第11話 真ラスボス(やばい)
レッドドラゴンを倒した俺たちの前に現れたのは、老人の幽霊だった。
身体がめっちゃ透けている。
ボロボロの布を身体に纏っていて、空中にふわふわと浮かんでいた。
「何者だ?」
と思わず訊いてみたけど、まぁ答えてくれないよな。幽霊だし。
こんなときは、〈鑑定・極〉で――
『わしはオーエンじゃ』
「普通に答えてくれたぞ!? ……けど、誰? 応援?」
「だ、誰じゃないですよ! オーエンと言えば、この塔を作った大賢者ですよ! けど、まさか生きていたのですか……っ?」
「いやどう見ても死んでるだろ。幽霊だし」
「そ、そうですね……って、そんな冷静に突っ込まないでくださいっ」
言い合う俺たちを見下ろしながら、幽霊が唇を動かす。
『わしはオーエンじゃ』
「うん、それさっきも聞いた」
『わしの研究を邪魔する者は、何人たりとも排除する!』
直後、虚空に魔法陣が出現したかと思うと、凄まじい風の渦が発生し、こちら目がけて飛んできた。
「上級魔法っ!?」
「よっと」
俺はティラを背負ったまま地面を蹴り、襲いくる竜巻を回避した。
だが大賢者の成れの果ては、間髪入れず再び上級魔法を放ってくる。
「上級魔法を連射するなんてっ……それに、この詠唱速度……っ」
「ティラ、こっちも上級魔法だ」
「もうはじめてますっ!」
ティラが対抗して上級魔法を発動。相手と同じ魔法――トルネードだ。
巨大な風の渦を射出すると当時、向こうもまた放ってきた。
二つの豪風が激突する――
「今だっ」
俺は右の拳に闘気を収束しつつ、二つの上級魔法がせめぎ合う地点目がけて突っ込んでいく。
「必殺っ――――獣○会心撃ッ!!」
豪快に拳を突き出し、闘気による衝撃波を前方に撃ち出した。
それがティラの風を後押しし、敵の魔法を撃ち破った。
『っ!』
目を見開く大賢者。
直後、闘気と風の渦が彼を呑み込んだ。
煙が四散するかのように、大賢者の身体が弾け飛ぶ。
「やった、んですか……?」
「いや、生存フラグが立ったからまだだ」
「フラグって何ですか……?」
直後、辺りに散らばった身体が一か所に集まってくる。
何事も無かったかのように、大賢者の幽霊は元の姿を取り戻していた。
『無駄じゃ。幽霊と化したわしには攻撃が効かぬ』
『はい。ダメージは0です』
オーエン
種族:ゴースト族
レベル:58
生命:0/0
ていうか、そもそも生命力が最初からゼロじゃねーか。
これでは完全に不死身だ。
どうやって倒せばいいんだ、ナビ子さん?
『マスターであれば、彼を倒す方法は幾らでもあります。例えば――』
「ん? ちょっと待て。この爺さん、なんか面白そうなものを隠しているようだぞ」
俺は〈鑑定・極〉を使い、詳しく奴のことを調べてみた。
どうやらこいつ、とある研究を完成させたいがために自分に死霊化の魔法をかけたっぽい。
「へえ。随分と面白い研究してるじゃねーか」
「な、何の話ですかっ? それより攻撃が効かないのでは倒しようがないですッ! ここはいったん退いて――」
「突撃ぃぃぃっ!」
「またですか!? 何となくそんな予想は付いてましたけどッ!」
俺は真っ直ぐ大賢者に突っ込んでいく。
だがそのまま大賢者の身体をすり抜けてしまった。
「ちょっ、今、身体の中身が見えませんでした!? 物凄くグロテスクだったんですけど!?」
うん、見えたね。俺もちょっとびっくりした。
『ゴーストの身体を構成しているのはアストラル体と呼ばれるエネルギー体ですが、高レベルのゴーストのアストラル体は生前の肉体を精巧に再現しているのです』
「なんて無駄なこだわりだよ」
大賢者の体内を通り抜けた俺は、そのまま部屋の隅へと走った。
元より俺の目的は大賢者を攻撃することではない。
そこにあった扉を豪快に蹴り破る。
『そこはわしの研究室っ! 立ち入りは許さぬ!』
大賢者が慌てて追い駆けてきた。
俺は背後から放たれてくる魔法を躱しつつ、〈探知・極〉で目的地へ直行する。
そして、その部屋へと辿り着いた。
「……あれだ! あれこそが、古の大賢者オーエンが、自分に死霊化の禁呪を使ってでも完成させたかったものだ」
「お、女の子、ですか……?」
部屋の中央。
病院の手術台のようなテーブルの上に寝かされていたのは、十歳にも満たないくらいの幼い女の子だった。
