第85話 酔っ払いエルフ

「あ~、極楽極楽」


 鬼姫との謁見が終わった後、宮城内にある湯殿へと案内された。

 檜の香りがする浴槽に肩まで浸かり、俺は目いっぱい寛いでいた。


「湯加減はどうだ、カルナ殿?」


 そこへ桜花が入ってくる。


「ちょうどいいぞ」

「そうか、それはよかった」

「ただ、少し足りないものもあるな」

「足りないもの? それは、一体……」


 当惑する桜花に、俺は言ってやる。


「ずばり、背中を流してくれる女の子だ!」


 呆れたような視線が返ってきた。


「……それは必要か?」

「必要に決まってるだろ! あと、できれば一緒に入ってくれると嬉しい!」


 ますます桜花の視線が厳しくなる。

 が、そんなことなど気にせず俺は訊いてみた。


「鬼姫ちゃんとかどうだ?」

「阿呆。鬼姫様にそんなマネをさせられるか」

「じゃあ桜花たんで」

「な、なぜ我がそのようなことを……」

「あーあー、鬼族の感謝の気持ちというのも所詮その程度なのか~。国を救ってあげたのにな~」

「ぐぬぬ……」


 俺の挑発に、桜花は悔しそうに歯軋りしてから、


「い、いいだろう! 我ら鬼族は恩義に報いる高潔な民族だ! そのことを我が身を持って証明してやろうではないか!」


 桜花たん、マジでチョロイ。


 いったん浴室から出て行った彼女は、しばらくして身体にバスタオルを一枚巻いただけの格好で戻ってくる。

 うお、良い身体……っ!

 エレンに勝るとも劣らない二つの巨峰に、むっちりとした四肢が堪らんわー。

 それに、長い黒髪を頭の上に括り上げたことで露わになったうなじの色っぽさよ。


「あ、あんまりジロジロこっちを見ないでくれ……」


 無理です。

 しかも恥ずかしそうに頬を赤らめているのが、かえってそそる。

 俺は〈博覧強記・極〉スキルを使い、この光景を脳に焼き付けた。


「じゃあ洗ってもらおうか」

「ばっ、ばかっ、前を隠せっ!」


 俺が湯船の中で立ち上がると、桜花は頬を赤くして顔を背けた。

 彼女の目の前で、彼女の方を向いて座る。


「向きが逆だろう!? 洗うのは背中だ!」

「桜花たんが良ければ俺の身体を余すところなく洗ってほしいな」

「ちょ、調子に乗るな!」


 桶でスコーンと頭を叩かれた。


「……まったく。恩義がなければ刀で成敗しているところだぞ」


 ぶつぶつ言いながら、不満をぶつけるように桜花は俺の背中にお湯をぶっかけてきた。

 それから石鹸をタオルに擦り付けて泡立てる。


「できればおっぱいで洗ってほしい」

「貴殿は下品なことしか考えられないような病気にでも罹っているのではないか!?」


 男の大半がそうだよ!


