第130話 竜小屋

 炬燵の中で丸くなってしまったドラゴンを放置して、俺は隣の部屋へ移動した。


「こっちにクロとチロの部屋もあるぞ」

「えっ? オレらの部屋もあるのかっ?」

「ほんとなのです!?」


 これまで一緒に部屋を見て来たからか、二人は期待に目を輝かせた。

 俺はそんな二人を案内する。


「ここだ」


 そこはファンシーな壁紙や絨毯で彩られた可愛らしい部屋だった。

 ピンク色のベッドには天蓋が取り付けられており、まるで御伽の国のお姫様でも暮らしてそうな雰囲気である。


「さ、さすがにこれはちょっと可愛すぎねぇか……?」

「少なくとも、ねーさまにはぜんぜん合わないです……」

「そうそう、オレは女らしさの欠片もねぇし、こんな――って、おい、誰が女らしさの欠片もねぇだ!」

「それ、じぶんで言ったです」


 俺は二人の勘違いを訂正した。


「何を言ってんだ? この部屋はフィリアのために作ったものだぞ」

「わーい! かわいーっ! ふかふかーっ!」


 フィリアは喜んでくれたようで、ベッドにダイブして小さな身体をバウンドさせている。


「二人の部屋はそれだ」


 俺は部屋の隅に置かれていたあるものを指差す。


「って、犬小屋じゃねぇかよ!?」


 それは小屋だった。

 と言っても、人が何人か入ることができるほどの大きさだ。


「ペットだしな。正確には竜小屋だ」

「だからオレらはペットじゃねぇ!」

「あたちもです!」


 俺は小屋を指さして「ハウス」と言ってみた。


「入るか!」


 むう、どうやら気に入ってくれなかったらしい。

 ちゃんと中にはトイレも作ったってのに。


「ただのトレーじゃねぇか!?」

「トイレ用トレーだぞ。トイレシートは吸水性に優れて、しかも強力消臭! 大型犬でも使えるワイドタイプだ」

「今はっきり犬って言ったよな!?」


 クロはそう鋭くツッコんでから、


「だいたいアイツにはちゃんとした部屋があるってのに、何でオレらにはこれなんだよっ?」

「第三級ペットだからな」

「だからペットじゃねぇし! しかも第三級ってなんだよ!?」

「ペットに相応しい行動を取っていれば加点され、自ずと階級が上がって行くんだ。シロのように個室を貰えるチャンスがある。だからお前たちも頑張れよ」

「頑張って堪るか!」


 俺はベッドの上で半分目が閉じかかっていたフィリアに声をかける。


「フィリア」

「ふえ?」

「ちゃんと二人を躾けるんだぞ」

「はーい!」


 部屋を出ようとすると、クロとチロが「おい待ちやがれ!」「ペットじゃないのです!」と言いながら追いかけてきたが、フィリアが「ハウスハウス!」と叫びながら二人を強引に犬小屋、じゃない、竜小屋へ連れ込もうとする。


「ちょっ、やめろっ!? だからオレはペットじゃねぇ!」

「めっ! おとなしくするの!」

「なんであたちらが怒られてるです!? ていうか、力が強すぎるのですっ!」


 うんうん、フィリアならちゃんとやってくれそうだ。


『……マスターには彼女たちの悲鳴が聞こえないのでしょうか?』


 フィリア部屋を後にした俺は、魔界からベルフェーネを召喚した。


「ふぇっ?」


 現れた彼女は下着姿だった。

 うむ、眼福、眼福。


「だから何でいつもいつも変なタイミングで呼び出すのよ――ッ!?」


 どうやら着替えている最中だったらしい。


 いやー、またやっちまったみたいだなー、めんごめんごー(棒)。


『マスター、しっかり見計らった上で召喚されてますよね?』


 ナンノコトカナ?


「今回呼び出したのは他でもない」

「ちょっ、何事も無かったかのように進めないで! せめて着るもの出してよっ!?」

「ベルフェーネのために個室を用意したんだ」

「人の話を聞いてよ!」


 俺はその部屋へと向かった。

 何を言っても無駄だと悟ったのか、ベルフェーネは涙目になりながらも下着姿のまま後をついてくる。


「ここだ」

「これはっ……」


 部屋に入るなり、ベルフェーネが目を瞠った。

 俺の渾身の一室だからな。

 驚くのは当然だろう。



 部屋の真ん中に便器があった。



「って、何でこんなところがトイレになってるのよ!?」

「これならいつでも好きなときに用を足せるだろ? もう二度と漏らす心配もない!」


 ベッドからも近いので、寝ているときに尿意がきても大丈夫だ。


「人をそういうキャラにしないで欲しいんだけど!? だいたいあんたが勝手に召喚するから……その……も、洩らしちゃうんでしょうが……!」


 部屋のど真ん中に便器を置くなんて我ながら斬新な発想過ぎて心配だったのだが、どうやら気に入ってくれたようだな。


「何で満足そうな顔してんのよ!?」

「よし、じゃあ早速、使い心地を試してみてくれ」

「人の話を聞いてってば!」

「さあ早く。俺のことなんて気にせずに。ぐへへ……」

「しかもあんたの目の前でやれっていうの!?」


 残念ながら追い出されてしまった。


 ドアの向こうから声が聞こえてくる。


「すごい、便座が温かいんだけど!」


 何だかんだで実際に座ってみたらしい。


「便座が温かいのは暖房機能が付いてるからだ」

「このボタンは? ……ひゃあっ!? ちょっ、何か出て来たんだけど!?」

「温水でお尻を洗ってくれる機能もあるんだ」

「ど、どうすれば止まるの!?」

「一番左のボタンを押せば止まるぞ」

「一番左ね! ――ひゃわん!? ぎゃ、逆に勢いが強くなったんだけど!?」


 おっと、どうやらボタンを間違えたようだ。


『マスター、前にもまったく同じことをしていた気がするのですが?』


 はて、何のことやら?


「んんっ……あっ……だ、だめぇっ……」

「大丈夫か! 今助けてやるぞ!」

「入って来ないでよおおおおおっ!?」






 とりあえずこれで主要な部屋はすべてお披露目できたな。

 みんな喜んでくれたようで何よりだ。


「おかしいですね。最後の二つは悲痛な叫び声が聞こえてきた気がしますが?」

「うん、気のせい気のせい」


 俺は今、自分用に作った部屋にいる。

 ホテルの最上級スイートルームのような高級感溢れる一室だ。


 二階のキャンピングカー前方に位置する場所で、広い窓からは前方を見渡すことができた。

 マジックミラーになっているため、全裸でいても外から見られる心配はない。


「だからと言って、全裸になる必要はまったくないかと」


 と、さっきからちょくちょく俺にツッコんできているのは、見た目十六、七歳くらいの少女だった。


 いかにも大和撫子といった清楚な雰囲気の黒髪美少女で、インテリジェントな眼鏡をかけている。

 生徒会長とかやってそう。


 しかし着ているのはメイド服だ。

 なのにしっかりと着こなしていて、とても似合っていた。


 そんな彼女に冷めた目で裸体を見られ、俺は今、大変興奮しています。


「マスターが見られて喜ぶ性癖なのは理解していますが、早く服を着てください」


 そう言わずに、もうちょっと見れくれよハァハァ。


 まぁ冗談はさておき。

 彼女のこともお披露目しないといけないな。


「じゃあ、、俺がみんなをリビングに集めるから、呼んだら出てきてくれ」


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