エルフの里再び編
第136話 里帰り
王様は助かり、第二王女が犯人であったことが判明した。
「これで一件落着だな」
「……そうですかね? むしろ今後のこの国の行方が非常に心配なのですが……」
「そこはまぁエスベルトが頑張るだろう」
そのエスベルトは「唯一まともなのは僕だけ……だから僕が何とかしないと……」と呟いていて、使命感に燃えているようだ。
「これはあたしも修行の旅を切り上げねばならないかもしれないな……」
「そ、それだけは絶対にやめてください、姉様っ!」
エレンがぼそりと言うと、エスベルトは悲鳴じみた声で叫んだ。
「大丈夫ですから! 姉様はこれまで通り、剣の道を追い求めていればいいんです!」
「む? そうか?」
「カルナさん! これからもエレン姉様のことをよろしくお願いします!」
エスベルトの目は「どうか早急に連れ帰ってください」と必死に訴えていた。
とはいえエレンにとっては久しぶりの帰省なので、それから数日滞在して、
「せっかくだし、ティラたんの故郷にもいくか」
「いいんですか?」
「お義父さんとお義母さんに意思を固めたことを報告しないとだしな」
「固めてませんし固める気もありません」
「ああああああああっ! ティラ様の故郷っ! その響きだけでわたくし漏れてきちゃいますわぁぁぁぁぁぁっ!」
「やっぱり行くのはやめましょう」
そんなわけで。
アルサーラの王都を出発し、やってきましたのは大森林にあるエルフの里。
「ここがティラ様ご聖誕の地……はぁはぁ……」
里に入るや、ルシーファが涎を垂らしながら興奮している。
まるでアニメの聖地巡礼に来たオタクのようだ(偏見)。
「……カルナさんのとき以上に両親に会わせたくないんですけど……」
「心配は要りませんわぁっ! わたくしTPOは弁える天使ですもの!」
「どの口が言うんですか……天使として最低限の倫理観すらないのに……」
「もちろん下の口ですわ!」
「カルナさん。この堕天使をどこか遠くに飛ばしていただければ、エレンさんを好きにしていいです」
「お安い御用だ」
「ちょっ、何であたしを売るのだ!?」
俺はルシーファに転移魔法を使う。
「じゃあな、兄のミカエールに可愛がってもらってこい」
「それだけは絶対に嫌ですわあああああああ――」
ルシーファを天界の監獄に飛ばしてから、俺たちは里の中へ。
後でエレンの胸を揉ませてもらおう。
「なぜあたしが……酷いのだ……」
「すいません、背に腹は代えられませんでしたので」
ティラの屋敷に行くと、ご両親が出迎えてくれた。
「ティラぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? うおおおおおっ! 会いたかったぞおおおおっ!」
相変わらずのティラパパが、感極まった様子で勢いよくティラに抱きつこうとしたが、ティラはあっさりとそれを回避。
「ぶごっ!?」
ティラパパは壁に激突した。
「なぜ避けるのじゃぁ~っ!?」
「お母様、ただいま帰りました」
「あら、お帰りなさい」
「まさかのスルーっ!? わし、スルーされた!?」
「お義父さん、息子が帰りました」
「お前のパパになったつもりはな~~~いっ!」
相変わらずティラパパは元気のようだ。
「うああああああん!」
「あらあら、お父さんが大きな声を出すから。よしよし、良い子だからねー」
「って、お母様……? その子は一体……」
ティラママがなぜか赤ん坊を抱いていた。
ようやく首が座りはじめたばかりといったところだ。
ティラママは赤ん坊をあやしながら言った。
「あなたの妹よ?」
「……何で教えてくれなかったんですか」
ティラがジト目で問い詰めると、ティラママはあっけらかんとした様子で、
「だって、その方が驚くと思って」
二人目の子が生まれたのは、二か月ほど前のことらしい。
「となると、ヤったのはちょうど俺たちが里を去った頃か」
「変な推測しないでくださいよ!?」
それまで呪いで苦しんでいたティラママが元気になったわけだし、そりゃあヤることはヤるだろう。
「レーラというのよ。お姉ちゃん、よろしくねー?」
ティラママが手を振らせてみると、すっかり泣き止んだ赤ん坊は、円らな目をティラに向けて「あうあう」という声を発する。
とても可愛い。
しかも姉妹だけあって、ティラとよく似ていた。
ぜひお義兄さんにおしめを代えさせてほしい。
「……カルナさん?」
「なんでもないです」
ティラは時々ナチュラルに心の中を読んでくるから怖い。
……エッチな妄想も読み取ってくれるかな? ハァハァ。
フィリアが俺の服の裾をくいくいと引っ張ってきた。
「いもーとー?」
「いや、フィリアから見たら……叔母?」
レーラは生まれながらにして叔母さんなのか……。
「それにしても、あの天使を連れて来なくて良かったです」
「確かにな。さらっていきそうだ。『自分好みに育てたかった』とか言って」
「さすがにそこまでは……………………するかもしれません」
天使の名誉のために言っておくが、もちろんルシーファが特殊なだけです。
……ミカエール……ゲイビム……うっ、頭が……。
ティラパパがでれでれの顔をレーラに寄せていく。
「レーラちゃ~ん、次はお父さんに抱っこされたいでしゅね~?」
「うああああああっ!」
レーラは再び泣き出してしまった。
「なぜじゃ!? なぜわしはダメなんじゃあっ!?」
生まれたばかりの娘にまで拒否られるティラパパ。
「よしよし、お義兄さんになら抱っこされてもいいよなー?」
「あうー」
俺が抱きかかえると、レーラはあっさりと泣き止んだ。
柔らかいし温かい。
「あらあら、お兄ちゃんには懐いてるみたい」
「あうあう」
「何でじゃ!? 何でわしはダメでこいつはいいんじゃ~~っ!?」
はっはっは。
やはり純粋な赤ん坊は誰の心が清らかなのか、直感的に分かるようだな。
『マスター、魅了魔法を使いましたね?』
うん。
ところでナビ子さん、せっかく身体を作ってあげたのに、何ゆえまた台詞だけの人に?
『やはりこちらの方がしっくりきますので』
身体の方はNABIKO内に放置されているという。
頑張って作ったのに……。
もしかしておっぱいからレーザービーム出せるようにしたのが気に入らなかったのだろうか。
『それもあります』
あるのか。
「そうそう。ティラさん、あなたのお友達がいらっしゃってるわよ?」
「え? 私のですか?」
ティラママの言葉に、ティラがキョトンと目を丸くする。
どうやらティラの部屋にいるらしい。
「誰でしょうか……?」
「そもそもティラに友達がいたのか……?」
「し、失礼ですねっ! 私にも友達の一人や二人……い、いると思います」
いなさそうだ。
部屋に移動し、扉を開ける。
すると中にいたのは、
「はぁはぁ……ああっ、今わたし、あの人の匂いに包まれてるぅっ……はぁはぁ……」
毛布にくるまり、枕に顔を埋めてティラ成分を堪能している変態天使――じゃない。
グラマラスな褐色美少女だ。
「こいつは……アーシェラ?」
魔法都市でティラに敗北を喫した、学年首席のダークエルフだった。
「何でここに……って、人のベッドで何やってるんですか――――ッ!?」
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