 それから桜花は俺の背中を丁寧に洗ってくれた。

 ……残念ながらおっぱいではなかったが。

 ばしゃっ、とお湯が注がれ、泡が落ちる。


「こ、これでいいだろう?」

「よし、次は一緒に湯船に浸かろうか」

「そそそ、それもするのか!?」


 抵抗する桜花をああだこうだと言いくるめて、俺はついに彼女との混浴に成功する。

 ただしタオルは巻いたままだったが。


「湯が白くて、どうせ見えないんだから外せばいいのに」

「……それはそうだが、なぜだか外したくない」


 浴槽の端っこから、桜花がジト目で俺を見てくる。

 しかしこの状況、桜花戦隊ラブレンジャーの連中が見たら発狂しそうだな……。


 結局、最後まで桜花はタオルを外してくれなかったが、美女付きのお風呂はなかなか最高だった。


「いい湯でしたね」

「お陰で少しのぼせてしまったのだ……」

「すっきりーっ!」

「ん」


 俺だけでなく、ティラたちもお風呂を借りていたらしい。

 頬が火照り、髪がしっとりと濡れていて、しかも浴衣姿だ。

 良いですなぁ。


 その後、俺たちは大広間へと通された。


 そこにはずらりと豪華な料理が並んでいた。

 島国だけあってやはり魚料理が多い。


 どうやら今から宴会が催されるらしい。


「貴殿らのお陰で我が民族は救われた。これはほんのお礼だ」

「お礼ならさっきお風呂で見せてもらった桜花たんの裸だけで十分なのに」

「見せてないだろう!? 捏造するな!」


 ちなみに今度は毒を盛られているなんてことはないようだ。

 人魚の里での一件があったのでちょっと心配になってしまうが、桜花たちがそんなことをするはずもない。……桜花戦隊ラブレンジャーならやりかねないが。


 活け造りされた刺身を口にする。

 うん、新鮮で美味いな。


「おお! お米だ!」


 最も嬉しかったのが、この世界に来てまだ一度も食べたことのなかったお米があったことだ。

 味もなかなか悪くない。

 これなら白米だけでも食べられるな。


「うまうまうま」


 グルメドラゴンのシロすらも満足させる味のようで、美味しそうに食べている。


 この島にはちらし寿司の文化もあるらしい。

 酢飯に魚介や椎茸、大葉、海苔などが混ぜ込まれている。

 ただ、どうやら握り寿司はなさそうだ。


 あと、酒も美味かった。

 米を発酵して作った清酒だ。

 やっぱ日本人の口に合うなぁ。


 余興として鬼族の女性たちが演奏に合わせて民族舞踊を見せてくれた。

 俺は右から三番目の子が可愛いと思った(←男の大半はこうした視点でしか見てない)。


「うへへぇ~、このおみじゅ、のんでると、なんだか気もちよくなってきたのだ~?」

「おい、エレン。それは水じゃないぞ。お酒だ、お酒」


 エレンが酒を飲んで完全に酔っ払っていた。

 顔を赤くし、でろーんと畳の上に寝っころがるエレン。浴衣がはだけで、大きな胸が零れ落ちそうになっている。


「ちょっとエレンさん。こんなところで寝ないでください」

「べっどにつれてって~」

「しょうがない方ですね……」


 侍女たちに頼んでエレンを寝室へと運んでもらった。


「ままー、これ、おいひくて、なんかふわふわしゅるー?」

「フィリアちゃんまで!? 何でお酒飲んでるんですかッ!?」


 魔導人形でも酔っ払うらしい。


「はっはっは、お前らだらしないな~。俺なんてあと二十リットルはいけるぞ」

「それ物理的におかしくないですか!?」

「ティラ殿も一杯どうだろうか? 我が国のお酒は世界一。中でもこの〝鬼祭〟は最高峰の銘柄だ。自信を持ってお勧めできるぞ」


 横から桜花がティラにお酒を勧めてくる。

 彼女もすでに結構な量を飲んでいるようで、頬が赤らんでいた。


「そ、そうですか……それなら、少しだけ……」


 ティラが御猪口に口を付ける。


「あ、美味しい」

「そうだろう!」

「辛口なのにすごく飲みやすいですね。それでいて奥深い味わい。でも爽快感があります」


 あまりお酒に強くないのか、ティラは一杯だけですでに顔が赤くなっていた。

 そしてとんでもないことを言い出す。


「ふふふ、何だか急に雷魔法を放ちたくなりました」

「え?」

「あ、カルナさん。そこに立っていただけますか? 的にしたいので」

「うん? ちょっと意味が……」

「早くしてください(怒)」

「お、おう?」

「サンダーボルト」

「ぎゃう!」


 マジで当てて来た!?

 酔った勢いで言ってしまったギャグじゃねぇのかよ!


「もう一発行きますよー」


 それから俺はティラの雷撃を浴び続ける羽目になってしまった。


「あはははははは! カルナさん、これすごく楽しいです! 次は頭を狙いますね!」

「嬉しそうにとんでもないこと言ってるんだが!?」


 ティラを酔わせると危険だということが分かりました。


 俺にとってはご褒美だけどな!(ビクンビクン)

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