第17話 ついムラムラしてやった。後悔はしていない
「まさかこれほど多くの精霊が姿を現すなんて……君には本当に驚かされてばかりだよ」
ティラパパが俺のところへとやってきた。
「これで里の者たちの人族に対する見方が大きく変わったはずだ。族長たちも君の言葉に耳を傾けざるを得ないだろう」
確かに族長たちが俺を見る視線には、畏怖の念が見て取れた。
あの様子なら、ティラパパの言う通り、アルサーラ王国との同盟の話も大きく進展するに違いない。
「なんと感謝すればいいことか……」
ティラパパもまた随分と畏まった様子だった。
「別に気にすることはないって」
「いや、この礼は必ずしよう」
お礼か……。
はっ、これはもしかして……今ならいける!?
「じゃあ、ティ――」
「ただし娘だけは絶対にやらんぞぉぉぉっ!」
ほんと親バカだった。
『マスター、バカはお互い様かと』
◇ ◇ ◇
祭事が終わり、その晩のこと。
ティラの家に戻り、借りている一室でそろそろ休もうかと思っていると、とんとん、とドアをノックする音が聞こえてきた。
「あの……私です。まだ、起きていますか?」
ドア越しに、ティラの声。
「起きてる起きてる! もうギンギンのビンビンに!」
「……出直してきます」
「待って!? 目が冴えてるってことだから! アソコのことじゃないって!」
「言わなくていいです!」
『……マスター、ワザとやってますね?』
しばしの沈黙の後、「はぁ……」と、ティラが溜息交じりに部屋に入ってきた。
それから、おずおずと切り出してくる。
「……今日のこと、ちゃんとお礼をしておこうと思いまして」
「お礼? 礼なら、何度も言われた気がするけど……?」
俺は首を傾げる。
「いえ、その……やっぱり、感謝の気持ちを伝えるだけでは、足りないかと……」
言いながら、なぜかもじもじし始めるティラ。
その恥ずかしそうな様子。
そして、気持ちだけでは足りないという言葉。
この二つから導き出される答えは……っ!?
エロいことか!?
エロいことだよな!?
むしろエロいこと以外に何がある!?
もしかしてフィリアに妹か弟ができてしまう!?
やっぱりギンギンにしておいて正解だったみたいだな!?
『マスター、落ち着いて下さい。鼻息が荒くてぶっちゃけかなりキモイです。それはもう、平常時の二倍ほど』
それ平常時でもキモイって意味?
俺の期待が最高潮に高まる中、ティラは俺のすぐ目の前まで寄ってきた。
そして覚悟を決めた表情をしたかと思うと、顔をゆっくりと近付けてくる。
そ、そうだな!
最初はそこからだよな!
ティラの可憐な唇を凝視する俺。
それが徐々にこっちに迫ってきて―――彼女は頭を横に向けた。
「……み、耳を触ることを、許してあげます」
その耳を先っちょまで真っ赤にしながら、ティラはそんなことを言ってくる。
「え?」
「だ、だって、ほら、最初に会ったときから、ずっと触りたがってたじゃないですかっ」
「……そ、そうだな」
なるほど。
うん。
……えっと。
悪い。すげぇ反応に困るわ、これ……。
もっとレベルの高い(?)ものを期待していただけに、俺のテンション、一気にトーンダウン。
『まさにザマァですね、マスター』
最近、ナビ子さんの性格がどんどん悪くなってきている気がします。
『そもそも、エルフというのは人族より遥かに貞操観念が強いです。婚前に性的交渉を行うことは最大級のタブーです。キスですらアウトです』
つまり、ティラはまだ綺麗なままの身体だってことだな!
『年齢=恋人いない歴=童貞歴のマスターと同じですね』
おい、俺のことはいいだろ。
ていうか、何で俺の前世のこと知ってんだよ。
『マスターを見ていればそれくらい予想が付きます。女性とまともに手を繋いだことすらなかったのでは?』
ひ、酷い!
俺だって、小学生低学年の頃は集団登校で、高学年のお姉さんと毎朝手を繋いで学校に行ってたっての!
