第131話 魔導人形ナビ子さん

「今日はみんなに紹介したい人がいるんだ」

「えっ、誰ですか?」

「何者なのだ?」

「あたらしいぺっとー?」

「ん。お腹すいた」


 キャンピングカーのリビング。

 俺はティラたちに告げた。


「俺の新しい愛人だ」

「違います」

「ちょっ、勝手に出てきちゃダメだろ」

「マスターが勝手に愛人などとのたまわれるからです」


 いきなり現れたメイド服姿の美少女に、ティラたちが目を丸くする。


「この人は……?」

「改めまして、ナビ子です」

「えええっ? ナビ子さんというのは、このキャンピングカーではなかったのか!?」


 エレンが頓狂な声を上げた。


「正確には、マスターが所有される〈道案内(ナビゲーション)・極〉というスキルです。今まではNABIKOに取り付けられた外部スピーカー等によって、皆様とコミュニケーションを取らせていただいていました。ですがこの度、マスターにより新たに人型の肉体を与えられたのです」


 そう。

 この美少女の正体はナビ子さんであり、その身体は俺が製作した魔導人形だった。


「ぐへへっ……美少女っ……美少女が追加されましたのぉぉぉっ!」


 鼻息荒く喜んでいるのはルシーファだ。


「フィリア様と基本設計はほぼ同じです」


 大賢者が作ったフィリアだが、〈鑑定・極〉スキルでその構造を完全に解析していた俺にとって、それを元に一から新しい魔導人形を作り出すことくらい簡単なことである。


「おなじー?」

「つまり我々は姉妹と言えるかと」

「しまいー? フィリアの、おねーしゃん?」

「いいえ。わたくしの方が後に作られましたので、フィリア様は姉に相当します」

「フィリアが、おねーしゃん?」

「はい」

「わーい! いもーといもーと!」


 ナビ子さんに抱きついて大はしゃぎするフィリア。

 どう見てもフィリアの方が妹だが。


「これからはメイドとして皆様に御仕えさせていただきます。何かございましたら、何なりとお申し付けください」


 スカートの端を軽く摘まみながら、優雅に一礼するナビ子さん。

 彼女にはありとあらゆるメイドスキルを搭載しており、お辞儀の仕方も完璧だった。


「もちろんメイドだから戦闘もできるぞ」

「それメイドじゃないですよね!?」






 それから俺たちはいったん外に出た。

 よし、これくらい開けた場所なら十分だろう。


 俺はナビ子さんに命じる。


「その力を見せてやってくれ。相手はエレンがいいだろう」

「畏まりました、マスター。エレン様、どうかご容赦を」

「へ?」


 ナビ子さんが右腕を前方に掲げると――ガシャン。

 手首が折れ曲がり、中から銃口が飛び出してきた。


「参ります」


 ズドドドドドドドドドドドドドドドッ!


 ナビ子さんの腕から連射されたのは無数の銃弾だ。

 一秒間に約七十発を撃つことが可能。

 彼女の右腕は機関銃になっているのである。


「ぬおおおおおおおおっ!?」


 エレンは咄嗟に腰の剣を抜いてこれに対処。

 嵐のように迫りくる弾丸を、なんとすべて剣で斬り落としていく。


「おお~、さすがエレン」


 銃弾を剣で斬るなんてどう考えても人間業ではなく、漫画の世界だな。

 まぁここは異世界だし、似たようなもんだ。


「何なのだこれはっ!? あたしを殺す気か!?」

「違う! これは剣の訓練だ!」

「はっ? そうか! これは訓練! うむ! 頑張るのだ!」


 相変わらずアホでチョロイ。


「ナビ子さん、左腕も使っていいぞ」

「了解です」


 今度は左腕の手首が変形する。

 ラグビーボールのような楕円体の銃砲だ。


 直後、そこから球状のエネルギー弾が発射された。

 正確に言えば、太陽エネルギーを圧縮した弾丸である。


「つまり、ロッ〇バスターだ!」


 もちろんチャージもできるよ!


