第27話 被告人「信じてくれ。俺はペットに首輪をつけただけだ」
白輝竜が凄まじい速度で突っ込んでくる。
「っと!」
名剣すら凌駕する切れ味を持つ牙を寸でのところで回避しつつ、俺は白輝竜の口を掴んだ。
〈身体強化・極〉に加え、闘気を纏うことで跳ね上がった俺の握力で、みしみしと白輝竜の口部が軋む。
さらに俺はその場で身体を回転させた。
「おらあああああっ!」
遠心力を付け、円盤投げの要領で白輝竜を投擲。
『っ!?』
己の突進の勢いも利用された白輝竜は、音速に迫る速度で洞窟の外へと吹き飛んでいく。
俺は転移魔法を発動。
一瞬で先回りすると足を振り上げ、こっちに飛んでくる白輝竜へと踵落しを叩きつけた。
落雷のような速度で白輝竜の巨体が山道に激突し、大量の土砂が辺りに四散する。
「やったか!? って、一応言ってみる」
『やっていません。ダメージは243です。竜鱗のお陰で元より高い物耐値ですが、竜気を纏ったことで限界突破(リミットブレイク)しています。やはりマスターの打撃でもダメージは低いようです』
ナビ子さんの言う通り、舞い上がった土煙の中から白輝竜が飛び出してきた。
『さすが。ほとんどダメージなしか』
『……ちょっと痛かった』
白輝竜はムスッとしたように呟いてから、口腔を大きく開ける。
轟く咆哮。
そしてそれは強烈な衝撃波と化し、迫りくる。
「ぐぉっ」
咄嗟に全身を闘気で覆ってガードするも、馬鹿みたいに重たい衝撃により、俺の身体は空高く吹き飛ばされてしまう。
風魔法でどうにか空中に停止したが、身体が痛い。
『マスター、163のダメージです』
「いってぇ、闘気で身を護ってたってのに、今までで一番大きなダメージだな」
『生きてる? 普通の人間なら、今ので粉々』
白輝竜が驚いた様子で物騒なことを言ってくる。
こいつ、今のは完全に殺す気で放ちやがったな。
俺は〈自然治癒・極〉のお陰で瞬く間に痛みが消え、生命力が回復していくのを感じつつ、
『さて、遊びは終わりだ。もうちょっと本気を出すか』
『わたしもそうする』
白輝竜が身を躍らせて迫りくる。
俺は牙撃を転移魔法で回避。
白輝竜の死角である頭上へ転移するが、あらかじめ予期していたかのように尻尾が襲いかかってきた。
咄嗟に身を捻って躱す。
しかし尻尾はすぐさま反転し、追撃してきた。
硬質な鱗でできたあの尾の強度は、聖銀製の剣すらも上回る。
さらに今はドラゴン特有の闘気――竜気を纏っているのだ。
正直、真面に喰らいたくはない。
白輝竜は牙と尾、そして前脚と後脚の爪を振るって俺を攻め立ててくる。
器用なことに、まるでそれぞれが独立した意志を持っているかのようだ。
それでいて高度な連携で俺を追い込もうとしてくる。
俺は転移魔法を駆使しつつ、それを避けていく。
『逃げてばかり』
『本気でそう思ってる時点でお前の負けだぜ?』
『っ!?』
白輝竜の攻撃が停止する。
ようやく、自由な身動きを封じられていたことに気が付いたのだ。
『絡まった……?』
白輝竜の長い身体がもつれた糸のようになっていた。
当然、そうなるように俺が誘導していたのである。
ただ闇雲に逃げていた訳ではないのだ。
『……やられた』
かなり複雑に絡まっているので、そう簡単には抜け出せまい。
俺はあっさりと白輝竜の尻尾の先を掴んだ。
「せーのっ」
という掛け声とともに、その場でぐるぐる回転する。
白輝竜の巨体が振り回される。
音速を超え、轟音が鳴り響く。
「おおおおおっ!」
先ほどとは比べ物にならない遠心力を付けてから、俺は白輝竜を山岳の岩壁目がけて放り投げた。
『クリティカルです。1986のダメージ』
間髪入れず、俺は神竜目がけて魔法を放たんとする。
まぁあの場所なら破壊しても問題ないだろう。
「超級魔法〈|神怒ノ雷霆(ミョルニル)〉」
巨大な魔法陣が虚空に展開される。
直後、視界が稲光で埋め尽くされ、破壊的な雷鳴音が天地を豪快に震わせた。
◇ ◇ ◇
『わたしの負け』
俺の姿を認めるなり、白輝竜はあっさりと敗北を認めた。
その美しい鱗はあちこちが黒焦げになっている。
竜の鱗は魔法耐性も高いが、さすがにあの威力の雷魔法には耐え切れなかったようだ。
『生命力が残り2割にまで減っています。戦闘続行は可能ですが、宣言通りその意欲は無いようです』
神竜の高い自然治癒力なら放っておいてもそのうち完治するだろうが、俺は回復魔法をかけてやることにした。
「グレイトヒール」
『回復魔法まで使えるとか』
驚く白輝竜に、俺は言う。
『約束は守ってもらうぞ?』
『ドラゴンに二言はない』
白輝竜は頷いた。
『ただし、そちらも約束は守ってもらう』
『男に二言はねーよ』
俺もまた頷く。
この白輝竜、別に人を襲うためにここに棲みついていた訳ではない。
ドラゴンにしては珍しいことだが、ただ美味い物を喰いたかっただけなのだ。
だがこのままだと、もっと本格的な討伐隊がやってきていたことだろう。
化け物クラスの力を持ったSランクの冒険者も現れたかもしれない。
そう簡単にこいつが負けるとは思えないが、神竜とは言え、まだ幼竜だ。
もしものこともある。
という訳で、我が家のペットにすることにしたのだ。
まぁそれだけが理由じゃなくて、俺、異世界に行ったらドラゴンを飼ってみたいと思ってたんだよな。
『ん』
白輝竜は大人しく首輪を受け入れた。
サイズが自動的に変化する魔導具なので、ぴったりである。
それ以外の機能はない。
なのでぶっちゃけ逃げようと思えば逃げれるんだが、まぁそのときはそのときだ。
「パパ、しゅごーい!」
向こうからフィリアたちがやってくる。
俺が手を振って応じると、ティラとエレンが驚愕していた。
最初は俺が単独で白輝竜を倒したからだと思っていたのだが、どうも様子がおかしい。
二人が俺に向ける視線が、明らかに軽蔑の感情を含んでいたのである。
「……前々から変態だとは思ってましたが、まさかここまでだとは思いませんでした」
「あ、あたしでも、それはさすがに引くぞ……?」
え、どういうこと?
なんで二人の俺への好感度が凄まじい勢いで下がりつつあるんだ?
俺は訝しげに首を傾げつつ、後ろを振り返った。
するとそこには――
――首輪をつけた全裸の女の子がいました。
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