第101話 看守長ゲイビム
――天獄・地下四階
「ここに……姉さんがいるはず……」
天獄の最下層は地下四階だ。
最も大きな罪を犯した堕天使たちが収容される場所である。
「目がちかちかするなー」
思わず目を眇めてしまう。
というのも、絶えず頭上から無数の雷が降り注いでいるせいだ。
常に電流を浴び続けなければならない。
それこそがこの最下層の刑罰である。
「……さすがの私でも……天力が切れれば、一週間と、持たない……早く姉さんを……助けないと……」
「あばばばばばば! チョーキモチイイッ!」
「……何をしてる?」
「おっと悪い。電撃を見たら、つい浴びたくなる癖が出てしまった」
「控えめに言って、頭おかしい……」
マジで?
『わたくしも同感です』
ナビ子さんまで……。
「にしても門番が見当たらないな。こんな階層、さすがに門番が務まる奴がいなかったのか」
「好都合……」
ん? ちょっと待て。
「この階層にもルシーファはいないっぽいぞ」
「……え?」
「俺の〈探知・極〉はこの階層全体をカバーしてるんだが、あいつらしき生物の気配がないんだよ」
「……そんなことは、ない……姉さんは、最下層に、いるはず……」
「いや本当だって。たぶん、このさらに下の階のようだな」
「下の階……?」
「秘匿されている階層があるのかもしれないぞ」
ただし〈探知・極〉で見る限り、下層へと通じる階段らしきものはない。
「何か別の手段で下層に行くのかもしれないな。探してみるか」
しかし問題はこの雷の雨だ。
今は階段を降りてすぐの場所だから回避できているが、この階層を移動しようとしたら喰らい続けてしまう。ドラ〇エのバリアの床みたいな感じで。
「結界を……張る……」
雷を避けるため、ガブリエナが天力で結界を展開してくれた。
結界に雷撃が当たってバリバリバリという凄まじい音が頭上で響く中、俺とガブリエナは階層を探索していく。
今までの階層もそうだったが、あちこちに牢屋が設置されていて、罪を犯した堕天使たちはその中に捕らわれている。
最下層だけあって数はかなり少ないようだ。
天力によって頑張って雷撃を防いでいる堕天使もいるが、すでに事切れて焼身死体と化している者もいた。
「おっ、ここが怪しいな」
階層の奥に不自然な小部屋が存在していた。
中には誰もいないが、部屋の中心に大きな水晶玉が浮かんでいる。
「これは……恐らく、転移を引き起こすためのもの……」
どうやら転移して別の場所に飛べるようになっているらしい。
その先にルシーファがいるのかもしれない。
天力によって起動するようで、それもガブリエナに任せた。
彼女が天力を流し込むと、水晶玉から煌々とした光が噴き出してきた。
気づけば俺とガブリエナは別の場所へと転移していた。
「なるほど、異空間か」
「天獄に、こんなところがあったなんて……」
周囲には真っ白い空間が広がっていて、一直線に続く足場が浮かんでいる。
恐らくこれも天力で引き起こしている現象だろうなのだろうが、足場の続く先は靄がかかったようにぼんやりしていてよく見えない。
とりあえずこの足場に沿って進んでいくしかなさそうだ。
「あら、ガブリエナ様じゃな~い。お久しぶりねぇ」
不意に声が聞こえてきて、靄の向こうから一体の天使が姿を現した。
「っ……ゲイビムっ……」
……ゲイ?
「うふふふっ、天界一の美少女天使、ゲイビムちゃんとはあたしのことよ❤」
こいつは天使……なのか?
いや、ちゃんと背中に純白の翼が生えているし、鑑定してみても、
ゲイビム
種族:天使族
レベル:‐
スキル:〈天力〉〈筋力上昇・極〉
と、確かに天使なのだが……
どう見ても女装したおっさんだ……。
筋肉ムキムキの巨漢で、泣く子がもっと激しく泣きそうな厳つい顔つき。
なのにばっちりメイクを施し、ピンク色のフリフリの衣装を身に纏っている。
「ああん? 誰がおっさんよぉ?」
めっちゃ睨まれた!? 心の中で呟いただけなのに!
「ていうか、あんた見かけない天使ねぇ?」
〈変身・極〉スキルで天使の姿に変身している俺へ、ゲイビムは胡乱げな視線を向けてくる。
「……でも、なかなか良い男じゃない」
やめてくれぇぇぇぇぇぇっ!
表情の乏しいガブリエナも顔を歪めていた。
天使にとっても気持ち悪いのだろう。
「……ゲイビムは……ここ天獄の看守長……。階級は第二位の智天使だけど……強さでは、天界最強クラス……まさか、こんなところにいるなんて……」
どうやらあの見た目のせいで顔を顰めている訳ではなかったらしい。
てか、こいつが看守長なのか……。
むしろこいつこそ牢獄に入れるべきじゃないだろうか。
見た目だけで堕天使認定していいと思う。
「でも、おかしいわねぇ? 天獄への入場許可なんて出していたかしら?」
分厚い唇に人差し指を当て、可愛らしく小首を傾げて見せるゲイビム。全然まったく可愛くない。
「……許可なんて取っていない。……姉さんは、どこ?」
言い逃れは不可能と判断したようで、ガブリエナはストレートにルシーファの居場所を問う。
「うふふ、なかなか微笑ましい姉妹愛ねぇ。だけど、残念ながらそれが裏目に出てしまったみたい。ここは天獄の秘匿領域。熾天使のあなたと言えど、こんなところにまで不法侵入したとなれば、ただでは済まないわよぉん?」
「……覚悟の、上……」
ガブリエナは天力の槍を顕現させる。
強引にあの化け物を排除して押し通るつもりだ。
「だけど、さすがにガブリエナ様を一人で相手するのは、あたしでも辛いわぁ。だ、か、ら……」
そのときだ。
突如として周囲に大量の模造天使が姿を現す。
「うふふ、言った通りここは秘匿領域よぉ? 侵入者を排除するため、これくらいの備えはしているわぁ」
ステータスを見る限り、ゲイビムは確かにガブリエナに匹敵する強さを持っている。
それに加えて、これだけの模造天使だ。
さすがに強引に押し通るにしても骨が折れそうだな。
「だが、こんなときこそ再びあいつの出番だ」
俺は召喚魔法を使った。
「はぁ、やっと撒くことができたわ……ほんと、何だったのよ、あののっぺらぼうの不気味な天使は…………って!?」
「ベルフェーネ、また頼んだぞ」
突然現れた大悪魔に模造天使たちが一斉に反応した。
さらにはゲイビムも、
「こんなところに悪魔!? くっ、あの忌々しい輩を早く排除するわよ!」
意識が完全にベルフェーネへと向いた。
「何でこんな役目ばっか押し付けるのよおおおおおおおおおおっ!?」
ベルフェーネが逃げ惑い、ゲイビムと模造天使たちが追い駆けている隙に、俺とガブリエナは先へと進んだのだった。
そしてやってきたのは、秘匿されていた真の最下層。
そこには――
「はぁはぁはぁ! もっと、もっとだっ! もっとぼくを強く打擲してくれぇぇぇぇッ!!!」
「嫌ぁぁぁぁっ、もう嫌ですわぁぁぁっ! わたくし、男が喜ぶ姿なんて見たくないですのおおおおっ!!!」
全裸で四つん這いになったイケメン天使と、その尻に泣きながら鞭を入れ続けるルシーファの姿があった。
なんだ、これ……?
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