第44話 脱獄補助

「これでまた一人寂しくこの城に籠ってオ○ニーし続ける毎日ですのね……」


 俺に敗北を喫した天使ルシーファは、がっくりと項垂れた。


「ほんと何なんですかね、この天使は……」


 ティラが汚物でも見るような目をして呟く。


「ああ……わたくしを慰めてくれるのは自分で作った彫像たちだけですわ……」

「やっぱりあなたが作ったんですかッ!」


 予想通り、外や城内にあった彫像はすべてこの天使が作ったものだったらしい。


「ずっと城の中に閉じ込められていたのに、よくあんな多彩なものを作れたな?」

「当然ですわ。天使には下界を覗く能力が与えられてますの。それで色んな女体を研究したのですわ」

「そんなことに天使の能力を悪用しないでください!」

「悪用とは心外ですわね。あれは芸術ですわ!」


 その芸術をオ○ニーに使う天使である。

 と、そこで俺はあることに思い至った。


「まさか、あのエルフ像は……」

「エントランスに飾っていたものですわね? あれはわたくしのお気に入りの一つですわ。もちろん、本物のエルフを覗きながら作ったんですの。……あれ? そう言えばこの方、あの像とかなり似てますわね…………っ、もしかして!?」


 どうやらティラがモデルだったらしい。

 似ているわけだ。


「ああ! 道理で初めて会った瞬間から他人とは思えなかったんですわね!」

「完璧に赤の他人ですから! ていうか、何で勝手に覗いてるんですか!」

「これは運命ですわ! もうわたくしたちは結ばれるしかありませんの!」

「人の話を聞いて下さいッ!」


 大声でツッコんでから、ティラは昏い声音で呻いた。


「……あの彫像、ぶち壊しておいて正解でしたね……」


 天使が愕然と目を見開く。


「ななな、なんてことするんですの!? わたくしの最高傑作の一つでしたのに! ああでも、本物を堪能できるのであれば……」

「できませんから!」

「そうだぞ。お前は俺に負けたからな。ティラを堪能できるのは俺だけだ」

「あなたもできませんから!」

「くっ……なんて羨ましいんですの!」


 ルシーファは縋るようにティラの足にしがみ付いた。


「せめて! せめて口づけだけでも!」

「しません!」

「では舌を! 舌を入れさせてください!」

「もっとダメですッ!」

「下のお口でも!」

「今すぐ離れてくださいッ、この変態天使ッ!!!」


 ティラが容赦なくルシーファを蹴り飛ばす。


「うぅ…………しくしく……」

「ママー、てんしさん、ないてるよー?」

「フィリアちゃんは優しいですね。ですが騙されてはダメです、あれは演技ですから。さあカルナさん、早くここを出ましょう」


 泣き崩れる天使を冷たく放置し、ティラが急かしてくる。


「ていうか、この島から出られないってどういう状態なんだ?」


 気になって問うと、ルシーファは深い溜息を漏らした。


「島の外に出たとしても、強力な天力によって島の内部へと引き寄せられてしまうのですわ。残念ながらわたくしの力でも逆らうことはできませんの」

「へー。試してみるか」

「はい?」


 俺は転移魔法を使い、ルシーファと一緒に飛んだ。

 一瞬で視界が切り替わると、そこは島を見上げる地上。


「普通に外に出ることができたけど……って?」

「こうなるのですわあああああああっ!」


 ルシーファが本人の意思に反して凄まじい勢いで空へと舞い上がっていく。どうやら島へと引き戻されているらしい。


「呪いの一種なのか?」

『いいえ。天力によるものですので、呪術とは別物です』


 俺の〈呪術・極〉スキルで解呪できるかと思ったのだが、呪いでないというのなら不可能だ。


「となると、またこいつを使うか」


 俺は転移魔法で天使に追い付くと、〈反転・極〉スキルを使った。


「っ!? 今度は島が遠ざかっていきますわ!?」


 島に引き寄せられるという性質を反転させ、引き離される力に変えたのだ。

