第142話 なんで出場しなかったんだ!(血涙)

 結局エレンは決勝でも圧勝。

 期待通りに武術大会で優勝してくれたのだった。


「む~」


 本人は納得がいかなそうに唸っているが。


「とにかく、これで女王様にお会いできそうですね」

「そうだな。よくやったぞ、エレン。ご褒美だ。師匠としてちょっと揉んでやろう」

「稽古をつけてくれるのか!」

「胸を」

「そ、そんなご褒美など要らぬのだッ!」

「俺にとってはご褒美だ」

「何で貴様にご褒美をやらねばならないのだッ!?」


 そんなやり取りをしながら、闘技場を後にしようとしたときだった。


 俺たちの行く道に大勢のアマゾネスたちが立ち塞がった。

 よく見ると試合でエレンに倒された者たちの姿もある。


「……何の真似なのだ?」


 エレンが眉根を寄せて睨みつける。

 負けた腹いせに、集団でエレンを痛めつけようとでもいうのだろうか。

 確かに戦闘民族である彼女たちにとっては、飛び入りで参加した異民族のエレンに優勝を掻っ攫われてしまうなど、大いなる屈辱に違いない。


「たたかうのー?」


 と、フィリアが小首を傾げたそのときだった。



「「「「「エレンお姉様ぁぁぁぁぁぁっ!!!」」」」」



 アマゾネスたちが黄色い悲鳴を轟かせた。


「……へ?」


 エレンがぽかんと口を開ける。

 そこへ彼女たちが一斉に群がってきて、


「あああっ、あたし、エレンお姉様に触っちゃったわ!」

「私も私も! もう一生手を洗わない!」

「この燃える炎のような髪……まさに強者の証……素敵……」

「お願い! 抱いて!」


 エレン、大人気である。

 アマゾネスたちは完全にジャ〇ーズを追っかける熱狂的なファンと化していた。


『この国では、男性はあくまで子を産むための道具であり、むしろ女性同士の恋愛が一般的のようです。そして強い女性ほど憧れと好意の対象となり易く、中には大勢の女性を囲っているアマゾネスもいるほどです』


 くそおおおおっ!

 何で俺は出場しなかったんだよぉぉぉぉぉぉっ!







 俺たちはNABIKOへと戻ってきていた。


「酷い目に遭ったのだ……」


 散々アマゾネスたちに揉みくちゃにされたエレンがぐったりしている。


「大丈夫ですか?」

「どうにか……」


 街の宿に泊まっていなくてよかったな。

 下手をすれば特定され、大勢のアマゾネスが押しかけてきていたかもしれなかった。


 そうしてNABIKOに一泊し。

 翌朝、俺たちは今度こそ女王に謁見するため、王宮へと向かった。


「あっ、エレンお姉様よ!」

「本当だ!」

「「「エレンお姉様ぁぁぁっ!」」」

「ひいいいっ!?」


 途中で何度かエレンの熱狂的ファンに遭遇して追い駆け回されたが、どうにか振り切って王宮へと辿り着く。


「それにしてもすごい人気だな、エレン。……代わって欲しいぜ」

「代われるものならあたしも代わりたいのだ……」


 先日は門前払いをかましてきた衛兵が、エレンを見るなり頬を赤らめて、


「これはエレンお姉……エレン殿! 先日は貴殿の実力を侮って大変な無礼を働いてしまい、失礼いたしました! もちろんお通り戴いて構いません! 女王陛下がお待ちです!」


 すんなり通してくれた。

 どうやら彼女もエレンのファンになったらしい。


 王宮を案内され、女王陛下の待つ謁見の間へ。


「よくぞ参ったの。我はティグリア=バラル=グラトアス。この国を治める者ぢゃ」


 ティグリアと名乗ったそのアマゾネスはまだ若かった。

 せいぜい二十代後半といったくらいだろう。


 アマゾネス特有の艶やかな黒髪に、褐色の肌、そして引き締まったグラマラスな肉体。

 切れ長の目の周囲に独特な紋様を刻んだ女王は、大人の色香を放つ美女だった。


 色気たっぷりの年上お姉さん。

 ぜひ筆おろしされたい。


『……もう少し欲望を押えてください』


 ナビ子さんが俺の心を勝手に読むのが悪いと思います。


『女王の座には、当代で最も強い者が就くことになっているのです』


 だから若いらしい。

 ちなみに昨日の武術大会に出ていなかったが、あれは一つの予選会であり、年度の最後に各武術大会の優勝者が集うより上位の大会があって、その優勝者が女王に君臨するのだとか。


 俺たちは事情を話した。


「なるほど、それで我が国に来たというのか」


 ティグリアは頷いて、


「しかし、この遺跡は我らアマゾネスにとって神聖なものぢゃ。さすがに異民族の者を入れるわけにはいかぬ」


 おいおい、なんかダメっぽい流れだぞ。


「……だが、この国では強さこそすべて。どうしてもというのなら、それに相応しい力を証明してみせるがよい」


 そう言って、ティグリアは玉座から立ち上がった。

 コキコキと首や手首を鳴らし、好戦的な笑みを浮かべている。

 戦う気満々だ。


 さすがアマゾネス。

 とても分かり易い。


「ふむ。昨日の大会では物足りないと思っていたところなのだ。ぜひあたしが――ぶべっ!?」


 俺はエレンを押し退けた。


「俺――じゃない、私が戦うわ!」


 宣言する。


 もし女王に勝てば!

 彼女は俺に惚れるはず!

 そうして夢のTSレズセック――


「フィリアちゃん、やっちゃってください」

「わーい!」


 ティラの言葉で、フィリアが地面を蹴った。


「なっ!?」


 凄まじい速度でティグリアとの距離を詰めると、


「えいっ!」

「あああああああああっ!?」


 拳一発で吹っ飛ばす。


 ティグリアは強かに壁に叩きつけられ、あっさりと気を失ってしまった。


「フィリアあああああああああああああああああっ!? 何やってんだあああああああああああっ!?」


 俺は泣いた。


「パパー?」







「フィリアお姉様ぁ……」

「よしよーし」

「ふへへ……」


 女王ティグリアはフィリアにしな垂れかかり、頭を撫でられて恍惚としている。


「何でこうなった……」


 またしても絶好のチャンスを逃してしまった俺は、弱々しく呻くしかない。


「ああでも、ティラたんが俺に嫉妬してくれたと思えば……。そうだよな……旦那が他の女に手を出そうとしていたんだ……そりゃあ、嫁としては是が非でも阻止しようとするよな……ふふふふ……」

「だから嫁になった覚えはありません」


 ともかく、これで遺跡に入ることができるようになった。


「気をつけるがよい。長き年月を経て、今や高難度のダンジョンと化しておる。まだ我々ですら、その全貌を把握できておらぬのぢゃ」


 ティグリアに見送られ、俺たちは薄暗い遺跡の中へと入っていく。


 しばらく進むと魔物が現れた。


 ガチャガチャという音を鳴らし、近づいてくるのは全身鎧。

 しかし中に人は入っていない。


「リビングアーマーか。……おりゃ」


 剣を振り上げ斬り掛かってくるが、その前に胴部を蹴って吹っ飛ばす。

 通路の遥か向こうにある壁に激突し、バラバラになってしまった。


「どんどん進むぞー」

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