第112話 遊び人

 俺たちが連れて行かれたのは謁見の間だった。

 偉そうに玉座に腰掛けているあのおっさんが王様だろう。

 小太りで口ひげを生やしている。

 何というか、ザ・王様という感じの王様だ。


「ようこそ、異世界の勇者たちよ。お主らを召喚したのは他でもない、我らの世界を脅かす魔王を打ち倒してもらうためだ」


 王様は単刀直入に言う。


「わたしたちが勇者!?」

「ま、魔王って……」


 そりゃあ、いきなりそんなこと言われたらビビるわな。


「はいはい! 魔王って強いんですかっ?」

「無論だ。しかも大勢の配下や魔物を引き連れている」

「ちょ、ちょっと待ってよ。わたしたち、ただの女子高生なんだけど!」

「心配は要らぬ。勇者として召喚されたお主らは、相応の力を手にしているはず。もちろんさらにレベルアップする必要はあるが、現時点でもここにいる兵士たちにも負けぬだろう」

「へ、兵士って……」


 王様の護衛のため、謁見の間には武装した兵士たちがいた。

 いずれも屈強そうな男たちである。


「ともかく、まずはお主たちの力を確かめるとしよう」


 王様の合図で、神官っぽい格好をした男性が水の入った杯を持ってきた。


「これは〝神杯〟と言って、適性や才能を確かめるための魔導具だ。杯を手にして念じると、水の色が変わる。その色によって判別することができるのだ」

「面白そう! あたしやりたーい!」

「ちょ、茜っ……」


 真っ先に手を上げたのは、さっきから戸惑う様子もなく常に楽しそうにしている女子高生。


「うむ。ではその方から……」

「あたしは赤星茜だよ!」

「アカホシアカネか。相変わらず異世界人は変わった名前だの」


 友人たちの心配を余所に、彼女――アカネは何のためらいもなく〝神杯〟を受け取った。

 すると水の色が濃い青へと変化していく。


「適性は【魔法使い】のようですね。それもこの色の濃さ……相当な才能の持ち主を考えられます」


 神官っぽい男が解説する。

 どうやら色が濃いほど良いらしい。

 王様が満足げに頷いた。


「さすがは勇者だ」

「【魔法使い】ってことは、あたし魔法を使えるようになるのっ?」

「その通りだ」

「わーい」


 俺は彼女のステータスを鑑定してみた。



アカネ

 レベル:1

 スキル:〈火魔法〉〈風魔法〉〈魔力回復〉



 確かに魔法系のスキルを多数所有しているようだ。


「次は……」

「じゃ、じゃあ、わたしが行くわ。えっと、京野京子よ」

「うむ。では、キョウノキョウコに〝神杯〟を」


 今度は水の色が真っ赤になった。


「適性は【剣士】のようです。しかもこちらもかなり濃く染まりました」



キョウコ

 レベル:1

 スキル:〈剣技〉〈闘気〉



 続いて、いかにも気の弱そうな少女の番に。


「め、目黒恵美、です……」


 水が真っ白になった。


「適性は【治癒士】です。こちらも前の二人に負けず劣らずの才能かと」



メグミ

 レベル:1

 スキル:〈回復魔法〉〈補助魔法〉



 回復魔法だけでなく、補助魔法も使えるようだな。


「素晴らしい! 三人ともまさしく勇者に相応しい! それどころか、【剣士】に【魔法使い】に【治癒士】とは、パーティとしてのバランスも申し分も無いぞ」


 王様は大満足のようだ。


「では最後の一人。一体、お主はどのような才能を見せてくれるのかの?」


 何か随分と期待値が上がっているようだ。

 神官が俺に〝神杯〟を渡してくる。


 これ、俺が普通にやったらどうなるんだ?


