第140話 アマゾネスの国
エルフの里を後にした俺たちは、魔法都市に戻るリシェル、アーシェラと別れて、アマゾネスの国があるグレア砂漠へと向かった。
エクバーナを通過し、西へ。
やがて前方に広大な砂漠が見えてきた。
「これがグレア砂漠かー」
『広さはゴビ砂漠と同程度です』
相変わらず地球の情報を知っているナビ子さんは謎だ。
「すなーっ!」
NABIKOの窓から外を眺め、フィリアが嬉しそうに飛び跳ねている。
「本当に見渡す限り砂ですね。方角がまったく分かりません」
「しかも昼は凄まじく暑く、夜は逆に凍えるほど寒い。砂漠を行くには相応の準備と覚悟が必要だと言われているのだ」
「ん。暑いの嫌い」
しかし例のごとくNABIKOに乗っていれば勝手に目的地まで連れて行ってくれるし、室内は常に快適な温度に保たれている。
『地中から敵性個体が接近中。サンドワームのようです。撃退します』
さらに魔物が現れても、勝手に倒してくれるから楽ちんだ。
この砂漠を徒歩で横断するとか、マジで大変そうだな。
俺たちがこんな緩い旅をしていると知ったら、普通の旅人が怒りそう。
「それにしても随分と過酷なところに住んでるんだな、アマゾネスは」
『都市は数少ないオアシスに築かれているため、そこまで酷い環境ではないようです』
「そうなのか」
女だけの戦闘民族――アマゾネス。
たぶん褐色でむっちむちで性欲旺盛なんだろうなぁ……ハァハァ。
「あああっ、アマゾネスの美女たちに囲まれて、わたくし、あんなことやこんなことをしたいですのぉぉぉっ! じゅるり……っ!」
変態天使がいつにも増して興奮している。
砂漠に入って、およそ二日。
先日の大改造のお陰で各々が退屈することなく過ごしていると、ナビ子さんのアナウンスが車内に響いた。
『目的地が見えてまいりました』
皆がリビングに集まってくる。
砂漠の中に突如として現れたオアシス。
かなり大きく、びっくりするくらいその一帯だけ緑が豊かだ。
街の周囲は粘土質の壁があり、外敵の侵入を防いでいる。
あれがアマゾネスの街――ゾラスか。
『言い忘れていましたが、ゾラスは男子禁制です。男性が立ち入ると、有無を言わさず奴隷にされてしまいますのでお気を付けください』
と、今さらながらナビ子さん。
「ではカルナさんは入れませんね」
「パパだめー?」
「ここはアタシたちに任せておくのだ!」
ふっふっふ。
この俺を誰だと思っているのかね?
チートスキルを百個持つ変態、カルナ様だぞ?
『……変態という自覚はおありなのですね』
〈変身・極〉
そう、俺にはこのスキルがあるのだ!
「どうかしら? これなら完璧でしょ?」
くねくねと色っぽく身を捩じらせながら、俺は髪を掻きあげてウインクしてみせる。
変わったのは口調だけではない。
身体も完全に女性のそれと化していた。
女体化である!
鏡で確認してみると、そこには俺の面影を残しつつも、どこからどう見ても可愛らしい女性の姿があった。
髪が伸びる代わりに身長が縮み、胸や尻が膨らみ、全体的に丸みを帯びた体型になっている。
「パパがママになった!?」
フィリアが目を白黒させた。
「そこまでして街に入りたいのですか……」
「もちのろん」
「本当に貴様は度し難い変態なのだ……」
ルシーファが俺をちらちら見ながら葛藤していた。
「美少女……いいえ、これは男……でも美少女……いえいえ、中身は男……」
ちなみに奴隷にされたらどうなるんだろうか?
『まず、奴隷同士で何度も何度も繰り返し戦わせられます。かなり高い確率で死ぬ、命懸けの戦闘です。そうして生き残った強い男だけが、繁殖のための種として利用されるようになります。もちろん数が少ないため、一人で多数の女性を相手にするようです』
やっぱ俺、男に戻るわ!
