第141話 武術大会

 俺たちは街の一角にある闘技場へとやってきていた。


 戦闘民族であるアマゾネスたちは、その本能に従って、日夜、厳しい訓練と戦いに明け暮れているという。

 ここ闘技場では定期的に武術大会が開催されていて、女たちの熱い戦闘が繰り広げられているのだ。


「異民族がアマゾネスの女王に会うには、この大会に参加して一定以上の成績を上げないといけない、か」


 王宮の衛兵に言われたのは、そんな条件だった。

 で、その大会がちょうど数日後に行われるらしいので、だったら言われた通りに出場してみるのが手っ取り早いだろうと判断したのである。


「あたしに任せておくのだ! アマゾネスどもに修行の旅の成果をみせてやろう!」


 代表してエレンが出ることになった。

 鼻息が荒く、かなり気合十分だ。


 とりあえずエントリーしないといけないので、闘技場に併設された事務所へ。


「我らがアマゾネスの武術大会は甘くないぞ。無残な戦いをした弱者は殺されることもあるのだ。貴様にはその覚悟があるか?」


 と、事務所受付のアマゾネスに脅された。

 受付とは思えない筋肉質の美女である。


「心配は要らないのだ! むしろ優勝してみせよう!」


 エレンは胸を叩いて宣言する。


「……ふん、随分と自信家のようだな。その鼻っ柱が圧し折られるだけで済めばいいがな」


 鼻を鳴らし、皮肉っぽく言いながらエントリーシートを渡してくる事務系アマゾネス。


「さて、宿を探さないとな」


 ぶっちゃけ俺の今の最大の関心事は、武術大会などよりそれだった。


 もちろんちゃんとお風呂のある宿でなければならない。

 それも大勢が一度に入れる大浴場。


 だって女湯しかないに決まっているからな!


 女湯しかなければ女湯に入るしかないよね?

