第120話 魔王…?
「おら、1000億バニーだ。持ってけ、ドロボー兎!」
俺は大量のバニー硬貨をウサえもんにブン投げた。
「ぐぼおっ!? ……た、確かに、1000億バニーだぴょん! 合格! 合格だぴょん!」
硬貨に埋もれながらもウサえもんが試練攻略を宣言する。
「さすが最後の試練だったな。今までで一番時間がかかってしまった」
「……あんたが本来の目的を忘れたからでしょうが」
キョウコがジト目で睨んでくる。
「結局スイートルームに泊まれなかったからって僻むなよ」
「ひ、僻んでなんかないし! スイーツバイキングができなかったからって、別に全然これっぽっちも気にしてないし!」
スイーツバイキングやりたかったのか……。
「そうそう、これがクリア特典の装備だぴょん!」
ウサえもんが思い出したように何かを手渡してくる。
それは鏡のように磨き抜かれた銀色の丸いトレイだった。
「〝運のトレイ〟だぴょん!」
「何でトレイなのよ!?」
「食事を運ぶという本来の用途以外にも、盾や投擲武器としても使えるぴょん!」
「だから何でトレイなのよ……」
「ちなみにう○ことかトイレとかとは全く関係ないぴょん」
「分かってるわよ!」
「問題は誰が装備するかだが……」
「どう考えてもあんたしかいないわよね?」
いや、アカネがモノ欲しそうな顔で見てるぞ?
「茜には杖があるでしょうが」
「これじゃ隠せないよ!」
「別に隠す必要なんてないでしょっ!?」
そんな訳で、俺が装備することになった。
それまで使っていたお盆に別れを告げ、〝運のトレイ〟を新たに身に付ける。
何となく防御力が上がった気がする!
しかし今まで頑張ってくれたこのお盆には愛着がある。
もちろん捨てる訳がない。
「よしよし、お前はこれから食事を運ぶ用途で使ってあげるからな」
「それだけは絶対にやめてよ!? たとえ洗っても嫌だから生理的に!」
「酷い……このお盆が何したっていうんだよ!」
「お盆っていうかあんたのせいでしょうが!?」
そして、すべての試練を攻略した俺たちは、とうとう魔王城へとやってきたのだった。
「こ、ここが魔王城ね……」
「それっぽい!」
「……ほ、本当に私たちだけで魔王を倒せるのかな……」
JK三人組は不安そうな顔で、眼前に聳え立つ巨大な城を見上げている。
「よし、気合を入れるためにみんなで円陣でも組むか」
「あんたとだけはごめんなんだけど」
この最終局面でまだ好感度が上がり切ってないだと……!?
『そもそも好感度が上がるようなエピソードは一切なかったかと』
なんだと……?
それじゃあエンディングで誰ルートにもならないじゃねぇか!
「ていうか、あんた結局、最後までその格好を貫いたわね……」
「これが俺の勝負服だからな」
「服も何も、裸じゃないのよ!」
俺たちは魔王城へと突入した。
さすが魔王城だけあって複雑な内部構造をしており、強力な魔物が次々と現れた。
だが四つの試練を乗り越えた今の俺たちは、立ち塞がるあらゆる脅威を跳ねのけ――
「ついに来たぞ。ここが魔王の間だ」
「ひ、広い……」
「あーっ、あーっ! 声が反響する!」
「ちょ、茜、デカい声出さないでよっ」
魔王城の最奥。
いかにもラスボスがいそうな雰囲気の大広間へと辿り付いていた。
「ここまで来たか、人間の勇者よ」
低く太い声が響いた。
そして薄闇の中、突如として浮かび上がるのは巨大なシルエット。
「この大魔王バラメス様に逆らおうなど、身の程を弁えぬ愚か者どもめ。ここに来たことを悔やむが良い」
「こ、こいつが魔王っ……?」
「何か、カバみたーい」
「だ、ダメだよ、茜ちゃん……! 滑稽な姿を笑ったら塵にされちゃう……!」
「誰がカバだ! 誰が滑稽な姿だ! 二度とそのような口を効けぬよう、その腸を喰らい尽くしてくれるわ!」
魔王バラメスが襲い掛かって来た!
「茜、恵美、サポートをお願い!」
「了解!」
「う、うん!」
……あれ、俺は?
俺だけ〝めいれいさせろ〟じゃないの?
「あんたは〝かってにしてなさい〟よ!」
そうしてJK三人組+俺はバラメスに立ち向かった。
バラメスの攻撃!
キョウコは184のダメージを受けた!
バラメスは激しい炎を吐いた!
キョウコは109のダメージを受けた!
アカネは77のダメージを受けた!
メグミは98のダメージを受けた!
カルナはダメージを受けない!
キョウコの攻撃!
バラメスに102のダメージを与えた!
アカネはライトニングバーストを唱えた!
バラメスに84のダメージを与えた!
メグミはオールヒールを唱えた!
キョウコの傷が回復していく!
アカネの傷が回復していく!
メグミの傷が回復していく!
カルナには効果がなかった!
