第119話 カジノ
神殿の中はカジノになっていた。
そしてウサ耳の生えた謎の生き物が出迎えてくれる。
「ぼくウサえもん!」
見た目は某青い狸そっくりであるが、色々とバランスが悪いせいでキモイ。
なぁ、この大陸はもしかして中国なのか?
どう考えてもパクリばっかりだし、パクリにしてもクオリティがアレだし。
そのウサえもんは言う。
「世の中やっぱりお金だよね、お金! 道具を買うにもお金! いじめっ子をぎゃふんと言わせるにも金! 金持ちの自慢話を『そのくらい僕のうちでは日常のことさ』と鼻で笑ってのけるにもお金! 好きな女の子に振り向いてもらうにもお金! そう! お金があれば何でもできるのさ!」
こんなド○えもんは嫌だ。
「という訳で、最後の試練は至ってシンプルさ! ここカジノで、君たちにはお金をたぁぁぁぁっぷり稼いでもらう! 1000億バニーだ!」
「1000億バニーって、多いのか少ないのか分からないんだが」
「じゃあ君たちは今どれくらいお金持ってる?」
「40万ゴールドくらい」
ゴールドはこの大陸各地で共通して使われている通貨の単位だ。
文明レベルが違うが、まぁ日本円と同程度と考えてもらえばいい。
何だかんだで結構貯まっている。
冒険もすでに終盤戦だしな。
「10ゴールドで1バニーだから、全額換金しても4万バニーだね」
「マジか」
つまり250万倍に増やせってこと?
おいおい、どんな無理ゲーだよ。
「そうは言っても、やるしかないわね……」
「カジノ楽しそう!」
「……やったことないですけど……」
とりあえず換金することにしたのだが、アカネが勝手に全額をバニー通貨に変えてしまった。
「ちょっと! どうやって生活するのよ!?」
「その心配はいらないぴょん!」
「ぴょん?」
ウサえもんによれば、このカジノ内には宿泊施設やレストランなどもあるという。
そしてすべてバニー通貨で支払うことができるそうだ。
「それから換金以外にも、バニー硬貨を手に入れる方法があるぴょん!」
なぜか唐突に語尾にぴょんを付け始めたウサえもんだが、その辺はとりあえずスルーして、俺たちはカジノの奥に連れていかれた。
「ここは……ダンジョンか?」
「そうだぴょん! この先はダンジョンになっていて、モンスターも出るぴょん! そしてここのモンスターを倒せば、必ずバニー硬貨を落とすぴょん!」
「なるほど。じゃあバニー硬貨が無くなったらその都度、ここで稼げばいいってことだな」
「ザッツライト! ……ぴょん。もちろんさすがにそれで1000億バニーまで貯めるのは難しいぴょん!」
つまりここはあくまで元手を確保するためのもので、1000億バニーに達するためには、やはりカジノで大勝ちしないとダメだということだ。
カジノの方へと戻ると、とりあえず4万バニーを四人で分けることにした。
一人一万バニーずつだ。
「ダンジョンに潜れば幾らでもお金が入手できるんだ。ちまちまやらずに、どんどん賭けて行こうぜ」
「おーっ!」
という訳で、各々好きなゲームで遊ぶことに。
そして数時間後。
「ゼロになっちゃった!」
「……同じく」
「私もです……」
三人ともすっからかんになっていた。
「見事に大負けしたなー」
「そういうあんたはどうなのよっ!?」
「ふっふっふ。聞いて驚くなよ?」
「まさか、大勝ちしたの……?」
「クレーンゲームをコンプリートしたぜ!」
そこには空っぽの筐体と、大量のぬいぐるみがあった。
「何をしてんのよ!? てか、何でクレーンゲームなんてあるの!?」
「完全な娯楽用だぴょん!」
「意味ないじゃない!」
「ちなみに一万バニー注ぎ込んだ」
「バカなの!?」
いやさ、最初はちょっとやってみるかー、くらいの気持ちだったんだぜ?
