第89話 夜這い
山賊一派を壊滅させ、都へと戻ってきた。
そして俺たちは再び謁見の間へと通されている。
「姫様。今日こそはしっかりと感謝のお言葉を」
「で、でも……」
「いつも通りになさればいいだけだ」
「それができたら苦労しないよぉ……」
襖の向こうから聞こえてくる桜花と鬼姫のやり取り。
どうやらまた鬼姫ちゃんが躊躇しているらしい。
「カルナ殿たちは二度に渡って我らを助けてくださった。一度目に至っては、鬼姫様ご自身が危ういところを救われたのだ。鬼族の姫として、直接その礼を伝えることもできぬとあらば、我ら一族にとっての大きな恥であろう」
「そ、そう、だよね……。が、頑張るっ!」
桜花の強い説得もあって、鬼姫は決意したらしい。
ゆっくりと襖が開いた。
そして、やはり十二単を思わせるカラフルな衣装に身を包んだ鬼姫が、恐る恐るといった様子で部屋に入ってきた。
……顔は緊張で強張り、同じ方の手足が一緒に出ている。おいおい、そんな歩き方していたら、また前回みたいに――
「ふぎゃっ!?」
俺の予想は的中した。
またしても裾を踏んでしまって、鬼姫は盛大な音とともに転んでしまう。
完全に前回の焼き直しである。
直後、入ってきたときのぎこちなさが嘘のように素早く立ち上がると、鬼姫は猛スピードで逃げていった。
「ふ、ふええええええええんっ!」
「姫様っ!?」
「またやっちゃったぁぁぁぁっ! カルナさまに、歩くこともまともにできないダメ女だって思われちゃったぁぁぁぁっ! もう死ぬ! 死んでやるううううっ!」
「姫様ぁぁぁぁっ!?」
「本当に何度も申し訳ない。……姫様は普段はしっかりとされた方なのだが……」
結局、謁見はまたも無しになって、そのことを桜花が謝罪しにきた。
「その代わりと言ってはなんだが、また宴席の場を用意させてもらおう。我らの感謝の気持ちだ。遠慮なく食べてくれ」
「俺は桜花と一緒にお風呂に入れればそれで充分なんだけどな」
「あ、あれはもう勘弁してくれっ。……しかも前回、あの後に姫様がなぜかとても機嫌を悪くされてしまったのだ」
不思議そうに首を傾げる桜花。
「じゃあ鬼姫ちゃんと一緒に入るか」
「さすがにそんなことはさせられぬ!」
結局、その日は一人寂しくお風呂に入った。
そして前回に勝るとも劣らない規模で宴会が開かれる。
「今日は絶対にお酒を飲まないのだ!」
「……私もやめておきます」
「フィリアはー?」
「フィリアちゃんもやめておきましょうね」
前回のことで懲りたのか、エレンたちは断酒を決意していた。
「うまうま」
「うめぇぇぇっ!」
シロは相変わらず料理を食いまくっていた。
……なんか約一匹、呼んでもいない奴が交じっていた気がする。
その夜のことだった。
畳に敷かれた布団の上で俺が横になっていると、廊下から誰かが近づいてくる気配。
それが襖の前で制止した。
ついに俺に惚れた桜花が夜這いに来てくれたのだろうか?
それとも鬼姫ちゃんが勇気を出して?
大穴でティラが?
