第113話 四つの試練
「四つの試練?」
「そうじゃ。さすがに勇者と言えど、真っ直ぐ敵地に乗り込むのは危険じゃ。やはりもっと強くなるための修行が必須じゃろう。そしてそのためにお主らが取り組むべきは、四つの試練じゃ!」
王様が言うには、この大陸の各地にそのためのダンジョンが存在しているらしい。
勇気。
知恵。
力。
運。
そのダンジョンには、この四つのテーマに乗っ取った試練が用意されているとか。
誰が用意したのか知らんけど。
「生憎、ダンジョンに入れるのは勇者であるお主らだけじゃ! 従って、勝手に行って勝ってに攻略して勝手に強くなってもらうしかない! そしてそれが一番の強くなる道なのじゃ!」
「それって……要するに丸投げじゃ……」
JK三人組の中では一番大人しそうな少女、メグミがボソッと呟く。
「べ、別に、勇者の訓練に人員を裂くことができないとか、そういう訳ではないぞ!?」
王様は慌てて言い訳する。
さらに俺たちの不審の視線を避けるように、配下に命じた。
「お、おい、早く旅立ちの餞別を持ってくるのじゃ!」
俺たちは城を出て、フィールドに立っていた。
「本当にわたしたちだけなのね……」
「楽しみ!」
「……だ、大丈夫かな……?」
それぞれ期待と不安の表情を浮かべるJKズ。
魔王の侵略を受けつつあるのは大陸の西方だという。
ここから西へと向かいつつ、各地にある試練を攻略していくというのがこの冒険の基本的な流れとなるだろう。
「最初は北西に行ったところにある勇気の試練だな」
「勇気ならあたしに任せて! 失敗を怖がったことなんて一度もないもん!」
「茜ちゃん……それって、単にアホなだけじゃ……」
アカネは能天気で、メグミは意外と口が悪かった。
「よし、出発だ!」
「おーっ!」
「は、はい……」
「ちょっと待ったぁぁぁぁっ!!」
記念すべき冒険の第一歩を踏み出そうとしたそのとき、キョウコの声が響き渡った。
足を止め、振り返る俺たち。
一体どうしたというのか。
「あんた、その格好で旅する気!?」
「そうだが?」
「なに当たり前なこと訊いているんだ、みたいな顔しないでよっ!? 普通に考えておかしいでしょ!? 裸じゃないの、あんた!」
「いや、ちゃんとお盆で隠してるだろ」
「そういう問題じゃないから! てか、茜と恵美もなんで自然に受け入れてるのよ!?」
俺は王様に裸芸を見せたときのままの格好だった。
「王様から貰った防具はどうしたのよっ!」
「大したものじゃなかったから返した」
「どう考えても裸よりはマシだと思うんだけど!?」
王様からの餞別は酷いものだと相場が決まっているが、意外とちゃんとしたものをくれた。
どれも宝物庫に保管されていた一級品の装備らしい。
【魔法使い】のアカネは魔法使いっぽいローブと杖を、そして【治癒士】のメグミは僧侶っぽい服と槍を貰っている。
そして【剣士】のキョウコは剣と鎧だ。
「【遊び人】の俺にとってはこれが最も戦いやすいからな」
「さすがに防御力を無視し過ぎでしょ!?」
「いや、お盆は盾にも使えるぞ?」
「盾に使ったら隠すものが無くなるでしょうがッ!? って、お盆くるくるさせんなっ! メグミも横から見ようとしないっ!」
「……チッ」
「えっ、今なんか舌打ちしなかった!?」
「……気のせいです」
アカネが「はいはーい!」と手を上げた。
「それ、あたしもやってみたい!」
「そうか。だが裸芸の道は辛く険しいぞ?」
「望むところだよ、師匠!」
「よし、では早速、修行開始だ。まずは服を脱いで裸になるところからだ」
「いえっさーっ」
「ぬ、ぐ、なッ!」
服を脱ごうとするアカネを、キョウコが全力で止めた。
「何で止めるのっ?」
「止めるに決まってるでしょうがッ!?」
「裸芸の修行ができないじゃん!」
「あんなのできなくていいから! ていうか、あたしたち魔王を倒しに行くのよね!? そんなことやってる場合じゃないでしょ!」
「あ、そっか」
「……チッ。もう少しで合法的にJKの裸を見れたのに余計なことを……」
「あんたも舌打ちしないッ! しかもどこが合法なのよ! この変態ッ!」
「俺は変態じゃない。なぜならJKを前にしても勃起していないから! 疑うなら確認してもらってもいいぞ!」
「その発言がもう完全に変態なんだけど!? ……だから確認させようとしなくていいからッ! 誰も見たくないからッ!」
キョウコは散々喚いてから、
「はぁ……もうその格好でいいから、早く行くわよ」
結局、俺はこの姿で魔王討伐の旅に出発したのだった。
「やはり男として俺が最前列を進むべきか」
「いやあんたは最後尾にいなさい! 絶対に前に出ないでよ!」
そんなに俺のお尻を見たくないのか。
「っ! 魔物よ!」
牧歌的な草原のフィールドを歩き始めて二十分ほど。
キョウコが叫んだ。
最初のモンスターに遭遇する。
でかい蛙だ。
俺の腰くらいの背丈があった。
「うえっ、気持ち悪~い」
「……ですね……」
アカネとメグミが顔を顰めている。
「そ、そんなことで戸惑ってる場合じゃないでしょ! 相手はモンスターなんだから!」
やや嫌そうな顔をしつつも、気丈に剣を構えるキョウコ。
そこへいきなり蛙が飛びかかってきた。三メートルくらいの跳躍。
「きゃあっ!?」
ずばっ!
急にあんなにジャンプするとは思っていなかったのか、キョウコは思わず悲鳴を上げたが、慌てて振った剣が蛙をあっさり両断してしまった。
「え? た、倒せた……?」
自分でも驚いている。
「京っち、すごい!」
「……な、なんか、弱かったですね……」
まぁ最初のモンスターなんてこんなものだろう。
今まで剣を持ったことすらなかっただろうが、〈剣技〉スキルがあるため怖がりながらもちゃんと振れていたしな。
その後も彼女たちは遭遇するモンスターを、苦戦することもなく順調に倒していった。
俺はというと、ずっと応援に徹している。
もちろん裸芸での応援だ。
「むしろ気が散ってマイナスなんだけど!?」
岩壁のど真ん中にぽっかり空いた穴。
それが最初の試練であるダンジョン〝勇気の洞窟〟の入り口だった。
「入るにはこの岩壁を登らないといけないってわけね」
「そ、それだけで、勇気が試されるよね……」
幸い岩がごつごつしているため、ロッククライミングに必要な足場は沢山ありそうだ。
「よし、じゃあ俺から登ろう」
「ちょっと待ちなさい」
お手本も兼ねて、真っ先に登ろうとしたらキョウコに制止させられた。
「あんたは最後よ」
「何でだ?」
「上を見たらあんたのお尻が丸見えなんて、地獄じゃないの!」
人のお尻を何だと思っているんだ。
まあいい。
ここは素直に受け入れるとしよう。
「分かった。じゃあ俺は最後だ」
「あ、みんな、ちゃんとズボンに着替えてから登るわよ」
「くっ、機先を制された!?」
せっかくJKのパンツを拝める絶好のチャンスだったというのに!
「そもそもあんたその格好で登れるの? 片手が塞がってんのに……」
「いざとなったらお盆を放り捨てるから大丈夫だ」
「それはそれでやめて欲しいんだけど!?」
まぁ本当はジャンプしたら届くんだけどな、あの高さくらい。
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