第92話 世紀末ドラゴン
黒輝竜たちの集落があるのは、とある山岳地帯。
その中には大規模な噴火によって巨大なカルデラが形成された山があって、まさにそのカルデラの部分に彼らは棲んでいた。
家の数はせいぜい五十棟といったところ。
意外にもどれも人間サイズである。
どうやら彼らは普段、人化して暮らしているらしい。
確かにドラゴンのままだと身体が大き過ぎて何かと不便だろうしな。
全員が黒輝竜という訳ではなく、むしろ黒輝竜の数は少ないようだ。
せいぜい数頭ほどで、あとの百頭以上は黒輝竜に従属している別種のドラゴンたちらしい。
そして集落に戻ってきたクロとチロが真っ先に向かったのは、集落の中でも一際大きな屋敷だった。
恐らくあれが二人の実家で、そこにこの集落の長であるという母親がいるのだろう。
「ねーさまを連れかえってきたです!」
ちょうど会議でも開いていたのか、広間には集落の代表と思しきドラゴンたちが集まっていた。
って、なんだこいつら?
随分と変な格好してるんだが……。
簡単に言うと、全員がパンクロッカーのような格好をしていたのだ。
ツンツンに逆立てた頭髪。
ドギツイ化粧。
耳ピアスや鼻ピアスは当たり前。
黒い服に安全ピンやら鎖やらを大量に取りつけ、動くたびにジャラジャラという音を鳴らしている。
若者ならまだいい。
怖ろしいのは爺さん婆さんまで似たような姿をしていることだ。
薄い頭髪で無理やりトゲトゲにしていたり、皺くちゃの顔を真っ白に塗りたくっていたりするのはぶっちゃけ痛い。
……ここはもしかして世紀末なのだろうか?
「「「ヒャッハーーーーッ! 竜王なんざ、怖くねぇぜぇぇぇっ!」」」
本当に世紀末かもしれない。
その中の一人、グラサンを付けた老人パンクロッカーがチロに気づいた。
「おお、よく連れて来たじゃねぇか!」
「おおじーさま!」
「馬鹿野郎! 大叔父様だ大叔父様! 〝じ〟の後を伸ばすんじゃねぇ! それだとジジイに聞こえるだろ!」
どうやらクロたちの大叔父らしい。
……いや、大叔父って、普通に爺さんだろ。
「大叔父御! 竜王に宣戦布告したってのはほんとかよ!?」
クロがその大叔父らしき人物に詰め寄った。
「正気かよ!? 竜王傘下のドラゴンどもは、オレたちより圧倒的に数が多いんだぞ!? 勝負にならねぇよ!」
「ヒャッハーーーっ! だからこそ血が騒ぐんじゃねぇかよ!」
「そうだそうだ! さすがは怒羅愚(ドラグ)! お前さんの言う通りだ!」
どうやらこの爺さん、怒羅愚という名前らしい。
「どっからでもかかって来いや! ヒャッハーーーっ!」
「竜王なんざワンパンだぜ! ヒャッハーーーっ!」
「黒輝竜こそドラゴンの頂点だ! ヒャッハーーーっ!」
ヒャッハーヒャッハーうるさい。
と、そのときだった。
「ヒャハーーーーーーーーーッ!!! テメェら準備はいいかァァァァァァァッ!!!」
凄まじい怒声と共に部屋に入ってくる人物がいた。いや、竜物か?
「か、母様……っ!?」
クロがビクッと肩を震わせて縮こまる。
愚連華(グレンカ)
種族:黒輝竜
レベル:108
スキル:〈咆哮〉〈竜気・極〉〈限界突破〉
どうやら彼女がクロの母親で、この黒輝竜たちのトップらしい。
愚連華って……また暴走族みたいな名前だな……。
そして当然のように彼女もまたパンクロッカーだった。
まず、凄いモヒカンだ。
その長さはゆうに頭部以上。
重力に逆らい、天を貫いてやるぜヒャッハーとばかりに突き立っている。
まるで鶏の鶏冠、もしくはウニだ。
鼻と耳に加え、唇や瞼にまでピアスを下げていた。
真っ黒い口紅に、目を囲むように縁取ったこれまた黒い強烈なアイシャドー。
服装はやはりパンクファッション、あるいはSMの女王様の格好と言った方がいいかもしれない。網タイツにやたらとヒールの高い靴を履いていた。
「ヒャッハーーーーッ! 馬鹿娘たちも戻ってきたことだし、作戦会議を始めるぜヒャッハァァァァァッ!!!」
「「「ヒャッハーーーーッ!!」」」
どう考えても会議の雰囲気じゃないと思う。
「じゃあ、まずはこっちの戦力を整理するぜ」
急に普通の口調に戻った!?
