ダンジョンを作ろう編

第121話 ダンジョンクリエイト

「俺、ダンジョンを作ろうと思うんだ」

「また唐突に何を言ってるんですか……」


 ティラがジト目で見てくる。


「てか、久しぶりだな、ティラが登場するの」

「……それはカルナさんのせいですよね? 一体どこ行ってたんですか? 魔界に行くと言ったっきり、全然帰ってこないから清々していたところだったんです」

「そこは心配してくれるところだと思うぞ?」


 俺は端的にこれまでの冒険譚を伝えた。


「ちょっと勇者召喚に巻き込まれて女子高生たちと一緒に偽物の魔王と戦ってた。全裸で」

「……何一つとして理解できる要素がないんですが……」


 おかしいな?

 全部ちゃんと真実なのだが。


「女子高生っ? 女子高生って何ですのっ? 聞いたことないですけど、何となくエロい響きがしますわぁっ!」


 ルシーファが鼻息荒く訊いてくる。

 さすがの嗅覚だ。

 初めて聞いた単語なのに、その卑猥さを感じ取るとは。


「分かるのか?」

「もちろんですわ! 聞いただけで濡れてしまいますのぉぉぉっ!」


 内股気味になってハァハァと息を荒らげるルシーファ。


『……別に女子高生という言葉自体は卑猥でも何でもありません』


「ですがわたくしにはビンビンに感じ取れますわ! 一見清らかそうな言葉の背後にある淫らな欲望の渦が! これは……そう! 処女! 処女という言葉の持つ卑猥さとよく似ていますの! ですが女子高生にはそれ以上のものを感じます! ああ! 女子高生! わたくしも女子高生と※※※したいですのおおおおっ!」


 ……こいつ、天界に拉致られて以降、更生されるどころか、下手したら前より変態に磨きがかかっている気がする。

 やっぱり抑圧されるとかえってよくないのかもしれない。


 ちなみにここは俺の家になった竜王の城だ。

 魔界にも城はあるのだが、あっちは暗くて辛気臭いので、こっちの方がお気に入り。

 スカイアイランドという空に浮かぶ島の上にあるからな。


 今日も俺の分身が作った料理を食べるため、大勢のドラゴンたちが訪れている。


「もぐもぐもぐ」

「うめぇうめぇ」

「うまいのです!」

「おかわりなのだ!」


 シロとクロ、それからクロの妹のチロちゃんもいる。

 こいつらずっと食ってる気がする……。

 そしてそんな大食いドラゴンズの中に、なぜかエレンまで交じっていた。

 てか、なんか前に見たときより随分と太ってる気が……。


「フィリアがいないな?」

「フィリアちゃんなら部屋でパパと遊んでますよ」

「え……?」


 ティラの言葉に俺は凍り付いた。


「な、なぜだティラ!? 俺の何がいけなかったんだ!? あんなに愛し合っていたというのに、離婚して他の男とくっ付くなんて……っ!?」


 しかも親権までその男に奪われてしまったとか!


「愛し合った覚えも結婚した覚えもないんですけど!? だいたい、フィリアちゃんが遊んでいるのはあなたの分身です」


 なんだ、そういうことか。


「びっくりした。てっきり自宅で堂々と不倫しているのかと」

「……だから結婚してないですから」


 ティラは溜息を吐いてから、


「それで、ダンジョンを作ろうってどういうことですか?」

「おお、そうだったそうだった。いや、そのまんまの意味なんだけど」


 俺の持つスキルの一つ、〈ダンジョンクリエイト・極〉。

 これを使ってダンジョンを自作してみようと思ったのだ。


『ダンジョンは異空間内に作られますので、入り口はどこでも構いません。もちろん城や塔など、外観を作成することも可能です』


 なるほど。

 じゃあ、とりあえず練習としてこの城内で作ってみるかな。


『ダンジョン生成には、ダンジョンポイント――DPが必要です。このDPを消費することで、部屋や魔物を作り出すことができます』

「ふんふん」

『DPを稼ぐ方法は二つあります。一つは自身の魔力をDPに変換する方法です。レートは魔力1=1DPになります。二つ目はダンジョン内に入ってきた生命体を吸収する方法です。獲得DPは相手の魔力量に応じ、こちらも魔力1=1DPのレートです』

