第137話 残念リシェル
「人のベッドで何やってるんですか――――ッ!?」
「っ!」
ティラの叫び声でこちらに気づいたらしい。
ダークエルフの美少女アーシェラが、慌ててベッドから飛び降りた。
その際、大きな胸がばいんと跳ねる。
ありがとうございます。
「……お、お久しぶりね。御邪魔させてもらっているわ」
何事も無かったかのように取り澄ますが、口の端には涎が付いていた。
「何であなたが人のベッドで寝ているんですかっ!」
「そうだぞ! それは俺のベッドだ!」
「あなたのでもありません!」
ティラは母親に訴えた。
「何で勝手に家に上げているんですか? しかもダークエルフですよ?」
「だってティラに初めてお友達ができたって聞いて、嬉しくて……」
「と、友達くらいいますって……っ!」
フィリアが眉をハの字にして訊く。
「ママ……ぼっちなの?」
「だから違います! って、どこでそんな言葉を覚えたんですかッ?」
アーシェラがどこか偉そうな口調で言った。
「あら? 友達が一人もいないなんて随分と可哀想ね? もしあなたがどうしてもというのなら、わたしが友達になってあげてもいいわよ?」
「遠慮します」
ティラに即答されて、アーシェラはちょっと動揺しながら、
「……な、なんでよ? これでもリグレーン魔法学院では、〝男子に訊いた女友達にしたい人ランキング〟で第一位なのよ?」
それ、友達と言いつつどう考えても身体目当てだぞ。
アーシェラはダークエルフなだけあって、かなりエロい身体をしているのだ。
しかも水着並に露出度の低い服装で、その褐色の肌を惜しげもなく晒している。
「ああ、なるほど。わたしと一緒にいたらその真っ平らな胸が目立ってしまうものね」
納得がいったというふうに頷くアーシェラ。
ティラのまな板……じゃない、胸を貶すのは厳禁だ。
むしろティラは貧乳の方がいいと俺的には思うのだが、本人はかなり気にしているので沸点が低く、即座に雷撃が飛んでくるのだ。
「はぁはぁ……くる……あれがくるわぁ……」
こいつ、雷撃を浴びたいがためにわざと煽ったな。
しかしティラはぷるぷると全身を震わせながらも、耐えたようだった。
「ちょっ、何で撃ってこないのっ?」
「……それをするとこっちが負けるタイプの相手だと思いましたので」
「そんな……」
愕然とするアーシェラ。
「これでも毎日のように変態の相手をさせられてますので」
「ティラも大変だな」
「その半分はあなたなんですけど? その自覚あります? なさそうですよね?」
「激おこティラたんかわいい」
それにしても、一体彼女は何のためにここに?
まさかティラのベッドに包まれてハァハァするためだけに来たわけではないだろう。
「ち、違うに決まってるでしょ! この森の奥地にある生命の大樹に、魔法触媒の材料を採取しに来たのよ」
生命の大樹か。
以前、シロクロと一緒に高級食材を採りにいった大木だ。
「そうそう。リシェル先生と一緒にいらっしゃったのよ」
眠ってしまった赤ん坊を抱えながら、ティラママ。
「リシェル先生が?」
リシェルはティラの魔法の師匠であるハーフエルフだ。
37歳なのだが、強烈なドジッ娘属性の持ち主である。
だが屋敷にリシェルの姿はなかった。
「リシェルなら出かけて行ったわよ。最近、里の近くによく蜘蛛系の魔物が出るらしくて、それを討伐するって言ってたわね」
「もしかして一人でですか?」
「たぶんそうじゃないかしら。一応、止めたんだけど、『わたしを誰だと思ってるんですかぁ! リグレーン魔法学院の助教ですよぉっ! 助教っ!』と言って意気揚々と行ってしまったわ」
声マネがちょっと似ていた。
万年講師だったのに、助教に昇進したのか。
たぶん俺たちのお陰だろうけどな。
「先生が一人で魔物の討伐に……嫌な予感しかしないんですけど」
弟子にガチで心配される師匠、それが残念美人のリシェルなのだ。
というわけで、俺たちはすぐにリシェルの
◇ ◇ ◇
どうも美人過ぎる助教ことリシェルです!
