第95話 竜王位争奪戦
反乱軍を率いて竜王の城を落とし、白輝竜たちを拘束したモヒカンヘッドの黒輝竜・愚連華。
クロの母親でもある彼女が、前竜王の処遇について宣告した。
「あ、アタシの王配になりやがれッ!」
王配、すなわち女王の配偶者のことである。
厳罰を期待し、この場に集っていた反乱軍の代表者たちは、まったく予想外の彼女の言葉に一瞬静まり返る。
が、すぐに怒号が飛び交った。
「ふざけるな! どういうことだ!?」
「王配!? どこが厳罰だ!」
「殺せ殺せ!」
「黙りやがれぇぇぇぇぇっ!!!」
だがそれを愚連華は更なる怒号で掻き消す。
再び静寂が満ちた中で、口を開いたのは同じ黒輝竜の爺さん、怒羅愚だった。
「ううむ、それは本気か、愚連華?」
「ほ、本気だっ」
「確かに旦那に死に別れた今、お主は一人身じゃが……まさか、ちょむちょむに惚れておったとはのう」
「べべべ、別に惚れてたとか、そういうんじゃないし!?」
愚連華は顔を赤らめて目を逸らす。
……なんて分かり易い。
「かーさま……」
「母様……」
クロとチロも微妙に呆れ顔だ。
「まぁクロもシロのこと大好きだしな……」
「べべべ、別にこいつのことなんて好きじゃねぇし!?」
母娘そろって分かり易い。
「あらあら、うふふふ……あなたったら、随分とモテますわねぇ~?」
相変わらず笑顔のペローネだが、目が笑っていなかった。
さっきまで眠そうだったちょむちょむも、そのプレッシャーのせいか、さすがに今は目を覚ましている。
愚連華がペローネを睨みつけ、叫んだ。
「ヒャッハーーーーッ、そんな余裕ぶってられんのも今の内だぜ、ペローネ! テメェは死刑だ! 死刑!」
どう考えても私情が入りまくった裁定だった。
「あらあら、もしかして~、わたくしにちょむちょむさんを取られたこと、未だに根に持っておられるんですね~」
「っ!」
「女としての魅力では勝てないから、こんな暴力的な手段に出るなんて~。うふふ、モテない女の怨みは怖いものですね~」
「だ、だ、黙りやがれっ!」
バチバチと火花を飛ばし合う女たち。
完全に目を覚ましたはずのちょむちょむだったが、今は再び瞼を硬く閉じていた。
……寝たふりだ。おい。
「ペローネさんを処刑だと!? 冗談じゃねぇぞ!」
「そんなふざけたマネが許されるとでも思ってんのか!」
「この竜でなし!」
どうやらペローネはドラゴンたちの間ではかなり人気らしい。前竜王には厳しい処罰を求めていた連中が、一転して擁護の立場に回っていた。
お前らも私情が入り過ぎだろ。
「い、異論は認めないぜ! こいつは竜王たるアタシが決めたことだからな! もう決定事項だ!」
愚連華が咆える。
だが他のドラゴンたちはそれを受け入れようとはしなかった。
それどころか、
「やっぱこいつもダメだ! 竜王の器じゃねぇ!」
「そもそも今まで白輝竜と黒輝竜ばかりが竜王だったのが間違いだったんだ!」
「そうだそうだ! 何が神竜だ! これからは神竜以外が竜王になってもいいじゃねぇか!」
「よし、ならば俺だ! 俺が竜王になる!」
「バカ言え! このオレ様こそ竜王に相応しい!」
「いいや、我らこそ」
「おでも……」
「てめぇら無限竜は馬鹿だからかえって酷いことになるだろうが!」
口々に自らこそが新たな竜王に相応しいと主張し始めてしまう。
皆、神竜に準じる超竜たちだ。
「「「だったら勝負だ!」」」
こうして、新しい竜王の座を賭け、ドラゴンたちの戦いが幕を開けたのだった。
◇ ◇ ◇
刃竜たちのリーダー、セグルスは内心でこの状況を大いに歓迎していた。
――今こそ我ら刃竜の力を示す絶好の時。
彼ら刃竜は、尾に名剣にも勝る鋭い刃を有していることからそう呼ばれている。
その生まれ持った剣の使い方を幼い頃から訓練させられ、超竜とされるドラゴン種の中でも高い戦闘能力を有する種族として知られていた。
その頂点に君臨する彼は、己の剣技ならば神竜の力すらも凌駕しているという自負があった。
竜王の座には、最強のドラゴンが就くべきだとされている。
ならば、自分こそが最も竜王に相応しい。
「がははははっ! オレたち装甲竜とテメェら刃竜、盾と鉾のどっちが強いか、はっきりさせるべきときがきたみてぇだ――」
「遅い」
「――がっ!?」
それを証明するかのように、セグルスは同じ超竜の一種、装甲竜のリーダーをその天然の刃で斬り裂いてみせた。
装甲竜は並みのドラゴンとは比べ物にならない硬い鱗を有し、防御力だけで言えばドラゴン最強とも言えるだろう。
攻撃の刃竜、防御の装甲竜、などと比べられることもある。
だがセルグスからしてみれば、装甲竜はその高い防御に頼り切り、ロクに戦い方も知らない雑竜。
動きも鈍重で、身体の構造上どうしても装甲が薄い部分があるため、そこを的確に刃で突いてやれば簡単に倒すことが可能だった。
「これはあきまへんわぁ。わいは戦うの、苦手やさかいなぁ」
同じく超竜の宝竜も敵ではない。
彼らは基本的に財宝集めにしか興味がなく、知略には長けているが、戦闘能力ではそこらの上位竜程度のものでしかないのだ。
本人も自覚しているのか、端から傍観者に回っていた。
「厄介なのは、やはり奴らか。ふ、面白い」
セルグスは不敵に笑う。
まずは超竜の中でも最強種と知られている、無限竜。
その巨体はさながら雲だった。
軽く百メートルを超えているだろう。
無限竜はこの戦いに何体かが参戦しているが、中でもリーダーであるガガグレの全長は三百メートル近い。
刃竜の中でも大柄な部類に入るセルグスですら、せいぜい五十メートル程度なのだ。
さらに強敵を挙げるとすると、これも超竜の獄炎竜。
彼らが吐き出す炎は空一面を夕焼けのように真っ赤に染め上げる。
森を一瞬で焼き尽くし、川を干上がらせるほどの超高熱の炎をまともに浴びては、さすがのセルグスですら一溜りも無いだろう。
そしてやはり神竜の黒輝竜も忘れてはならない。
彼らは取り分けて大きな特徴や強みは無い。
刃竜のように攻撃に長けている訳ではないし、装甲竜のように防御に長けている訳でもない。
無限竜のような巨体でもなければ、獄炎竜のように凄まじい炎を吐き出せたりもしない。
だが反面、あらゆる面において他の竜種の平均値を大きく凌駕していた。
攻撃力も防御力も飛翔速度も、圧倒的ではないにしても、いずれも高水準。
器用貧乏と言えなくもないだろうが、セルグスは決して侮っていなかった。
竜王の座を争う上で、やはり一番の強敵だろう。
「だが我は負けぬ」
強い決意を胸に、セルグスはまず無限竜の一体を撃破しようと宙を翔ける。
と、そのときだった。
「グアアアアアア!?」
突如、全長百メートルを超す巨体が吹き飛んだのだ。
「な……?」
信じがたい光景に思わず瞠目するセルグス。
その視線の先には小さな影があった。
「あんたらドラゴンに暴れられると地上が大変なことになるからな。俺も参戦させてもらうことにしたぜ」
「人間……?」
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