「アマゾネスたちの奴隷になるぅぅぅっ!」
ついに男の夢であるハーレムに辿りついたと思ったが、良く考えてみたらアマゾネスにも必ず一定の割合でブスがいるはずだ。
そうした女どもとヤらなければならないというのは、さすがにちょっと抵抗があった。
AV女優とか、よくあんなキモイ汁男優とできるよなぁ。
『……』
というわけで、女体化したまま街へ――
――入ろうとしたら、入口のところで門番に見咎められた。
男並みの体格をした、ゴ〇ラみたいな顔の中年女性だ。
……よかった、こんなのの性奴隷にされたりしたら死ぬところだった。
「お前たち、異国の旅人か? 珍しいな」
「そうよ」
どうやら単に他の国から来る者が珍しいので声をかけてきただけらしい。
ちなみに「そうよ」と答えたのは俺だ。女だからな!
「砂漠を越えるのは大変だっただろう?」
「まぁね」
「ふむ。若いのに、なかなかの強者のようだ」
感心されてしまった。
「砂漠を越えられぬ弱者に、我が国に入る資格はないからな」
つまり砂漠を越えてここまで辿り着くことができた女ならば、滞在する権利があるということか。
俺たちは城門を潜って街の中に入った。
「ふおおおおおおおおっ! 本当に女性ばかりですわぁぁぁぁぁっ!」
ルシーファが涎を垂らしながら声を上げている通り、道行く人たちはその大半が女性だった。
たまに見かける男はすべて鎖を付けられている。
アマゾネスたちは想像していた通り、黒々とした髪に、健康的に日焼けした褐色の肌をしていた。
たまにゴリゴリのマッチョがいるが、その多くは適度な筋肉で、しっかりと引き締まった均整の取れた身体をしている。
全体的に胸やお尻が大きく、むっちむちだ。
要するにエレンみたいな体型がいっぱいいる。
しかも暑いからか、露出が高く、ほとんど水着のような格好で素晴らしい。
ああ、あそこの足の長いお姉さんに蹴られたいぜ……。
「ハァハァハァ……わたくし、我慢できる気がしませんわぁ……デュフフ……」
ルシーファがふらふらとアマゾネスの多い一帯へと歩いていく。
「……アレとは他人のフリをしましょう」
というティラの提案もあって、俺たちはルシーファを放置して街中を進んだ。
道行く人のほとんどがアマゾネスで、やはり俺たちのような異邦人が珍しいのか、ちらちらと好奇の視線を向けられる。
全裸で歩きたい。
「それで、英雄の墓とやらはどこにあるんだ?」
『どうやら街の地下にある遺跡がそう呼ばれているようです。入り口はここから北西に三キロほどの場所です』
「とりあえず行ってみるか」
ナビ子さんの指示に従い、街を歩いていく。
やがて、全体的に地味な色合いの街の中では珍しく、豪華絢爛な建物が現れた。
黄金の屋根と真っ白い大理石でできていて、所々に宝石が埋め込まれている。
「もしかして王宮か?」
『そのようですね。遺跡への入り口はこの王宮内にあるようです』
さすがに王宮に自由に出入りすることは難しかったようで、近づいただけで衛兵たちに取り囲まれてしまった。
おっ、何人か美人がいるぞ。
「何の用だ、異国の者よ?」
「ここは我らが女王陛下の住まう御殿だ。異邦人は立ち去るがいい」
強い口調で咎められる。
「その女王に会わせてくれないか?」
「駄目だ」
にべもない。
王宮の中に遺跡があるとすれば、入るにはその女王の許可が必要だろう。
しかしその女王に会えないとなればお手上げじゃないか?
「どうしたら会えるんだ?」
「陛下との謁見は真の強者にしか許されておらぬ」
真の強者?
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