『〝神杯〟が壊れます』


 マジか。


『スカウター同様、測定値に限界がありますので』


 何でナビ子さんがスカウターを知っているのかはさておき、貴重な魔導具っぽいし壊しちゃうのはマズイだろう。


 ま、適当に擬装するか。


 その結果、水が濃いピンク色になった。


「おお、これもかなり濃いではないか。どうだ、神官よ? 彼の適性は?」

「しょ、少々お待ちを。あまり見たことがない色でして……」


 神官がちょっと慌てる。

 ローブの中から分厚い書物を取り出し、しばし目を通していたが、


「これは……【遊び人】?」

「【遊び人】?」

「は、はい。どうやら、彼の適性は【遊び人】のようです」

「【遊び人】とは……一体、どんな能力があるのだ?」

「えっと……その名の通り、様々な遊びに関する才能があると、この取説には……」


 それ、取説だったのかよ。


「……それは魔王討伐に役立つのか?」

「わ、分かりません」


 困惑している王様と神官。


『何でまたそんな半端なものにしたのですか、マスター?』


 いやいや、遊び人を馬鹿にすんなよ!?

 突然、悟りを開いて賢者に転職できるようになれるんだからな!


 だが【遊び人】の素晴らしさが分からないのか、謁見の間にいる文官・武官たちからは、遊び人? おい、遊び人だって……。何だそりゃ。役に立つ訳ねーじゃん。プークスクス。などという声が聞こえてくる。


「役に立つに決まっているだろう!」


 俺は声を大にして訴えた。


「今から見せてやろう! 遊びこそ、魔王を打ち倒す最強の力であることを!」


 そして――――俺は服を下着もろとも脱ぎ捨て、裸になった。


「何で脱いでんのよ――――ッ!?」


 キョウコが叫ぶ。

 安心してください。

 股間だけはお盆で隠してます。


「後ろは丸見えなんだけど!?」

「……俺の後ろに立つな」

『さいとう先生に謝って下さい』


 ゴ○ゴっぽく言ってみたら怒られた。


「はわわわ……」

「わっ、お尻お尻!」


 メグミは顔を両手で覆いつつも指の隙間からバッチリ見ていた。

 アカネはなんか嬉しそうにお尻お尻と連呼している。


「お、王様の御前でっ!」

「何と不敬な……っ!」

「よい、お前たち」


 いきり立つ臣下たちもいたが、それを王様が制した。


「魔王を打ち倒す力を申したな? ならば見せてみるがいい」


 俺は頷き、


「とくと見ろ! これぞ日本が世界に誇る裸芸だッ!」


 お盆を持つ手を入れ替えたり、一瞬で裏返しにしたり。

 あるいはお盆を手放してその場で一回転し、キャッチしたり。

 もちろん絶対に股間を見せてはならない。


 見せそうで見えない。

 ギリギリの緊張感。

 次第に謁見の間にいる人たちが真剣な目になってくる。


「な、何だ、あのアホな芸は……っ!?」

「いや、ただアホなだけではない! 高度な技術がなければあれは不可能だ!」

「ほ、本当に見えないぞ! 動体視力には自信があるのだが……っ!」


 さらに俺の芸はヒートアップしていく。

 側転や側宙、回転ジャンプなどのダイナミックな動き。

 時には新体操めいた優雅なポーズも。


「あんな動きをしているというのに、股間だけは完璧に隠しているなんて!」

「よく分からんがすごいぞ!」

「こんな芸があったとは……っ!」


 謁見の間がどんどん盛り上がっていく。

 やがてそれが最高潮に達したとき、俺は最後の決め業を披露した。


 両腕を大きく上げてのグ〇コ走り。

 お盆は風圧でどうにかくっついている。


「「「おおおおおっ!」」」


 やがて裸芸が終わると、凄まじい拍手が巻き起こった。

 王様まで立ち上がり、手を叩いている。


「素晴らしい!」

「これが……これが裸芸!」

「異世界にはこんなものがあるのか……っ!」


 さすがは裸芸、大好評のようだ。

 異世界にすら通じる、まさに万国共通の芸だな。


「やめて!? 日本のイメージが……っ!」


 キョウコだけ頭を抱えているが。


「良いものを見せてもらった! お主がいれば、きっと魔王も打ち倒せると信じておるぞ!」

「何で!? 今のでどうやって魔王を倒すのよ!?」


 満足げな王様に、キョウコが全力でツッコむ。


「そう言えば、まだ聞いていなかったの。お主、名はなんと申す?」

「俺の名は――」


 王様に訊かれ、俺は答えた。



「――カルナ100%だ」



「絶対違うでしょ!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る