第28話 まさかフラグが立っていたなんて案件
振り返ると、首輪をつけた全裸の女の子がいた。
白い。
それが第一印象だ。
髪が純白。
そして肌も怖ろしく白い。
人形のように整った顔立ちをしているが、表情は寝起きのようにぬぼーっとしている。
その雰囲気はどこか儚げ。
見た目の年齢は中学生くらいか。
意外にも胸はそこそこあって、真っ白い乳房の上に可愛らしい桜色の小さな蕾が乗っている。
一方で、下は完全につるつるだ。
にしても、全裸の少女が首輪を付けていると、こんなにもエロいのか……(歓喜)。
「って、いつまでじろじろ見ているんですかっ」
「目の前に全裸の女の子がいるなら絶対に目を逸らさない。それが俺のポリシーだ」
「そんなポリシー今すぐ捨ててください!」
ティラが怒鳴り声を上げつつ、自分が羽織っていたマントで少女の裸体を隠した。
「あ、あなた一体、誰なんですかっ? 何で服を着てないんですっ」
すると少女は、ぬぼーっとした顔のまま、
「わたしはドラゴン。服は着ない主義」
「えっ……?」
「そいつはさっきの白輝竜だ」
俺が言うと、少女はこくんと頷いた。
白輝竜A
種族:白輝竜
レベル:71
スキル:〈咆哮〉〈竜気〉〈限界突破〉
生命:7891/7891
魔力:4232/4488
筋力:712
物耐:953
器用:601
敏捷:879
魔耐:912
運:778
鑑定してみると、はっきりと白輝竜であることが分かる。もっとも、俺以外には見ることはできないのだが。
ティラは目を丸くして、
「で、でも……どう見ても人にしか……」
「わたしは特別。人の姿を取ることくらい、造作もないこと」
少女は少しだけ自慢げに答えた。
『高位のドラゴンは人化することが可能です。彼女ほどの年齢で、ここまで使いこなせるのは珍しいですが。さすがは神竜ですね』
にしても、あのドラゴンが人の姿を取ると、こんな風になるなんてな。
人語も使えるようだし、頭が良いのだろう。
淡々としていて抑揚に乏しいが。
「その姿のまま人里に行けば、こんな騒ぎにならないで済んだんじゃないですか?」
「行った。けど、なぜか店を追い出された」
ティラの質問に、少女は微かな不満を滲ませて応じる。
「ちなみにどんな格好でした?」
「この姿」
つまりは裸で店に入ったらしい。
「むしろ追い出されて当然ですッ!」
「あと、お金がない」
「それでよく入店しようと思いましたね……」
「ちゃれんじ」
少女は胸を張った。
「そんな誰かさんみたいなチャレンジやめてください!」
「え? 誰かさんってもしかして俺のこと?」
「……他に誰がいるんですか……?」
ティラが俺を見て深々と溜息を吐く一方、フィリアがきらきらした瞳を向けてきた。
「ねぇ、パパ。もしかして、あたらしいママ? あたらしいママきたー?」
少女が小さく首を振って否定する。
「違う。わたしはペット。よろしく」
「ぺっと?」
「そう」
「ママじゃないけど、ぺっと! わーい、ぺっと! ぺっとーっ!」
ママじゃないと知って残念がると思いきや、フィリアは大喜びだった。
この子の中でママとペットの差は何なんだろうな……?
フィリアは目いっぱい背伸びをすると、よしよーしと白輝竜の頭を撫でた。
白輝竜はそれが気持ち良かったのか、「ん」と声を漏らしながら自分から頭を下げる。
「よーしよしよしよしよしよしよしよしよしよし」
フィリアは白輝竜の白い頭を物凄くもふもふし始めた。
お前はムツ○ロウさんか。
「まさか、本当に白輝竜をペットにしてしまうとはな……」
「人の姿だとすごく犯罪臭がするんですけど……」
エレンが驚愕し、ティラが半眼になって睨んでくる。
「ところで貴様の名前は何というのだ?」
「わたしは幼竜。名前はまだない」
エレンが訊ねると、夏目漱石っぽく答える白輝竜。
『ドラゴンは普通、成竜となって初めて名前を与えられます。ただし彼女のように群れから外れた個体の場合、一生、名無しのままであるケースもあります。なお個体差はありますが、概ね百歳前後で成竜になります』
この白輝竜はまだ15歳らしい。もし百歳まで待つとしたら、あと85年だ。
「それじゃ不便だし、名前を付けるか」
「好きにすればいい」
俺の提案に、白輝竜は興味なさそうに頷いた。
「じゃあ、白いからシロで」
「安直すぎじゃないですか!? 犬じゃないんですから!」
「それでいい」
俺に意見にティラが異を唱えてきたが、本人はあっさりOKした。
「いいんですか!? せめてもうちょっと女の子っぽい名前にしましょうよ!」
そこでエレンが手を上げた。
「あたしに良い案があるぞ!」
「そうですね、やっぱり女の子の名前は女の子が付けた方が無難でしょうし、ここはエレンさんに良い名前を――」
「ガチムチはどうだ!」
「――期待した私が馬鹿でしたよッ!」
『マスターに匹敵する酷いネーミングセンスですね』
俺は、ふむ、と頷いて、
「ガチムチか……それもありだな……」
「無しですよ!? 絶対にやめてあげてください!」
「おおっ、貴様にもガチムチの素晴らしさが分かるか! さすがだぞ!」
「エレン、お前も意外と優れた感性の持ち主のようだな」
「何で自分たちこそが〝分かってる〟感だしてるんですか!?」
「「芸術は爆発だ!」」
「名付けにそういうの要りませんから! ていうか、フィリアちゃんにはちゃんとした名前を付けてるじゃないですか!」
カッコいいと思うんだけどなー、ガチムチ。
「シロ! シロ! よーしよしよし」
そうこうしている内に、フィリアがシロシロと連呼していた。
まぁもうシロでいいんじゃね? という雰囲気になり、結局、俺たちは白輝竜のことをシロと呼ぶことになった。
「じゃあ戻ろうか」
そして俺たちが山を下りようとしたときだった。
「き、君のお陰で助かったよ……」
アルクのパーティがやってきた。
「まさか、あんなに強かったなんてね……。勝手に自分の方が強いなんて思い込んでいた自分が本当に恥ずかしいよ……。正直、Aランクだからって自惚れていたみたいだ……」
素直にそれを認めるなんて、随分と殊勝な奴だ。
勝気な女の子二人も、今や完全に意気消沈していた。
「……それで、その子は……?」
アルクがシロを見ながら訊いてきた。
「こいつはさっきの白輝竜。首輪を付けているのは俺がペットにしたからだ」
「……そ、そうか」
アルクはさすがにちょっと驚いた様子だった。
一方、女の子二人は露骨に引いていた。
「い、行きますわよ、アルク」
「そうねっ。いずれはアルクだって、神竜くらい倒せるようになるって!」
二人がアルクを励ましつつ急かす。
だがどういう訳か、アルクはその場を動かなかった。
「アルク? どうしたんですの?」
不思議がる二人を余所に、アルクは、
「も、もし……その……君が、良かったら、なんだけれど……」
「……どうした?」
「えっと……その……」
爽やかイケメンのアルクなのだが、今はまるで数か月ぶりに人と会話した引き籠りのようだった。
頬を赤く染め、なぜかもじもじしながら、ちらちらとシロの方を見ている。
なんかすげぇ嫌な予感がするんだが……。
やがて、アルクは意を決したように言った。
「ぼっ、僕も君のペットにしてくれないかっ?」
「断る」
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