「よし、とりあえず俺の魔力をすべてDPに変換しよう」



カルナ

 魔力:101239/101239 → 9/101239


 所有DP:0 → 10123



『ではまず入り口を作成してください』



 穴:10DP

 階段:20DP

 扉:30DP



 穴を作ってみると、床に穴が現れた。

 本当にただの何の変哲もない穴だ。

 穴の向こうは真っ黒い空間になっている。

 一応、壁に作ることもできるらしい。


 階段も試してみたが、これも非常にシンプルなのができた。

 十段ほどの長さで、その先はやはり真っ黒い空間だ。


「これって決まったものしか作れないのか?」

『いえ。ディテールの変更も可能です。その際は具体的にイメージしていただければ。ただし消費するDPが跳ね上がります』


 どうせ大量にDPはある。

 穴と階段を消して、螺旋階段を作ってみることにした。


「おー、できたぞ」


 床に穴が開いて地下へと続く階段が出現する。

 頭の中でイメージした通りに螺旋を描きながら、1000段くらい。


『……長すぎかと。こんぴらさんですか』

「まぁ練習用だから、練習用」


 てか、こんぴらさんて。

 ちなみにDPは500ほど消費した。


 階段を下りた先に通路を作ってみた。

 一直線に20キロほど。

 DPは1000使った。


『長すぎかと。国道12号線ですか』

「練習だから、練習。ていうかナビ子さん、日本のこと詳し過ぎかよ」


 国道12号線は北海道にあるという日本一長い直線道路である。

 長さは30キロ弱。


「この通路を抜けた先がボス部屋だ」

『シンプルに嫌なダンジョンですね。先が見えず精神的に苦しそうです』

「確かにちょっと退屈かもな。よし、ちょっと仕掛けを施してみるか」


 やってみると5000DPもかかった。


 だが〈魔力回復・極〉のお陰ですでに俺の魔力は全快している。

 この分だとDPが枯渇することはなさそうだな。


 あとは魔物を適当に配置して、と。

 よし、これでできあがりだ。


 いったん城に戻る。


「ダンジョンができたぞ」

「もうですか!?」


 報告したらティラが驚いた。


「挑戦してみるか?」

「やめておきます」

「そんな即答しなくても……」

「カルナさんが作ったダンジョンなんて、どう考えてもロクなモノじゃないでしょう」

「いや、別に変なの作ってないって。……今は」


 今は? と眉根を寄せるティラを後目に、俺は食堂へ。


「エレン。ちょっといいか」

「もぐ?」


 口の中を食べ物でいっぱいにしながら、エレンがこちらを振り返る。

 まだ食ってたのかよ。


「……やっぱ太ったな」

「す、少しだけだぞ!?」

「少し? どう見ても以前の倍以上に膨らんでるだろ」

「そそそ、そんなに!?」

「あーあ、この腹、ぶよぶよじゃねーか」


 エレンのお腹をむにっと摘まんでみた。

 前は筋肉の上に薄く脂肪が付いている程度で、しっかり引き締まっていたというのに今や見る影もない。


「二の腕も」


 ぷにっぷにだ。


「おっぱいも」


 ぼよんぼよんだ。


「何で普通に触ってるんですか!?」


 エレンは完全におデブちゃんになってしまっていた。


「お前、剣の修行のために騎士団長を辞めて国を出たんじゃなかったのか?」

「そ、そう言えばっ!? くっ……あたしとしたことが、食への誘惑に負けるなど……もぐもぐ」


 言ってる傍から食ってるし。


「そんなお前に良いダイエット法があるぞ」

「ほ、本当か!? もぐもぐ」


 名付けて〝ダンジョンダイエット〟である。

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