カルナは裸芸を披露した!
キョウコ、アカネ、メグミは無視した!
バラメスは見とれている!
バラメスの攻撃!
キョウコは上手く回避した!
キョウコの攻撃!
バラメスに108のダメージを与えた!
アカネはエクスプロージョンを唱えた!
バラメスに123のダメージを与えた!
メグミの攻撃!
バラメスに58のダメージを与えた!
カルナは裸芸を披露した!
キョウコ、アカネ、メグミは無視した!
バラメスは見とれている!
バラメスはファイアーキャノンを唱えた!
アカネは234のダメージを受けた!
キョウコの攻撃!
バラメスに99のダメージを与えた!
アカネはエクスプロージョンを唱えた!
バラメスに121のダメージを与えた!
メグミはオールヒールを唱えた!
キョウコの傷が回復していく!
アカネの傷が回復していく!
メグミの傷が回復していく!
カルナには効果がなかった!
カルナは裸芸を披露した!
キョウコ、アカネ、メグミは無視した!
バラメスは見とれている!
「って、何なんだ貴様はさっきから戦闘中にふざけた踊りを踊りおって!? 見せそうで見えないし、ついついドキドキハラハラして見入ってしまうではないか!? お陰で一回攻撃しかできぬではないか!」
バラメスが咆えた。
「まさか、あんたの裸芸が魔王に効くなんて……」
「裸芸は人種の壁すら超えるんだよ」
ドヤ顔でお盆を一回転させる俺。
「目障りだ! 貴様から死ねい!」
バラメスはファイアーキャノンを唱えた!
カルナのお盆が魔法を跳ね返した!
バラメスは214のダメージを受けた!
「ぐおおおおっ!? ま、魔法を跳ね返しただと!? どんなお盆だ!?」
使うとマホ〇ンタのと同じ効果を発揮します。
「……ま、まぁいい。見たところ他に武器はないし、攻撃してくる気配はない。とりあえず放っておこう。あの芸も単に見なければ良いだけだ。そう、嫌なら見なければいいのだ」
バラメスは俺を放置することにしたようだ。
「ところで魔王バラメスさんや」
「なんだ? って声をかけて来るな! 今、必死に貴様を意識外に追いやる努力をしているところなのだ!」
「俺、他に魔王を名乗ってる奴を知ってるんだけど。魔王って勝手に名乗っていいものなのか?」
「……なんだと? く、くくく、くははははは! どこのどいつか知らぬが、我を差し置いて魔王を名乗るなど片腹痛い! 相対する機会があれば圧倒的な力の差で一捻りしてくれるわ!」
「そうか。じゃあちょっと呼んでみる。おーい、魔王!」
「なに?」
「む! カルナよ! 余を呼んだのはお主か! また余と勝負してくれる気になったのか!」
召喚魔法で呼び出したのは、見た目こそ幼女だが、魔界の頂点に君臨する真の魔王。
「まぁ後でな。その前に、そいつと戦ってやってくれ」
「お? 何ぢゃ、そこにいるのはもしかしてバラメスぢゃないか?」
「知ってるのか?」
「うむ! 余の勢力圏内に領地を持つ男爵級悪魔だったのぢゃが、圧政が酷過ぎて余自ら叱りに行ったことがあるのぢゃ!」
バラメスの顔が見る見るうちに真っ青になっていく。
「ままままま、魔王様ぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「違うんです。ついほんの出来心だったんです。一度でいいから魔王になり切って見たかったんです。ええ、地上でならきっと誰にもバレないだろうって。この小さな大陸を狙ったのは強い人間がいないだろうと思ったからです。はい。決して魔王様を貶めようとか、成り代わってやろうとか、そんなつもりは毛頭ありませんでした。許して下さい」
魔王、いや、男爵級悪魔バラメスは土下座していた。
「ふむ、どうやらお主らには迷惑をかけたようぢゃの。こやつは余が魔界に連れ帰ってきっちり再教育するのぢゃ」
「ひいいいいいっ!」
本物の魔王はバラメスの首根っこを掴むと、ずりずりと引き摺っていく。
魔界へと通じるゲートっぽいものが開き、その向こうへと消えていった。
「……終わったな」
「いやいやいや、予想外の展開過ぎて付いて行けないんだけど!? あいつ魔王じゃなかったの!? あの幼女が本物の魔王!? しかもあんたと知り合いなの!?」
「まぁ細かいことは気にするな」
「全然細かくないんだけど!?」
「……これ、わざわざ四つも試練を攻略する必要はなかったんじゃ……」
「でも楽しかったからいいじゃん!」
こうして、勇者たちの戦いは終わった。
キョウコ、アカネ、メグミ。
そのJK三人組の名は、魔王を倒した異世界の勇者として、彼女たちが地球へと帰還した後も人々から讃え続けられたという。
え? 俺?
なんか【遊び人】じゃカッコつかないからって、歴史の闇に葬られたよ。
◇ ◇ ◇
最後まで登場しなかった四天王「えっ? 俺がトイレ入ってる間に魔王様やられた?」
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