第48話 鶏
さて、ダンジョン。
一層の魔物も復活しているが、偶数層のスライムだけでなく奇数層の食材類も通り道以外はスルーする。45層から50層まで済ませるつもりなのでさっさと通り過ぎる。
通り道にいる魔物は倒して行くが、正体がわかっていればそう面倒な魔物はいない。いなかったのだがな?
45層の魔物はキノコ。こいつら動かんのだが、毒の胞子を飛ばしまくる。いや、毒を飛ばしてきたところで、倒すの自体は面倒でもないか。面倒なのは私の膝丈ほどもあるこいつらが増えるからだ。
通常ダンジョンの層に出る魔物は大体数が決まっている。魔物の種類によって数に違いはあるがそう驚くほどの差ではない。大抵大型の魔物は少なく、小さな魔物は数が多い。貝のようにあまり動かない魔物も多めか。
ただ、このキノコ、こいつはダンジョンの通路が詰まるほど増える。飛ばした胞子が菌糸となり、蜘蛛の巣と綿埃の間のようなコロニーを作るのだが、別のコロニー同士がひっつくと、コロニーを覆い尽くすようにキノコが生える。
菌糸が伸びるまで間があるため、そのまま通り過ぎることもできるのだが、次に通る時にはキノコだらけだ。
キノコは光の粒に変わる間際にも胞子を吐き出し、周囲一帯に振りまくためタチが悪い。キノコを火で焼き払うのが簡単なのだが、能力以外の火ではこっちが酸欠になる。
ダンジョン内は通常の層ならば、どこからか空気の供給はあるのだが、大きな火を使うと供給が間に合わなくなる。死ぬほどではないが、酸欠で倒れている間に他の魔物に襲われるのは遠慮したい。
苦無でキノコを倒す。倒すこと自体は特に硬い魔物でもないため、特に問題なく。毒の胞子も影響のない距離からの攻撃なので問題ない。
投げては魔物以外の何かにぶつかる前に、結んである紐を引いて戻し、投げては戻し。そして倒した後待つことしばし。
胞子が壁や床に菌糸を伸ばし始めたところで毒を撒く。深い層ならともかく、この菌糸はこちらに攻撃してくることもなく、毒もない。簡単に駆除できてしまう。
私が使った毒は、役に立ちそうにないなと思いつつ集めた32層のスライムの【毒】だ。カード化した【毒】を出しては【開封】して使う。
通常は青白いような菌糸が多いのだが、このダンジョンは菌糸も赤黒い。赤黒い絡まった糸のような菌糸は、毒を使うとあっという間に溶けてなくなる。少々面倒だが、後でもっと面倒なことになるよりはましだ。
魔物扱いではないようで、ドロップカードはでない。【毒】のカードが思わぬところで役にたった。特にもったいないとも思わない弱い毒なのもいい。心置きなく使える。
ああ、菌糸が生えるのをただ待っているだけでなく、次のキノコを攻撃していればいいな。面倒だし、さっさとリトルコアと下へ降りる通路が出てくれるといいのだが。
ドロップは『シイタケ』『ドンコ』『干しシイタケ』、たぶんこれでワンセット。『シメジ』『ブナシメジ』『ブナシメジ(白)』、『白マイタケ』『黒マイタケ』『茶マイタケ』。
おそらく3種類の属性違いの魔物が出ているのだが、色の見分けが不可能なので。胞子の毒の種類が違うのだと思うのだが……。
キノコ同士の毒は効かんので、この層では使えないのだが、これもちょっと集めるか。45層だ、32層の毒よりは強いだろう。
薄明るい洞窟のような通路を、キノコの駆除をしながら進む。庭の草もこれくらいわかりやすい駆除方法があればいいのだが。
「ん?」
走ってくる赤黒いモノ。
鶏か?
走ってくるモノにキノコが反応して胞子を振り撒いている。赤黒い胞子の煙幕の背景に混じってよく見えん。
確認する間もなく、苦無を投げて迎撃。火の羽根を飛ばしてくるが、こちらの攻撃が当たり首を落とした後のため、狙いがそれ、宙に向かって羽根が明後日の方に飛んでゆく。
色がわからんと、羽根を飛ばしてくるタイプなのか、口から何か吐くタイプなのか判別できん。全部羽根を飛ばすタイプだと思って用心するしかないな。
キノコよりは強い。10層以前の鶏は外の鶏と大きさもそう変わらなかったのだが、この鶏は3倍近い。奇声を上げながら、こちらを蹴ろうと向かってくる。首がなくても向かってくる。
なかなかのホラー? 全てが赤黒いのでよくわからん。最後に飛ばして来た羽根を避けて戦闘は終了。
鶏の形状なら3倍あっても弱点である首は細いので、苦無を一度投げるだけで済む。特に弱点を隠すわけでもなく、一直線に向かってくる魔物は楽でいい。キノコはピンポイントな物理系の弱点がないので、倒すのに時間がかかるのだ。
それはともかく鶏だ。15層のリトルコアが出した地鶏! おそらくそれが出るはず! 出るったら出る! そしてこの鶏はリトルコアではない! カードに封入されている数は少ない!
宙に浮かぶ2枚のカード。どきどきしながら近づき、確認。『比内地鶏』『名古屋コーチン』。
よしっ!!
浅い層のリトルコアのドロップは、深い層の同系列の魔物から出ることがほとんどだ。ほとんどなのだが、出ない場合もあるので、ちょっと不安だったのだが、これで出ることが確定した。
黒猫、いい仕事をしている。
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