出会ってしまった三匹の変態編(番外編)
第69話 出会ってしまった二匹の変態
オレの名はギース。
アルサーラ王国の王都の冒険者ギルドで、ギルド長――だった男だ。
クビになってしまったのは、執務室でオ○ニーをしているところを、受付嬢のリューナに見られてしまったことがきっかけだ。ちなみに体勢はV字開脚。
ちゃんとノックをしたらしいのだが、どうやらシコるのに夢中でオレは気が付かなかったらしい。
さらに最悪だったのが、彼女に見られてしまった驚きで、つい発射してしまったことだ。思いのほか飛距離も出てしまい、彼女の靴に引っ掛かってしまった。
俺はこの一件を揉み消そうとした。
だがリューナは冒険者たちからも人気のある美人受付嬢だ。
そんな彼女がショックで寝込んでしまったこともあって、このことは瞬く間に冒険者たちの間に広がってしまった。そして大規模なボイコットが起こったのである。
彼らの要求はオレの解任だった。
オレは当初こそ強気で抵抗したが、ギルドの職員たちからも猛反発に遭い、ギルド本部からも見放され、結局、辞職することになってしまったのだ。
くそ! 男なら誰だって一度や二度は興味本位で外でやったことあんだろ!? オレの場合、その場所が執務室で、毎日だったってだけだ!
しかも退職金も出ねぇとか、オレがどれだけ今までギルドに貢献してきたと思ってんだよ!
不満は幾らでもあるが、もうどうしようもない。
幸いギルド長は解任されたが、冒険者をクビになった訳ではない。これからはまた一冒険者として、地道に活動していくしかなさそうだ。
しかしこれはこれでいいかもしれないと、オレは思い始めていた。
しがらみの多いギルドマスターと違い、今のオレは自由だ。どこにだって行ける。
そう思うと、ふと脳裏にある少女の顔が浮かんだ。
「……ああ、またあの子に肥溜めでも見るかのような目で見られてぇなぁ。罵られながら雷撃を浴びてぇなぁ」
たった一度の邂逅だったが、今もなおオレはあのときの興奮を鮮明に覚えている。
あれ以来、ギルドで見かけることはないので、エルフの里に帰ってしまったのかもしれない。
よし、決めた。
オレは再びあの子に会おう。
この想いをぶつけるんだ!
そして雷をぶつけてもらうんだ!
こうしてオレの旅が始まった。
エルフの里に向かい、王都を出発したオレは街道を進んでいた。
すると途中、二匹のゴブリンと交戦している旅人を発見する。
ゴブリンは最弱の魔物だ。武器を持った普通の大人なら、二匹程度、一人でもどうにか――
「……なりそうにねぇな」
旅人は大いに苦戦していた。
剣を振っているが、まるでなっちゃいねぇ。
しかたねぇな。
オレは嘆息しつつ、旅人を助けてやることにした。
頭にフードを被っているため顔は見えないが、もしかしたら若い女の子かもしれないという打算もあった。
「おらっ」
「ギャギャ!?」
「ふん!」
「グギョ!?」
俺は二振りでゴブリン二匹を仕留めると、息を荒らげている旅人を振り返った。
フードが脱げ、顔が露わになっていた。
「た、助かりましたぞ!」
残念過ぎることに、齢七十は超えていようかというクソジジイだった。
不思議なことになぜか執事服を着ている。
「このライオネル、若い頃はオークを倒したこともあるのですが、まさかゴブリン相手に苦戦するとは。いやはや歳は取りたくないものですな」
どうやらライオネルという名らしい。
「おい爺さん、悪いことは言わねぇから、その実力で一人旅は止めた方がいいぜ。まだ王都は近い。とっとと帰りな」
オレはそう忠告してやる。
だがジジイは首を振った。
「そういう訳にはいきませぬ。わしは姫様のところに行かねばならぬのです」
「姫様?」
「第三王女のエレン殿下のことでございますぞ」
「っていうと、元騎士団長の?」
とんでもない脳筋として知られ、騎士団長も務めていたエレン王女だったが、つい先日、突如として団長を辞めて旅に出たのだ。国民の誰もが知っていることである。
しかしその理由までは誰も知らない。
国王と喧嘩して家出したとか、男と駆け落ちしたのだとか、毎度お馴染みのお騒がせだとか、色々と噂されてはいるが。
まぁオレの鋭い勘で言わせてもらえば、駆け落ちの可能性が高いな。
男みたいな性格の女だが、だからこそ一度惚れたら一直線。周囲に反対されようと恋を貫くに違いねぇ。はっ、青春だなァ、おい。
聞いてみれば、どうやらこのジジイはその第三王女の執事だったらしい。
道理で執事服を着ているわけだ。
……いやいやいや、旅をするときまで着てるのはおかしいだろ?
「で、あんたはあのお転婆姫を連れ戻すようにと、王様から命じられたって訳か。ったく、ひでぇ話だぜ、こんな年寄りを」
「いえ、むしろ王様からは止められました」
「止められた? だとしたら、なんであんたは?」
「もはや老い先短いこの身……。だから、もう一度! もう一度だけでいいのです! もう一度、姫様に痛めつけていただきたいのです!」
お、おう……?
「ああああっ! 姫様に殴られたい! 踏みつけられたい! そのためならどこへだって行きますぞぉぉぉっ!」
どうやらこのジジイ、特殊な性癖を持った変態のようだ。
オレは自分のことを棚に上げてそう思った。
「まぁ、好きにしろや。オレは先を行くぜ。オレはオレでエルフの子を探さねぇとならねぇしな」
「エルフでございますか。そう言えばあの方の雷撃も、姫様が振るわれる暴力に負けず劣らず素晴らしいものでしたなぁ……」
雷撃、だと?
「ちょっと待て、爺さん。もしかして雷魔法を使うエルフのこと知ってんのか?」
「ええ。姫様と一緒に旅に出ていかれた方でして」
「マジか!? それを早く言いやがれ! どこに行った!?」
「聞き込みを行ったところ、エクバーナに行くと話していたとの情報を得ましてな。まずはそちらに行ってみようかと考えておりました」
「エクバーナか!」
これは有力情報だ。
そう言えば、城に伝手があるとか言ってったっけな。
あれは王女のことだったのか。
ん? となると、王女が駆け落ちした相手ってのはあのカルナとかいう野郎なのか?
はっ、やるじゃねぇか。
「よし、どうやらあんたとオレの目的地は同じらしい。仕方ねぇから一緒に行ってやらぁ」
「おお、それは心強い。ぜひお願いいたします」
こうしてオレはジジイと共に旅をすることになったのだった。
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