 だが天使は地面に落下すると、そのまま土の中へとめり込んでいく。


「逝くぅぅぅっ! 大地の中にッ、大地の中に逝っちゃううううっ!」


 天使の悲鳴が轟く。あのままだと世界の裏側まで行ってしまいそうだ。この世界が球形だったらの話だが。


『この世界は円盤の形をしています』


 って、球形じゃないのか、この世界。

 まぁそれはともかく。

〈反転・極〉では駄目だったな。想定内だが。


「どうすればいいと思う?」

『天使とあの島との間に天力が働いています。それを断ち切ればよいかと』

「となると、このスキルが使えるか」


 スキル〈絶対切断・極〉

 単にどんな硬いものでも切り裂けるというだけでなく、事象や目に見えない力すらも切り裂くことが可能なチートスキルである。


「おりゃ」


 天使と島とを結ぶ光の柱のようなものを切断するように、俺は剣を横に薙いだ。


「逝くぅぅぅっ…………あれ?」


 地面の中からルシーファの驚く声が聞こえてきた。

 どうやら無事に解放されたらしい。








「わたくし決めましたの!」


 天空の城へと戻るとルシーファがいきなり宣言した。


「助けていただいたカルナ様のペットになりますわ!」

「何で本当に天使をペットにしてるんですか、あなたはッ!?」


 ティラが俺に詰め寄ってくる。


「いや、こいつの方から言い出したんだよ」

「で、す、が!! カルナ様にはすでにシロ様というペットがいて、そのお世話でお忙しいとのこと!」


 俺のジト目を無視し、ルシーファは勝手に話を進めていく。


「つきましてはわたくしのお世話を、ティラ様に担当していただきたく思いますわ! じゅるり」


 舌舐めずりしながらティラの方を眺め見る天使。


「嫌です!」

「そんなつれないことを! わたくし、ティラ様の言うことであれば何でも聞きますわ! どんな卑猥で鬼畜な命令でもどんとこいですの! ハァハァ!」

「カルナさん! この天使、早くどっかに捨ててきてください!」

「あああっ、まるで犬猫のような扱い! 逆に興奮しますわぁぁぁっ!」

「こんなペット、絶対に飼いたくないですッ!」


 というわけで、我が家に新しいペット(変態)が加わった!

 タラララララ、タララララララ、タララララララララ~ラ~♪


「って、何で勝手に決めてるんですかぁぁぁっ!」

「わーい!」

「フィリアちゃんも喜ばないでくださいッ!」







 ルシーファに案内され、俺たちはこの城の宝物庫へと連れて来られた。


「この場所に閉じ込められて以降、わたくしがこつこつと作り続けてきた芸術作品たちを保存しているのですわ。可能であれば幾つか持っていきたいのです」


 重厚な扉を開くと、そこは宝物庫とは思えないくらい広々とした空間だった。

 だが凄まじい数の彫像によって埋め尽くされていた。


 もちろん全部えっちいやつである。

 というか、外にあったものよりもさらに過激だぞ。しかも彫像だけでなく卑猥な絵画なんかもある。


「素晴らしい。全部持っていこう」


 俺は宣言した。〈無限収納〉スキルがあるため、幾らでも格納することが可能なのだ。


「サンダーストーム」


 突然ティラが雷撃を放った。

 幾つもの雷光が走り、近くにあった彫像たちが粉々にされる。


「ああああああああああああっ!? 何するんですのぉぉぉっ!?」


 目の前で作品を破壊され、悲鳴を上げるルシーファ。


「サンダーストーム」


 しかしティラはガン無視し、次々と破壊行為を繰り返していく。


「はっ? もしかしてこれは嫉妬!? 自分だけを見て欲しいという、ティラ様の気持ちの表れですのね! それならば仕方ありませんわ! わたくしは涙を呑んで、ティラ様ただお一人に心身ともに捧げると誓いますのぎゃあ!?」


 雷撃は天使にまで飛来した。

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