 それなら仕方ありませんね……とティラも折れてくれるに違いない。


『そんなはずないかと』


 ぐへへへ……アマゾネスの美女たちの裸体が目に浮かぶようだぜ……。


「別にNABIKOに泊まれば良くないですか? こんなことを言うのはこの国に申し訳ないですけど、NABIKOほど快適な設備が整っている宿があるとは思えません」


 ……勘のいい女は嫌いだよ……。






 数日後、武術大会の日がやってきた。


 大会に出場するアマゾネスたちは百人を超えているという。

 まずは予選が行われ、本選に出場できるのは僅か八名だけらしい。


 予選は八組に分かれていて、二十人以上が一斉に戦うらしい。

 勝ち残れるのはたったの一名だ。


 エレンは予選第一組への出場だった。

 大歓声の中、アマゾネスたちに交じって早速エレンが舞台に上がってくる。


「エレンさん頑張ってください!」

「ママがんばれーっ!」

「ん」


 俺たちは観客席から応援だ。


「任せておくのだ!」


 エレンは必勝を宣言するかのように剣を高く掲げてみせた。


 ちなみにエレン以外は全員がアマゾネスである。

 となると、下手をすれば協力して真っ先に倒されてしまう可能性もあった。


「だがエレン。お前ならやれると俺は信じているぞ」


 なぜならこれまで彼女は、幾つもの過酷な試練を乗り越えてきたからだ。


 裸に剥かれたり。

 胸を揉まれたり。

 触手に襲われたり。


「それ剣の修業とはまったく関係ないですよね?」


 予選が始まった。


「さあ、どこからでもかかってくるのだ!」


 エレンが威勢よく叫んだ。

 そんな挑発をしたら一斉に襲い掛かってこられるかもしれないが、それだけ自分の力に自信があるのだろう。

 ……単にアホなだけかもしれないが。


 だがそんなエレンの威勢とは裏腹に、アマゾネスたちはまったく見向きもせず、同族同士でぶつかり合った。

 彼女たちが使う武器は、剣や槍、斧、爪、バトルブーツ、鞭、ブーメラン、あるいは徒手空拳など、非常に多彩だ。


「……ど、どこからでもかかってくるのだ!」


 エレンは再び声を張り上げた。


 しかしやはりアマゾネスはエレンを放置。

 同族だけでやり合っている。


 ……もしかしたら雑魚は放っておいても良いと判断されたのかもしれないな。


「……いいもん、いいもん……どうせあたしなんて……」


 エレンが拗ねてしまった。

 三角座りになって、指先で地面をぐりぐりしている。

 まるで修学旅行の班決めで、一人だけ仲間外れにされてしまった子のようだ。


 誰か、可哀想なエレンを構ってあげてくれ。


 そのとき、アマゾネスの一人が忌々しげに声を荒らげた。


「弱者め! 神聖な大会を穢す貴様のような輩を、我らは許さぬ!」


 どうやらエレンの様子が気に障ったらしい。

 自身の体躯ほどもあろうかという巨大な斧を手に、エレンに襲いかかった。

 うじうじしているエレンの頭めがけ、振り下ろす。


「潔く死ぬがいいぞ!」


 マジで殺す気だ。


 だが次の瞬間、


 ズゴンッ!!!


 という凄まじい音とともに巨大な刃がエレンの後頭部に激突したかと思うと、


「……へ?」


 彼女の口からそんな声が漏れる。

 頭に斧の一撃を喰らったエレンは、それでようやく気づいたらしく、


「おおっ!?」


 目を輝かせながら立ち上がった。


「もしかしてあたしと戦ってくれるのかっ!」


 やっと出会えた相手に、エレンはとても嬉しそうだ。

 ちなみにまったくの無傷である。


 一方、信じられない形で武器を破壊されてしまったアマゾネスは、


「……き、棄権する」


 エレンの化け物っぷりを理解したのか、あっさりと白旗を上げた。


 エレンは天国から地獄に突き落とされたかのような顔になった。


「な、なぜなのだ……」


 しかしそこでエレンは思い直したらしい。


「そっちが来ないのなら、こちらから行ってやるのだ!」


 エレンが地面を蹴った。

 一瞬にして一番近くでやり合っていたアマゾネスの二人に肉薄すると、剣を一振り。


「「っ!?」」


 二人のアマゾネスが剣圧だけで吹っ飛んでいった。

 そろって観客席に突っ込み、激突して気を失う。


「どんどん行くのだ!」


 さらにエレンは自分からアマゾネス同士の戦闘へと割り込み、次々と撃破していく。


「何だあいつは!?」

「つ、強い!?」


 エレンが只者ではないと気づいたのだろう、同族同士で戦っていたアマゾネスたちが、エレンを警戒するようにいったん動きを止めた。

 すでに半数近くが脱落しており、残るは十人程度だ。


「まとめてかかって来るがいい!」


 調子を取り戻したエレンが挑発気味に言う。


「異邦人が舐めるな!」

「戦闘民族の力を見せてやるわ!」


 今度こそアマゾネスたちは挑発に応じてエレンに躍りかかった。


「どりゃあああっ!」


 エレンは気迫の叫び声を轟かせ、剣を一閃。

 それだけでまるで竜巻のごとき衝撃波が巻き起こって、アマゾネスたちをまとめて吹き飛ばしてしまった。


「ふふん! どうだ!」






 予選をあっさりと勝ち抜いたエレンは、本選へと歩を進めた。


 そして本選でも一回戦、二回戦と、圧倒的な強さで勝ち進んでいく。


 ぶっちゃけ予想していた通りの展開だ。

 まぁステータスがまるで違うからなぁ。


 確かにアマゾネスたちは戦闘民族だけあって高いステータスを有しているが、この旅の間に何だかんだで人類最強クラスにまで成長したエレン(現在レベル89)が相手となると、やはり相手が悪いと言わざるを得ないだろう。


「……むう。本選に行けばもう少し骨のある相手も出てくると思っていたのだが……」


 もっと張り合いのある戦いを望んでいたエレンは不満そうだった。

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