『……』
ノーコメントやめて!
……ともかく。
エルフにとっては、異性と肌を触れ合わせることですら恥ずかしいことらしい。
つまりティラからしてみれば、これでも最大限のお礼であり、少なからず俺に心を許してくれたということだろう。
「分かった。じゃあ、遠慮なく触らせてもらおう」
「す、少しだけですからっ」
俺は手を伸ばした。
ティラはぎゅっと目を瞑り、緊張しているのか、身体を強張らせている。
「大丈夫。痛くしないから」
「は、はい……」
このやり取りだけ聞いてると、もっとエロいことしてる感じなんだけどなぁ……。
そして俺の指先が、ついに彼女の耳に触れる――その寸前、
ぺろんっ。
「~~~~~~~~~~~~ッ!?」
指先より先に、俺の舌が彼女の耳を舐めていた。
おっと。しまった。
舌が滑ってしまったようだ。てへぺろ。
「な、な、な、何をしたんです今!?」
「俺の指がティラの耳を触った」
「違いますよね!? どう考えても指の感触じゃなかったです! もっとねっとりとしてましたよね!?」
「緊張して汗が」
「いくら何でもあんなに水っぽくならないでしょう!? なんかぶよぶよしてましたし! 背筋がぞっとしたんですけど!」
部屋の端まで後退り、声を荒らげるティラ。
「大丈夫大丈夫。美味しかったから」
「やっぱり舌ですね!? 舌で舐めたんですね!?」
「ついムラムラしてやった。後悔はしていない」
「では今から後悔させてあげましょうか……?」
杖の先端を俺に向け、ティラは今にも呪文の詠唱を始めそうな勢いだった。
てか、なんで俺の部屋に来るのにわざわざ杖を……? 護身用……?
「わ、分かった。じゃあ、俺のも舐めていいから、それで許してくれ」
「別に舐めたくなんかないんですけど!?」
「え、マジで? 舐めたくないの? ほんとに?」
「何で舐めないのがおかしいみたいな空気出してるんですか! ……って、ちょっと待ってください! 何でズボン脱ごうとしているんです!? 一体どこを舐めさせる気ですか!?」
「だって、下手なところを舐めさせるのは失礼だろう?」
俺は至って真剣な顔で言う。
「だから俺のもっとも大切なところを――」
「風よ、斬り裂――」
「じょ、冗談! 冗談だから!」
マジで詠唱を始めたティラを、俺は慌てて止めた。
ていうか、どこを斬り裂くつもりですか……。
『むしろすべての女性たちのために、ぜひとも去勢してほしかったところです』
ナビ子さんや、俺を犬や猫みたいに扱わないでくれませんかね?
「んぅ……」
そのとき、眠そうに目を擦りながら可愛らしい天使が部屋に入ってきた。
フィリアだ。
どうやら今の騒がしいやり取りを聞いて起きてきてしまったらしい。
「パパ、ママ、なにしてるの?」
「パパとママはフィリアの弟か妹を作ろうとしていたんだ」
「ほんとっ?」
「 し て ま せ ん !! 」
「う、うん。してないよ、フィリア」
ティラの睨みを受けて即座に前言撤回。
「……そうなの?」
フィリアは残念そうに俯く。
「命ってのはとても大切なものだから、軽々しく作るわけにはいかないんだよ。フィリアは賢いから分かってくれるだろう?」
「うん」
俺がもっともらしいことを言うと、フィリアはあっさり頷いてくれる。
「そうか。偉いな、フィリアは」
「えへへ」
俺が頭を撫でてやると、フィリアは天使の微笑みを浮かべた。
なんていう純粋無垢な笑顔だろう。
『それに引き換え、マスターときたら……』
うっ……罪悪感が。
俺は穢れている……っ!
「じゃあママと一緒に部屋に戻りましょうか、フィリアちゃん」
「うん!」
ティラとフィリアは仲良く部屋を出ていこうとする。
二人は一緒の部屋で寝るのだ。
「カルナさんは来なくていいです」
付いて行こうとしたら、ぴしゃりと言われた。
俺も一緒に寝たいです。
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