第26話 VS白輝竜
伝説の神竜、白輝竜が俺たちを見下ろしながら呟いた。
『……また人間』
〈言語理解・極〉を持つ俺にしか聞き取れない言葉だったが、ちょっと不機嫌そうだ。
「ふん、バカね。神竜がこんなところにいるわけないでしょ! レッドドラゴンより小さいしさ! ほら、いつものようにさくっと殺っちゃうわよ!」
威勢よく宣言したのは、アルクのパーティの魔法使いの女の子だった。
彼女は呪文の詠唱を始めた。
さすがはBランク冒険者というだけあって、二秒ほどの詠唱で中級の雷魔法が発動した。
雷撃が白輝竜に直撃する。
「ふふん、どうよ! ――えっ!? き、効いてないっ?」
白輝竜はまったくの無傷。
『0のダメージ。中級程度の攻撃魔法では、あのドラゴンにダメージを与えることは不可能です。白輝竜の鱗は魔法にも物理攻撃にも高い耐性を有しています』
並みのドラゴンならいざ知らず、神竜ともなればこちらも相応の攻撃をしなければダメージすら与えられないのだ。
だがノーダメージのはずの白輝竜は、なぜかわなわなと身を震わせていた。
『わたしのご飯が……』
白輝竜の近くにお皿が浮かんでいた。
しかしその上に乗っているのは、今の雷撃で炭化したのだろう、真っ黒い物体だった。
『許さない』
白輝竜が大きく口を開けて、咆えた。
オオオオオオオオオオオオッ!!
「「「っ!?」」」
それだけで凄まじい衝撃波が放たれ、俺たちは後方へと吹き飛ばされる。
「く……まさか、咆哮だけでこれほどの衝撃波をっ……。二人とも大丈夫かい?」
「う、うん、ありがとう、アルク!」
「た、助かりましたわ……」
アルクは自分自身は壁に叩き付けられながらも、二人の女の子を身を挺して護っていた。
さすがである。
助けられた女の子たちは完全に恋する乙女の顔。
まぁけど、俺には負けるな。
なにせこっちは三人だ。
「一応礼は言いますけど、ドサクサに紛れてお尻触らないでほしいんですが?」
「あ、あたしは胸を揉まれたぞ!」
「パパのえっちー!」
なのにこの反応だぜ?
やっぱり顔か? 顔なのか?
『すべての責任を顔に負わせる前に、その変態行為をどうにかした方がよいかと』
ちなみにフィリアには何もしてないからな(重要)。
「こ、こんなときに君たちは何をしているんだっ? ……くっ、ここは僕が時間を稼ぐっ! 早く逃げるんだ!」
アルクが巨大な剣を抜き、決死の形相で白輝竜へと斬りかかった。
自らが囮になることで、仲間や俺たちを助けようとしているのだ。
なんてイケメンだよ。
キィン、と甲高い金属音が響いた。
アルクの大剣と白輝竜の尾が花火を散らす。
「おおおおおっ!」
凄まじい速度でアルクが大剣を振るう。
白輝竜は尾を剣のように扱い、アルクの斬撃を捌く。
「聖銀(ミスリル)製の剣が……っ!?」
アルクの大剣が刃毀れしていた。
逆に白輝竜の鱗には一切の傷が付いていない。
鋼の数倍の高度を持つとされる聖銀ですら、白輝竜の鱗の強度には敵わないのだ。
アルク自身の実力もさるものだった。
さすがはAランクの冒険者だ。
アルク 21歳
種族:人間族
レベル:40
スキル:〈両手剣技〉〈闘気〉
生命:942/1189
魔力:72/72
筋力:374
物耐:358
器用:301
敏捷:299
魔耐:197
運:203
ステータスを覗いてみても、同じ剣士であるエレンにほぼ匹敵する。
『意外とやる。けど、所詮、人間』
白輝竜が口を開き、アルクに噛みつかんと迫った。
剣を振るうだけで精一杯だったアルクに、それを躱す余裕はない。
「アルク!?」
「いやあああっ!」
アルクの女の子たちが悲鳴を上げた。
「あ、あれ……僕は……?」
「大丈夫か?」
俺はアルクを救出していた。
喰らいつこうとしていた対象を失い、白輝竜の咢からガキンという音が響く。
「き、君が助けてくれたのか……?」
アルクが目を見開いて訊いてくる。
って、そんな至近距離で見つめてくんなよ。
俺は彼をお姫様抱っこしていた。
ぎりぎりだったため、さすがの俺も体勢を考慮する暇がなかったのである。
イケメンをお姫様抱っこするとか、なんて罰ゲームだよ……。
『今の速さ、なに?』
白輝竜がこっちを見て驚愕の声を漏らす。
俺はアルクを地面に下ろすと、白輝竜と向かい合った。
そしてドラゴンの言葉で話しかける。
『俺はカルナだ』
『人間が竜語を? ……珍しい』
『お前に一つ、提案がある』
『なに?』
微かに首を傾げたドラゴンに、俺は言った。
『俺のペットにならないか?』
『……なんの冗談?』
『俺は本気だぜ? ほら、ちゃんと首輪も用意している』
俺は鎖の付いた首輪を見せた。
こんなこともあろうかと作っておいたのだ。
「……なんかまたロクでもないことしようとしてません?」
竜語でのやり取りは理解できないだろうに、ティラが半眼で俺を見てくる。
『……条件がある』
白輝竜は意外にも俺の提案に乗ってくる気配を見せた。
『美味い食べ物、食べさせて』
『ああいいぜ』
俺はあっさり頷いた。
この神竜、なぜこんなところにいたのかと言うと、実は人間が作る料理の味を覚えてしまったかららしい。
だから人里に現れては、作りたての料理を奪っていたのだ。
『もう一つある』
『なんだ?』
『弱い者の下にはつきたくない』
それは恐らくドラゴンとしての矜持だろう。
『じゃあ俺がお前に勝てばいいってことだな?』
『勝つのは無理。だから認めさせればいい。それで十分』
『ありがたい譲歩だけど、それは遠慮するぜ』
『なぜ?』
不思議そうに聞いてくる神竜へ、俺ははっきりと断言してやった。
『お前より俺の方が強いからだ』
神竜の雰囲気が変わる。辺りの空気がビリビリと震えた。
『……身の程知らずは、早死にする』
『ご忠告ありがとよ』
白輝竜が長い身体を撓めた。
その全身を強烈なドラゴンの闘気――竜気が覆っていく。
先ほどアルクとやり合ったときとは違う。
本気モードだ。
「ティラ、エレン、フィリア、それとその他三人。できる限り離れてろ。巻き添えを喰うぞ」
皆に注意しつつ、俺もまた全身に闘気を纏って戦闘モードへと移行する。
こいつは間違いなく、俺がこれまでに戦った中で最強の敵だ。
『いく』
『来いよ』
そして俺と神竜は激突した。
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