「いや、彼女は魔導人形(マシンドール)だ」
「魔導人形……?」
「それもほぼ完璧に人間を再現させた、超高性能の」
「そ、そんなことが可能なのですか……いえ、大賢者なら……。で、ですが、なぜあんな幼い女の子を?」
大賢者のすることだ。何か遠望な目的でもあるに違いないと思ったのか、ティナは恐る恐る訊いてくる。
俺は首を振った。
そして真実を告げた。
「趣味だ」
「はい?」
「あの幽霊じーさんの趣味だ」
『みぃ~た~な~』
背後から、幽霊らしいおどろおどろしい声が聞こえてきた。
追い付かれてしまったようだ。
しかし俺は躊躇することなく、彼の所業を高らかに叫ぶ。
「大賢者オーエンは、別に魔導人形を作りたかったわけじゃない! 自分好みの幼女を作りたかったんだ!」
「いやいやいや、そ、そんなことないですよ!?」
俺の背中で、ティラがぶんぶんと首を振りながら否定する。
「だって、仮にも伝説の大賢者ですよ!? あの女の子だって、たぶん、娘さんとか、お孫さんとかですって! きっと死別が悲しくて、同じ姿の人形を作ろうとしたんですよ!」
まぁ普通ならそう思うだろうな。
だが大賢者の幽霊は、彼女の希望を打ち砕くかのように声高らかに叫んだ。
『娘でも孫でもない! その子のモデルは、かつて近所に住んでいた女の子、ミレーユちゃんじゃ!』
「本人があっさり認めた――――ッ!?」
『かわいかった……遠くから見ているだけで幸せじゃったというのに……あの忌まわしき母親め! 年増の分際で、わしを不審者扱いおってっ……』
ゴゴゴゴ、と凄まじい負のオーラを発散させる大賢者。
「わ、私の中の大賢者像が、がらがらと凄まじい速度で崩れていってるんですけど……」
同じ魔術師として、大賢者のことを少なからず尊敬していたらしいティラは、愕然と呻いている。
「残念だが、ティナ。はっきり言おう。大賢者オーエンはロリコンだ!」
「嫌ですっ……そんなの知りたくなかったっ!」
『左様、わしはロリコンじゃ! しかし、それが何だと言うのじゃ! ロリコンで何が悪い! 小さい女の子が好きで何が悪いんじゃああああっ!』
ティラの想いも虚しく、大賢者は力強く拳を握りしめ、己の欲望を曝け出す。
それから不意に糸が切れたように肩を落とし、
『じゃが残酷なことに、わしがどんなに頑張っても、わしに振り向いてくれる幼女はおらんかった……』
「そりゃそうですよ!」
『だからわしは、自分の手で作ることにしたのだ! わしだけの、わし好みの、わしにしか懐くことのない完璧な幼女を!』
「衛兵さん! この人です!」
『しかし無念なことに、その前に寿命が来てしまったのじゃ!』
いつしか大賢者は涙を溢れさせていた。
「だから幽霊と化してまで……くっ、その情熱っ、俺にも理解できる!」
「理解しちゃうんですか!?」
『変態同士、まさに同類と申し上げて構わないかと』
大賢者の虚ろな瞳が俺の方を向いた。
『お主……わしの苦しみを分かってくれるのか……?』
「ああ。俺も昔、好きな女の子を模したラブドールを作ろうとしたことがあるからな」
だが母親に見つかって捨てられてしまったのだ。
あのときは無念だったな……。三日は泣いた。
『おお、心の友よ!』
大賢者がジャ○アンみたいなことを言いながら近づいてくる。
俺は彼と握手を交わした。すり抜けたけど。
「そうだ。俺たちはもう友人だ!」
「……」
ティラが物凄く白い目をしている気がするが、気にしない。
「そんな友のために力を貸そう。この魔導人形、俺が完成させてやる」
『っ……お主に、できるのか?』
「任せておけ」
縋るような顔で訊いてくる大賢者――いや、友に、俺は力強く頷いた。
なにせ、俺には〈鑑定・極〉というスキルがある。
対象に接触すればその物体の詳細な情報を知ることが可能なため、どこが問題なのか分かるだろう。
さらに俺は〈製作・極〉スキルも持っている。自らの手で一から魔導人形を作り出すこともできるはずだ。
「さあ、幼女を完成させようじゃないか、友よ!」
俺は高らかに宣言した。
『おおおおっ』
歓喜の声を上げる大賢者。
そのとき背後から、今までにないくらい冷ややかな声が聞こえてきた。
「その前に下ろしてください。早く。この変態」
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