そんな妄想が俺の頭を過る。
やがてゆっくりと襖が開いた。
その人物は白無垢に身を包んでいた。
頭には角隠しと呼ばれる帯状の白い布を被っている。
神妙に部屋に入ってきたのは、桜花でも鬼姫でもティラでもなかった。
薄闇の中、月明かりに照らされて浮かび上がるのは、薄らと白粉を施した美貌。
その長い睫毛が震える。
瞳は愁いを帯びたかのようにしっとりと濡れていて。
紅を施した唇から零れたのは、
「カルナさま……わたくし、あなた様と褥を共にさせていただきとうございます……」
俺の答えは決まっていた。
「ダメに決まってんだろ」
はっきり言い捨てると、縋りつくように訴えてくる。
「な、なぜでございますかっ……? わたくし、こんなにもあなたさまを慕っているというのに……っ!」
「なぜ? 決まってんだろ」
俺はこいつの正体を看破していた。
「お前だからだよ、紫苑!」
「っ!? な、なぜ分かったんだいっ!?」
愕然として後ずさる。
そう、この美貌の持ち主の正体は、山賊の親玉・紫苑だった。
紫苑 20歳
種族:鬼族
レベル:62
スキル:〈剣技・極〉〈指揮統率・極〉〈美容・極〉
〈鑑定・極〉スキルを持つ俺には丸わかりだ。
「てか、どうやって抜け出してきたんだよ。お前、監獄に入れられたはずだろ?」
「ふふふ、僕の美貌があれば看守を誘惑することなど訳ないさ」
紫苑は何でもないことのように言う。
「大方、女に変装して俺に復讐しに来たってところか。だが残念だったな。俺にハニートラップは通じない。もう一度、監獄送りにしてやるよ」
「そうじゃない! 僕は決して、君に危害を加えるために監獄を抜け出してきた訳じゃないんだ」
「……どういうことだ?」
何か猛烈に嫌な予感がするのだが……。
案の定、紫苑は言った。
「僕はただ君に抱いてほしいだけなんだ!」
……何なんですかね、この展開?
「僕を助けてくれたときに見たあの圧倒的な強さ! あれは僕の美に対する概念を完全に破壊してくれたんだ! 強いということはこんなにも美しいんだってね! ゆえに君はとても美しい! そしてあの瞬間、僕は君になら抱かれてもいいと思ったんだよ! ずっと見つからなかった僕に相応しい相手! それは君以外にいない!」
紫苑は怒涛の勢いで俺に対する想いを口にする。
「さあ! お願いだ! 僕とセ○クスしてくれ!」
さらに紫苑は着ていた白無垢を脱ぎ捨てた。
下着を身に着けていなかったようで、それだけで真っ裸になる。
すでに天を突いている下半身のアレ。
「男のアレなんて見たくねぇんだよおおおおおおおっ!」
「大丈夫! 僕はお尻にも自信があるんだ! 見てごらん、このプリッとした上向きのお尻を! きっと君を満足させられるはずさ!」
「ケツ穴見せんじゃねぇぇぇぇっ!」
確かに男とは思えないほど良いケツしてるけどよ!
「そうか! 君は受けの方なんだね!」
「鼻息荒くしながらこっち近づいてくんな!」
幾らそこらの女より綺麗な顔をしているとはいえ、こいつだけはダメだ。
なんて言うか、生理的に受け入れがたい。
男の娘のジーナちゃんならイケるんだけどな、デュフフ……。
「さあ、一つになろう!」
「バシ○ーラ」
……思わずド○クエの呪文を口走ってしまったが、紫苑の姿が掻き消えた。
転移魔法によって強制的に飛ばしてやったのだ。
ほとんど無意識だったので、どこに転移したのかもよく分からない。だがとにかく遠くに飛んでくれということだけは意識したので、少なくともこの島内ということはないだろう。
「海の底にでも飛んで、そのまま水死してくれたらありがたいんだがな」
◇ ◇ ◇
「くそっ、本当にこっちで会ってんのかよ!?」
「間違いないはずです! この先からカルナ君の匂いがします!」
「って、じーさん大丈夫か!? 死にそうだぞ!?」
「……」
「返事がねぇ!?」
ギース、ライオネル、アレクの三匹の変態たちは今、猛吹雪の中にいた。
獣人の国・エクバーナでは、残念ながら彼らに会うことはできなかった。
一か月ほど前までは確かにいたらしいのだが、すでに旅だってしまったのだという。
どこに行ったのかという手がかりも見つからなかった。
しかしそこでアレクがペット能力を発揮した。
「北です! 僕のご主人様は北にいるはずです!」と主張する彼に従って、エクバーナの北方にあるガロナ火山へと向かうことに決めたのだ。
そしてその途中、こうして酷い嵐に巻き込まれてしまったという訳である。
「このままだと凍え死んじまうぜ。どこかに集落でも――」
と、そのときだった。
突如として、ギースの頭上に男が出現したのは。
「……は?」
しかもこの猛吹雪の中にあって、一糸まとわぬ全裸である。
加えてなぜか完全に勃○しており、その部位からギースの顔面目がけて振ってきて――
べちゃ。
「ぎゃああああああああああああああっ!?」
こうして、四匹の変態は出会ってしまったのだった。
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