼く前の段階で冷凍。


 食べるの待ちの食材が冷蔵庫を圧迫してゆく。


 うーん。土間の野菜や保存瓶を入れておく納戸、冷えるようにしてもらおうか。そうしたら、冷蔵庫は肉や魚だけに――いや、保存できるスペースを増やすと、それ以上に食材が増える未来しか見えない。


 夜は弾丸の作成、今日は生産デイだな。目標数を作り終えたところで、イレイサーに中身が渡る箱に詰める。昼間作った『回復薬』と一緒に。


 その後は『強化』カード目当てに浅い層の殲滅。一般的なダンジョンよりはるかに出やすいが、足らん。


 浅い層の魔物への対処は流石に慣れて、能力奪取の欲を起こさなければさっさと済むのだが、移動距離がだな? 時間がかかる。いっそ浅い層は魔物の氾濫手前で起きる大結合――1層1部屋になってくれんか。


 大結合が何故起こるのかは解明されていないが、単純にそれだけの空間がないと深い層のリトルコアが出てくることができないからだろう。デカいからな。


 ダンジョンは不条理だ。黒猫のあれこれを見ていると、単純に聖獣の都合や気分なのだと思う。


 そういえば、人為的に魔物の氾濫を起こさせる実験をしていた奴が、暗殺対象になったことがあったな。あの実験はどういう理論だったろうか?


 少々不穏なことを考えながら、ダンジョンを出て風呂につかる。本日の業務は終了しました。


 そして翌日。


 気ままな自由業ではあるが、やることはある。生産は昨日終わらせた。数と期日が決まっているものは対処しやすい。


 困るのは天候やらなにやらで、変化するものだ。庭の草である。


 おい、お前らちょっと前はおとなしかったろう? 草刈りマスターの助言は引き続き守っているぞ、どういうことだ。


 一昨日の夜、雨が降った。多分理由はそれだけ。


 「夏草や兵どもが夢の跡」と歌われるが、勝った側も草には負けてるんじゃないか? 夏草に勝てる人間がいるのか?


 井戸水を使っているし、除草剤は使いたくない。金をかけて深井戸――浅井戸の水源は岩盤の上にあって、表層の影響を受けやすいが、岩盤の下の水源を汲み上げる深井戸は受けにくい――にしてはいるが。


 草刈り機を使うほどではない。が、元気よく伸びている。いっそぼうぼうになるまで放置して、草刈り機でいく方がいいのだろうか。


 ぶちぶちと2時間ほど草取りをして、涼しい時間が終わる。冷房の効いた室内に戻って、ビール。昼にもなっていないが、労働したのでよしとする。


 つまみはチーズとハムを適当に。


 飲みながらネットで検索。コンパニオンプランツでは騙されたが、草の特性くらいは参考になるだろう。敵を知れば百戦危うからずだ。


 そう思って、ちまちま学習しているのである。が、草の名前と特性の学習が進まん! 雑草、種類ありすぎではないか? まだ魔物の方が赤黒くてもその行動で見当がつく。


 というかスギナ、怖い。ツクシを見つけて微笑ましい気分になっている場合じゃないぞ、過去の私! あれはスギナの先兵だ。庭には侵入されていないが、佐々木さんの家に行く途中、見かける。


 アメリカオニアザミも見かけたような……? いや、あれは在来種のアザミか? どっちだ!


 ドクダミはすでに家の裏に生えている気が。先達が苦労しまくっとる草と戦える気がしないんだが。


 すでに負けた気になって、八つ当たりにダンジョンに。発散できる場所が身近にあると便利である……。



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