そう。
助教ですよ、助教!
ついにわたし、昇格しちゃったんです!
これまでの頑張りが認められ、長き不遇の時代から脱したのです。
ふふふ、もはやわたしの時代がきたと言っても過言ではありませんね!
もう誰にも万年講師なんて言わせませんよ。
目指せ教授!
いつかきっと、あの性悪アーシェラを追い抜いてみせます!
わたしの目の前で悔しげに膝をつく姿が目に浮かぶようです。
と、それはそうと、わたしは今、エルフの里のある大森林にやってきています。
母親の生まれ故郷で、親戚も暮らしているここは、わたしにとって第二の故郷と言える場所です。
一時期、ここで暮らしていたこともありますし。
ティラさんに魔法を教えたのはそのときのことです。
今ではすっかり一流の魔法使いに成長した彼女ですが、わたしのことを「先生」と呼んで慕ってくれています。
お陰でわたしの株も上がりました。
……今のうちに里の子供たちに魔法を教えておけば……ふふふ……。
そんな打算もあって、わたしはこのに居る間だけでも魔法教室を開こうとしたのですが、
「あ、残念リシェルだ」
「ほんとだ、残念リシェル~」
「その呼び方はやめてくださぁいっ!」
なぜか子供たちからまったく慕われないです……(泣)。
「だって失敗したじゃん」
「木に火をつけて大人に怒られたし」
「うぐっ……」
そうなんです。
子供たちの前で意気揚々と火魔法を披露していたら、誤って近くの木に引火させしてしまったのです。
めちゃくちゃ怒られました。
「ですがっ! わたしはリグレーン魔法学院の助教っ! ほんの一握りの一流魔法使いなんです! これから挽回してやりますよっ!」
気合を入れ直します。
すでに〝当て〟はありました。
最近この里の近くに、今まではいなかった魔物がよく出没するというのです。
魔物を倒し、さらにはその原因を突き止めれば、きっと子供たちのわたしへの目も変わることでしょう。
というわけで、わたしは単身、里のさらに奥へとやってきていました。
あ、そういえば、どういう魔物が出るのか聞いてませんでしたね。
でも問題ありません。
「どんな魔物でもどんとこいですぅ!」
と、意気揚々と叫んだまさにそのときでした。
ぐるんっ。
「へ?」
いきなり視界が上下逆転しました。
なぜかわたしは空中へと逆さまに吊り上げられてしまったのです。
右足に何かが巻き付いていて、それがわたしを引っ張り上げたようなのです。
そうして宙を舞ったわたしが目にしたのは――
――巨大な蜘蛛でした。
「ぎゃあああああああっ!? 蜘蛛っ!? わたし、蜘蛛は大の苦手なんですけどぉぉぉぉっ!?」
何でよりによって蜘蛛なんですか!?
いえ、確かにどんな魔物でもって言いましたけど!?
ジタバタと暴れてみますが、足を拘束する糸を振り解くことはできません。
それどころか、木と木の間に作られた巨大な蜘蛛の巣へと捕えられてしまいました。
糸は強力な粘着力を有していました。
しかも動けば動くほど、身体に絡みついて身動きが取れなくなっていくという絶望仕様。
「ひいいいっ!?」
巨大蜘蛛が私の方へと近づいてきます。
死にたくないぃぃぃっ!
蜘蛛に食べられてなんて、死んでも嫌ですよぉっ!
「ふぁ、ファイアーランス!」
私は火魔法を発動しました。
蜘蛛の糸は火に弱い。
そのことを思い出したのです。
炎の槍を受けた糸は燃え上が――――りません?
どうやらこの糸、火への耐性があるようです。
……ヲワタ。
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