第32話 調整

「……調整可能なのか」

それは予想外。


 一度決めてしまったらそれで行くものかと思っていた。


「今の1回だけな」

黒猫がそっけなく答える。


「オレがダンジョン探索、初めてだったから。よくわかんなかったからサービスで! オレとユキはもう叶えてもらった」

レンが元気よくそうなった理由を告げる。


 今の1回。そういうことなら前もって教えておいてくれ。今ここで決めるのか!?


「そうねぇ、付与の素材に宝石を望んだのはいいけれど、紙の類も混ぜてくれるかしら?」

テンコが言う。


 雰囲気から言って、もう考えていたようだ。多分私よりイレイサーと交流を持っているのだろう。


「おう、薬草類と交換でいいか?」

「ええ。薬草類はオオツキと言ったわね? そちらで出るんでしょう? 必要になったらイレイサーの2人からいただくわ」

黒猫の提案に、私の方をみて答えるテンコ。


「素材は正規価格だぞ?」

私がイレイサー相手に作るものの素材以外は有料だ。近所のダンジョンで購入してしまった方が間にイレイサーを通さない分早い。


「オレたち、オオツキさんのダンジョンは手伝ってないよ」

「もちろんお声がけいただければ手伝いますが」

レンとユキ。


「あら?」

意外、みたいな顔をするテンコ。割と狐耳いいな。


 なるほど、リトルコアなど生産職で不安な場面ではイレイサーに手伝いを頼むのか。ドロップは当然ダンジョンで戦ったイレイサーにも入る、だから「イレイサーの2人から」と。


「のんびり攻略するつもりだったので、手伝ってもらうという発想がなかった」

すまんな、テリトリー意識も強いんだ。


「自由でいいんじゃない?」

「こちらの市のダンジョンでも薬草の類は安いですし」

イレイサーの2人。


「お金を出すイレイサーの2人がそう言うのなら、私も特に干渉する気はないわよ?」

テンコが言う。


 そっと金銭関係をはっきりさせるあたりこの狐、ぬかりがない。


「魔物が赤黒いのはどうにかならんのか?」

「ドロップの種類を絞っていいならなるぜ?」

「赤黒くていい」


 魚しか出ないダンジョンとかになっても困る、私はカレーも目指したい。


「そうだな、偶数層はスライムになっとるが、そこからリトルコアを除外というか、せめて2桁目の偶数奇数とかにしてくれんか? リトルコアが全部スライムになるのは正直微妙だ」

「はいよ、スライムじゃないリトルコアも出るようにな」

この要望は簡単に通った。


「ああ、そういえば。50層のリトルコアからは、必ず能力カードが出る。その能力カード、報酬のダンジョンでは対象を倒す上でアンタらが必要だと思うカードが出るから」

こともな気に言う黒猫。


 50層の能力カードドロップは固定か。そして必ずアタリが約束されている、と。


「50層……20層を超えることが攻略者と呼ばれる条件。リトルコアの部屋に入れるのは最大15人、10人以上で50層に到達した話は聞くけれど、5人パーティーではほとんど聞かないわね」

「レベルが上がり難くなるのが40層前後でしたか。それに望んだ能力が上がるとは限りませんからね」

テンコの話をユキが拾って理由を確認するように続ける。


「30層を超えてからは能力を使う魔物が増えるからそれもあるわね」

テンコが言うように、30層を超えたあたりから能力を使う魔物が出てくる。


 そして40層のリトルコアはどちらともいえないが、50層のリトルコアは確実に能力を使ってくる。レベルアップも頭打ちになってくるころあいで、50層を少人数で超えることは稀になってくる。


「大丈夫、オレたちはレベル上がりやすいし! 対象も能力使ってくる相手なんだし、修行しなくっちゃ!」

どこまでも前向き元気なレン。


 そうか、望んだ能力か。今ならスライムの核に限らず、弱点の場所がわかるような能力だな。


「オオツキさん、今何層?」

レンが聞いてくる。


「16層だな」

「あら、ずいぶんゆっくりね? ひとりで進んでいるの? リトルコアを手伝ってもらって、先に進んだ後の魔物を倒す方が効率がいいわよ? 能力持ちじゃない29層までの魔物ね。生産もレベルを上げると何かと便利だし」

テンコからのアドバイス。


 レベルの上がりやすくなった状態の今、リトルコアさえスキップできれば、生産職でも29層くらいまでなら行けるのだろう。


「手伝おうか?」

「いや。生産設備も整えたいし、のんびりやる。アイテムの提供では迷惑をかけん範囲でな。20層以降に進んだのなら、条件を変更するか?」

レンはフレンドリーでどうも他人を気に掛けるタイプのようだが、とりあえず自分が強くなる方を優先してほしい。


「薬は大丈夫、なるべく怪我しないように頑張るし。弾丸はもっと強いの欲しいかな?」

「貫通力があるのと、ダメージ量が多いのとどっちだ?」

「どう違うの?」

「貫通力の方は防御が高くても突き抜けてダメージを与えやすい。ダメージ量が多い方は、防御に阻まれやすいが防御そこを抜ければ与えるダメージは多い。甲虫とか外殻を持つヤツには貫通力がある方が向く。ただ、武器や能力も影響するので判断はまかせる」


 防弾チョッキを貫通する弾丸、貫通できないが、防弾チョッキを着ていない相手ならば大ダメージを与えられる弾丸みたいな……。


 ダンジョン内で使われる弾丸の種類は、大きく分けて『貫通力』『ダメージ増量』『飛距離』『散弾』『追加効果』。もちろん銃本体の性能も攻撃にのるので、生産品ならば使い分けるのだが、レンの武器は『運命の選択』の武器。ダンジョンで使う弾丸はある程度自由がきく。


 後ろ二つは私にはまだ作れない。『飛距離』はグローブ持ちきんせつしょくのレンに必要かどうか迷うところ。


 殴って武器を切り替えて、追撃的に撃ち込むにしても、拳が届かない相手に使うにしても、そう距離はいらん気がする。レンの性格的に、姿が見えんくらい遠くから射抜くパターンはあまり考えられない。


 専門ではないし説明しないが。私のうろ覚えな知識より、ダンジョンで本職捕まえて聞いてくれ。学習頑張れ。


「んー! 使い分けてみたいから半々で!」

「承知した。他にも適当にいろいろなタイプの薬と弾を入れておくから、使いやすかったものや、その時の攻略で必要なものでリクエストしてくれ」

どうやらまず薬や弾を実際使ってみてもらわないと、何があるか、何が必要かピンとこない風なので。


「わかった!」

「ありがとうございます」


 いや、やり取りが面倒なだけなんだが。

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