「アタシら黒輝竜が全部で六。まぁ成竜じゃねぇのが二人いるがな」
その二人というのはクロとチロのことだろう。
「だがアタシの娘だけあって、そこそこ戦力にはなるだろうよ。それからこの集落にいる奴らが百五十ほど。そこから老人や子供、それから戦力にならねぇ下位竜どもを除けば、戦える成竜は百前後だ。内訳は超竜が十、上位竜が三十、中位竜が六十ってとこだな」
それから愚連華は竜王側の戦力を告げた。
「白輝竜が五。超竜が約三十。上位竜が約百。そして中位竜が約二百。それが竜王のいる集落の戦力だ」
「や、やっぱ歴然じゃねぇか、戦力差が!」
悲鳴じみた声で叫んだのはクロだった。
だが愚連華は不敵に笑って、
「ヒャッハーーーッ! これはあくまでも主力の差だ! 実を言うとよ、アタシらと同じく打倒竜王に燃えている同志たちがいるんだよ! オイ、いいぜ! 入って来やがれ!」
そのときだ。
ドアを開け、のっそりと姿を現したのは身の丈二メートルをゆうに超える巨漢だった。
無論、ドラゴンが人化しているのである。
だが人化してさえこの身体の大きさだ。
「まさか、無限竜!?」
超竜の一種、無限竜。
生まれてから死ぬまで際限なく巨大化し続けることから、その名が付いたという。
中には百メートル規模の個体まで存在しているらしい。
超竜の中でも最強種の一角で、その強さは神竜にも匹敵する。
「おでらも、きょうりょく、ずる」
その巨漢は片言で告げた。
無限竜はあまり知能が高くないようだ。
さらにその無限竜の巨体の陰から、別のドラゴンたちが姿を見せる。
「わいも前々から今の竜王には不満をもってたんでぇ。せやから今回は黒輝竜サンたちに協力させてもらいますわぁ」
しゃべり方に独特な訛りがあり、目が糸のように細いそのドラゴンもまた、超竜の一種。
宝竜と呼ばれる竜種で、金銀財宝を大量に集める傾向があることからその名がついたという。
「我々も力を貸そう。現竜王は竜王に相応しくない」
いかにも武人といった雰囲気のこのドラゴンもまた、超竜の一種だ。
尾が剣のようになっていて、それを振り回して斬撃を放つことから、刃竜と呼ばれている。
他にも何体か、超竜クラスのドラゴンが現れては、黒輝竜への協力を宣言したのだった。
彼らはそれぞれ集落を持っており、そこには他の竜種も棲息しているという。
そして超竜が四十体ほど、上位竜が百体以上、中位竜が二百体以上、新たに戦力として加わることになった。
「ヒャッハーーーッ! 見たか! これでアタシらの勝ちだ! なにせ、こっちには超竜が七十体以上もいるんだからなァ!」
愚連華が勝ち誇ったように言う。
……計算は間違えてはいるが、竜王側の戦力を超えたのは間違いないだろう。
もちろん竜王の集落も、他の集落からの応援を募る可能性があった。
なのでその前に一気に攻め込んで、竜王を討つぜヒャッハーということとなった。
「こ、これは大変なことになったぜ……」
戦力差から考えてさすがに武力行使には出ないだろうと思っていたらしいクロが、わなわなと唇を震わせている。
黒輝竜ではあるが、彼女はこの戦いに乗り気ではないようだ。
「安心しろ、クロ。俺が何とかしてやる」
「って、何でテメェがここにいるんだよ!?」
え? 最初からずっ~~~といたぞ?
まぁ〈隠密・極〉を使ってたから、誰も俺の存在には気づいていないけどな。
完璧にスパイをこなした俺は、続いて竜王のところに行ってみることにした。
竜王――つまり、シロの親父さんだ。
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