第5話 ステータスを怪しまれた
十五分ほど並んで、俺の番がくる。
「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか?」
残念ながら定番のエルフ族ではなかったが、かなり美人の受付嬢だった。
俺は彼女のステータスを鑑定した。
リューナ 20歳
種族:人間族
身長160センチ
体重49キロ
B84 W55 H82
エレンほどではないが、なかなかスタイルもいい。Eカップくらいかな。
『だからなぜスリーサイズを?』
俺はナビ子さんの呆れ声を無視し、受付嬢に用件を伝える。
「冒険者登録をしたかったんだが、君を見て気が変わったよ。どう? これから俺と一緒にお茶でも?」
『……なぜいきなり口説いているのですか、マスター。しかもどう見ても相手は仕事中です』
受付嬢はにっこりと微笑んで、
「はい。冒険者登録ですね。推薦状はお持ちでしょうか?」
「あ、スルー?」
「頭のおかしな冒険者さんの対応には慣れてますので」
あ、そうなの。さすがはプロですね。
ていうか、今さらっと酷いこと言われたよね?
しかし、しまったな。
登録には推薦状が必要なのか……。
エレンに頼んで作ってもらうか。
けど、さっき会ったばっかりだしな。
なのにもう城に会いに行ったりなんかしたら、「そ、そんなに早くあたしに会いたかったのか! 仕方のないやつだな!」なんて頬を赤くしながら言われそうだ(妄想)。
「推薦状はお持ちではなさそうですね」
「あ、はい、すんません……」
「ふふ、大丈夫ですよ。風貌からして、絶対お持ちではないだろうと思っていましたから。念のための確認です」
「俺、貶されてね!?」
綺麗な顔してなかなか辛辣な受付嬢だった。
「ですが、ご安心下さい。推薦状をお持ちではない場合も、定期的に開催されている試験に合格していただければ登録が可能です」
なるほど。
試験内容は筆記と模擬戦らしい。
模擬戦はともかく、ペーパーテストか……。
俺、この世界の常識とか何にも知らねぇぞ?
『問題ありません、マスター。ギルドの加入試験程度の問題であれば、わたくしが解答をお教えできるでしょう』
おお、さすがナビ子さんだ。
「実はちょうど本日の午後、試験が行われる予定です」
「よし、受けよう」
「ではまず、ステータスを計測させていただきますね」
そう言って受付嬢が取り出してきたのは、水晶玉のような道具だった。
それを〈鑑定・極〉スキルで鑑定してみると、
・鑑定具:ステータス鑑定用の魔導具。
『鑑定具ですね。かなり高価なもので、どのギルドにも置かれています。もっとも、マスターの〈鑑定・極〉と比べれば大きく性能は劣りますが』
この水晶玉に触れると、ステータスがプレートに表示されるらしい。
「これ、見られても大丈夫なのか?」
『……一応、問題ないでしょう』
頷くナビ子さんだが、なぜか少々歯切れ悪かった。
『表示されるのは名前とレベル、それから筋力値や敏捷値などの各アビリティくらいのものです。それからもし犯罪歴があればバレてしまいます』
俺は犯罪歴がないから大丈夫だな。
『はい。この世界ではまだありませんね。今のところ』
ナビ子さんや、前の世界ではあったかのような口振りはやめてもらえませんかね?
あと、今後も犯す気はありません。
「試験を受けるためには最低限の能力が必要となります。また、過去に犯罪歴かあるかどうかも分かりますので、ご注意ください」
「これで能力を見れるのであれば、わざわざ模擬戦をする必要はないんじゃ?」
「……よく言われます。ですが、そういう決まりですので」
お役所みたいな返答だった。
いや、単に実力を見るだけの模擬戦ではないのかもしれない。最低限、冒険者ギルドの名に泥を塗らない人物であるかどうかを確かめるための、面接も兼ねているのだろう。
『マスターの人格ですと少々心配です』
おいこら。
俺は鑑定具へと手を伸ばし、触れた。お、意外と柔らかいな。
「……それはわたしの手です」
「おっと、失礼」
『マスター、隙あらばセクハラをかますのはおやめください。さすがの受付嬢も笑顔が引き攣っておられます』
改めて俺は鑑定具に触れた。
「ええと、お名前はカルナさんですね。犯罪歴は…………ない?」
「何で犯罪歴がないことに驚いてるんですかね?」
受付嬢は、ごほん、と咳払いして、
「レベルは……21ですか」
どうやらオークを倒したことで一気に上がったらしい。
『マスターは〈経験値上昇・極〉を持っておられるので、レベルが上がりやすくなっています。また〈成長率上昇・極〉のお陰で、ステータスも上昇しやすいです』
「……はぁっ!?」
突然、受付嬢が頓狂な声を上げた。
目を丸くし、鑑定具と繋がっている表示プレートをまじまじと見ている。それから少し焦った様子で、
「も、申し訳ありません。どうやら鑑定具が壊れてしまっているようです」
「ん? いや、普通にちゃんと表示されているぞ」
「そ、そんなはずがありませんっ。こんな数値、どう考えてもおかしいですし……」
俺のオールカンストした能力値を見て、あり得ないと判断してしまったようだ。
「こ、困りましたね……。ギルドにある鑑定具はこれ一つ……修理には時間がかかりますし、何より次の試験は一か月後……」
受付嬢は弱った顔をして悩んでいる。
それから自分の手を鑑定具に乗せてみて、
「あれ? 普通に計測されている……?」
だって壊れてねーもん。
おい、どうするんだよ、ナビ子さん?
『やはりこうなりましたか』
予想できていたなら先に言えよ。
『どのみちどうしようもありませんでした。魔法で改変しておくという方法もあったのですが、万一のことを考えて提案しなかったのです』
もし魔法でのステータスの隠蔽がバレると二度とギルドへの登録ができなくなり、さらには犯罪者として罰せられるという。
「申し訳ありません。少し、ギルドマスターに相談してきますので」
受付嬢はそう言って奥へと引っ込んでいった。
しばらくして戻ってくる。
「お待たせしました。カルナさんはレベル21とのことで、十分に受験資格を満たされております。こちらに名前をご記入いただければ、申し込みの完了とさせていただきます」
どうやらアビリティの件はなかったことにするらしい。いいのか、それで。俺としてはラッキーだけどな。
『ここのギルド長は仕事がテキトウであることで知られています。一人の受験生のために、わざわざ専門の鑑定士を呼ぶのは面倒だと判断したのでしょう』
お役所仕事も時には役に立つものだな。
まぁもし今日の試験を受けられなくても、エレンに頼めば推薦状を貰えただろうけど。
それから俺はまず筆記試験を受けた。
ナビ子さんのお陰で楽勝だった。
合否はすぐに出るらしく、受付で待っていたら名前を呼ばれた。
先ほどと同じ、バスト84センチ、Eカップの美人受付嬢だ。
「カルナさん。…………合格です」
どこか腑に落ちない顔で試験結果を伝えられる。
「満点ですね……。わたしがギルドで働くようになって初めて見ました」
全問正解だったようだ。
『当然です』
ドヤ声のナビ子さん。
「では、これから次の試験がありますので、地下の闘技場に移動してください」
さてと、次は模擬戦だな。
『マスターであれば余裕で突破可能でしょう』
「腕が鳴るぜ」
『……手加減してくださいね? マスターが本気を出してしまうと、建物ごと破壊しかねませんので』
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