でもほら、中毒性あるじゃん、クレーンゲーム。
やってるうちに終われなくなっちゃって、気づいたら最後までしてたんだよ。
「しかもこのぬいぐるみ、どれもパチモンじゃないの……」
「欲しいならあげるぞ、このツルピ○チュウ」
「要らないわよ!? 何なのこの耳のない禿げたピカ○ュウは!?」
しかし弱ったな。
これで完全に無一文になってしまった。
「今からダンジョンに潜るんですか……何だか、疲れました……」
「早く休みたいよー」
「仕方ないじゃない。宿代もないんだから……」
「そんな場合に備えて、無料の部屋も用意してあるぴょん」
「本当!?」
ウサえもんに案内されたのは、物がごちゃごちゃと積み上げられた窓もない狭い部屋。
部屋っていうか、どう見ても倉庫だった。
「適当に寝てくれていいぴょん!」
「ほ、埃だらけなんだけど?」
「適当に掃除すればいいぴょん!」
「毛布とかは?」
「そんなのあるわけないぴょん!」
「あの、食べ物は……?」
「もちろんないぴょん! あ、でも水ならトイレがあるから大丈夫ぴょん!」
「トイレの水……お、お風呂は……」
「ないぴょん!」
なんもねー。
キョウコがウサえもんに詰め寄った。
「こんな場所で寝れる訳ないでしょ! だいたい男女いるんだから、せめて二部屋くらい貸しなさいよ!」
「……あ゛あん? 無一文のてめぇらにわざわざ施ししてやってんのはこっちだぞ? 調子に乗ってんじゃねぇぞ、コラ?」
「ひっ?」
ウサえもんがキレた。
「という訳で、我慢するぴょーん!」
さっさと立ち去ろうとするウサえもんだったが、ふと何かを思い出したのか立ち止まって、
「そうそう。お金さえあれば、極上のスイートルームに泊まれるようになるぴょん! 部屋には露天風呂やプール、さらにはメイドや執事まで付けられて、無料でマッサージだって受けられちゃうぴょん! もちろん、美味い物もたーくさん食べられるぴょん!」
その言葉に皆の目の色が変わった。
「おはようございます、ご主人様」
「うむ、おはよう」
メイドの声で俺は目を覚ます。
ふかふかのキングサイズベッドで寝ていた俺の目に真っ先に飛び込んでくるのは、窓いっぱいに広がる青い空だ。
カーテンから差し込む朝日が心地よい。
ベッドの上で身を起こすと、メイドがグラスを差し出してくる。
受け取るとワインを注がれる。
「うん、良い香りだ」
三十年物の高級ワインを朝から嗜む。
それがここ最近のマイブーム。
優雅に朝ワインを楽しんだ俺は、ベッドから降りてその場に立つ。
するとすかさずメイドが傍にやって来て、寝間着を脱がし、服を着せてくれる。
「本日はどちらで朝食をお召し上がりになりますか?」
「今日はこの部屋で食べよう」
「畏まりました。すぐにお持ちいたします」
寝室から出ると、そこには広々としたリビングルーム。
家具や調度品はどれも最高級品。
しかし自己主張し過ぎることもなく、内装としっかりと調和している。
そう。
ここは最高級のスイートルーム。
朝食&メイド付きで、何と一泊1000万バニーもするのだ。
屈辱の倉庫から始まったカジノでの戦い。
だが今や俺は、たった一日で軽く数千、数億万バニーを稼ぎ出す最強のギャンブラーとなっていたのだった。
【遊び人】の運の強さは伊達じゃない。
「決めた。一生ここで暮らそう」
「って、そんな訳にはいかないでしょうがあああああっ!」
「どうしたキョウコ。ここは俺のスイートルームだぞ? 最近ようやく一泊数千バニーの格安ルームに泊まれるようになったお前の来る世界じゃないぞ?」
「くっ……あたしだって、もっと勝ってダイエットと美肌効果のある岩盤浴とかしたいのにっ……って、そうじゃなくて! そんだけ勝ちまくってるならとっとと1000億バニー貯めて試練をクリアしなさいよ!」
「は? なに言ってんだ? 1000億バニーくらい、とっくに貯まってるに決まってるだろ?」
「貯まってんのかい!?」
「言っておくが、お前にはやらないぞ?」
「そういう話じゃなくて! 魔王! あたしら、魔王を倒すために旅をしてるんでしょうが!」
「…………ハッ?」
そう言えば……そうだったな……うん。
忘れてました。
「何で忘れてんのよおおおおおっ!?」
「てへぺろ」
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