 エレンは咄嗟にそれも剣で斬ろうとするが、


「エレン、それは剣では斬れないぞ」

「ぬわっ!?」


 刃をすり抜けてしまう。

 慌てて上体を反らして回避するエレン。


 あれはエネルギー弾だからな。

 細い刀身では一部を防ぐだけで、そのまま通り抜けてしまうのだ。


「っと、ぬおっ、くっ!」


 剣では防げないと悟ったエレンは、右に左にと動いて懸命に回避していった。


「こ、これでは剣の訓練ではないのでは!?」

「阿呆! 身のこなしを鍛えることも大事な修行だ!」

「な、なるほど……っ!」


 実際にはナビ子さんのための試し打ちです。


「よし、かなり慣れてきたようだな。なら、連射速度を上げよう。ナビ子さん」

「畏まりました」

「ぬぅっ!?」


 ペースアップしたことで、エレンは段々と避け切れなくなってしまう。

 エネルギー弾が掠め、その部分の防具が破壊されていく。

 結果、エレンはどんどん裸に近づいていった。


「いいぞ、ナビ子さん! その調子だ! ハァハァ」

「こ、これはもう訓練ではないだろう!?」

「阿呆! どんな状況でも戦えずしてどうして超一流の剣士と言える! お前は入浴中に暗殺者に襲われたとき、裸を見られることに戸惑っていたら死ぬぞ!」

「確かにその通りだ!」

「それに先日のダンジョンでの訓練を思い出せ!」

「はっ!? そ、そうだ! 裸を見られることなど大したことではない! むしろ堂々と見せてこそ一流の剣士! ハァハァ」


 見られることの快感を思い出したのか、エレンは鼻息荒く頬を紅潮させる。


「よし、ナビ子さん、そこでチャージショットだ!」

「……了解です」


 ナビ子さんの左腕のバスターが発光し、エネルギーを充填。

 そして先ほどまでの数十倍の威力を誇る巨大なエネルギー弾が発射された。


「来るのだ!」


 それをエレンは避けようともせず、その場に仁王立ちして待ち構える。


 ずどおおおおんっ!


 エネルギー弾はエレンに直撃した後、そのまま空彼方へと消えていった。


「ふ、ふふふふ……耐えた……あたしは耐えたのだ」


 まともにエネルギー弾を浴びたエレンだったが、一歩たりとも動いていなかった。

 なんと、あのチャージショットを完全に耐え切ってしまったのだ。

 ただし防具はすべて焼失し、完全に真っ裸である。


「うへへ……み、見られてる……みんなに見られてるぅ……」

「よくやったぞ、エレン!」


 俺は感動を分かち合うため、両腕を広げて彼女に近づいていく。

 いざ、全裸ハグ!


「いい加減にしてください―――ッ!!」


 ティラに杖で頭を叩かれた。







「しまったな。ナビ子さんのお披露目会だったはずが、気づいたらエレンの全裸お披露目会になってしまった。あー、しまったしまった」

「マスター、白々しいにもほどがあるかと」


 ちなみにナビ子さんの性能はこれだけではない。


「おっぱいからレーザービームを発射することも可能だ」


 いわゆるチクビームだ。

 ただし服に穴が開いてち〇びが丸出しになってしまうので、その都度、修復しなければならないのが難点である。


「あと、尻から火も出せる」


 その威力は獄炎竜のブレス並だ。

 こちらもパンツとスカートの後方部分が確実に消失してしまう。


「……どちらも絶対に使いたくありません」


 ナビ子さんが半眼で呟く。


「しゅごーい! みたーい!」

「フィリアちゃん、ダメです」


 目をキラキラさせながら要求するフィリアだったが、それをティラが咎めた。


「どーして?」

「ダメなものはダメです」

「ぶー」


 せっかく作ったのになぁ。

 まぁでも、いつか使わざるを得ない状況がくるかもしれない……(フラグ)。


「一体どんな状況ですか、マスター」






【後書き】

ルシーファ「ところで、なぜわたくしの部屋の紹介シーンがカットされてますの?」

作者「自主規制」

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