第80話 海賊退治

 俺たちはNABIKOで海の上を走っていた。

 船首が海水を掻き分けながら進んでいく。

 せっかくなので第四形態として船の姿へと変形できるようにしたのだった。


 天気は快晴。

 陽光を浴び、海面がキラキラと輝いている。


 甲板に出て風を浴びることもできるし、船内の窓からは海の中を楽しむことができた。

 フィリアはさっきからずっと窓に鼻を押し付け、「さかなーっ」「くらげーっ」「しゃめーっ」などと楽しそうに叫んでいる。かわいい。


 時々海棲のモンスターが襲ってくるが、迎撃システムに任せていた。

 敵対生物の接近を察知すると、ナビ子さんが魚雷を発射して撃退してくれるのだ。


 あのビーチから海へ出て、現在、俺たちは鬼族たちの住む島へと向かっている。


 エクバーナへ侵攻軍を率いていた巨乳将軍こと桜花から、機会があればぜひ立ち寄ってほしいと言われていたのである。

 どうやら彼女らの国は向こうの世界の日本に似た文化を持っているらしく、俺としても一度行ってみたいと思っていた。


 ビーチからも肉眼で見えるほどの距離なので、たぶん瀬戸内海を挟んだ中国地方と四国くらいの距離感だろう。

 三、四時間ほどもあれば着けるはずだ。


「およぐーっ!」

「こら、モンスターも出るから危険だぞっ」


 見ているだけでは飽きてしまったのか、水着に着替えたフィリアが海に飛び込み、エレンが慌てて後を追う。

 ちょうどそこへ魚人型モンスターであるギルマンが現れたが、フィリアが自分でも気づかない内にバタ足で蹴り飛ばして倒していた。


 一方、俺は甲板の上にサマーベッドとパラソルを設置し、上半身裸でのんびりと横になっていた。

 今日はぽかぽかと温かく、そうしていると眠くなってくる。


 平和だなぁ。


 しかしそんなふうに俺たちが平和な船旅を満喫している時だった。


「あれ、船じゃないですか?」


 ティラが北東を指差して言う。


「確かに船だな」


 けっこう大きな船が海上を進んでいた。

 進路を考えると、ちょうどこの船とぶつかりそうだ。


 ちなみに船は髑髏のマークが描かれた旗を掲げていた。

 うん、物凄く分かりやすい海賊船だな。


『あの海賊旗はソイル海賊団のものです。この海域では名の知れた海賊団ですね』


 ナビ子さんが教えてくれる。

 なるほど、暇つぶしにちょうど良さそうだ。




   ◇ ◇ ◇




「お頭、なかなかいい女が乗ってたっすよ」


 俺たちは縄で拘束され、海賊船の甲板の上にいた。


「ほう、こいつぁ高く売れるぜ」


 そんな乱暴な口調で俺たちを値踏みするように見てくるこの海賊団の船長らしき人物は、驚いたことにまだ二十代半ばくらいの女性だった。

 かなり日に焼けているが、それがかえって魅力にも思えるなかなかの美人である。


「こいつらは牢にぶち込んどけ。貴重な商品だからな、勝手に傷モノにするんじゃねぇぞ」

「うっす!」

「……てめぇだけは大して商品価値がなさそうだし、あとでオレが可愛がってやるよ」


 女船長は俺に顔を近付けて舌舐めずりした。

 マジか。とても楽しみです。


 と一瞬期待したのだが、どうやら気持ちいいことではなく痛いことしようとしているようだったので遠慮しておくことにしよう。


「ねー、パパ。そろそろいい?」


 フィリアが早く暴れたくてそわそわしている。あとエレンも。


「ああ、いいぞ」

「わーいっ! えいっ!」


 可愛らしい掛け声とともに、ぶちんっ、とフィリアは自分を拘束していた縄を引き千切った。


「「「え……?」」」


 ちょっとやそっとでは切れないはずの縄がいとも容易く千切られ、海賊たちが唖然とする。


「誰だこんな脆い縄を使いやがった奴は!?」

「そ、そんなはずはないっすよ、親分! ちゃんと頑丈なやつを使って縛ったっす!」

「だったらこんなに簡単に千切れるわけがねぇだろうが。おい、とっとと拘束し直しやがれ」

「了解っす!」


 女船長が苛立ち、船員たちが慌ててフィリアを捕縛しようと彼女に近付いていく。


「たーっ!」

「ぶべっ!?」

「ぎゃっ!?」

「ぐおっ!?」


 だが屈強な海の男たちは、フィリアにあっさり吹き飛ばされて海へと落ちていった。


「確かに脆い縄だな」

「ふん、こんなものであたしを捕えられると思うな」

「……ん」


 フィリアに続いて、俺とエレンとシロも強引に縄を引き千切った。

 あとはティラだけだ。


「……あの、私にはそういう常人離れしたことはちょっと無理だと思うんですが……。って、あれ? 意外といけそうかも……? んんっ……」


 顔を赤くして力むティラ。


「おっ、その力んだ顔、なんか新鮮で可愛いな。だけど力み過ぎてオナラしないでね」

「へ、変なこと言わないでください!」


 ツッコミと同時に、ぶちっ、と彼女を拘束していた縄が切れた。

 さすがツッコミ系ヒロインである。


「ちっ、しょうがねぇ! てめぇら、多少傷つけても構わねぇから捕えなおしやがれ!」

「「「おう!」」」


 海賊たちが一斉に腰に差していた湾刀を抜いた。

 全部でだいたい二百人くらいか。

 俺たちは海賊船の大掃除を開始した。


「ほい。えい。おりゃ」

「ぐおっ」

「ぬぁっ」

「あーれー」


 次々と襲い掛かってくる海賊たちを千切っては投げ、千切っては投げ。

 俺はゴミを掃いて捨てるように、海へと投げ飛ばしていく。

 実際ちょっとこいつら汚いしな。


「わーい!」

「ひぃぃっ」

「こっち来たぁぁぁっ!?」

「逃げろぉぉぉっ!」

「きーーーーんっ!」


 甲板の上を無邪気に走り回りながら、海賊たちに恐怖を与えているのはフィリアだ。

 その可愛らしい見た目とは裏腹に、魔導人形たる規格外のパワー。屈強な男たちも成す術がない。けどその効果音はやめなさい。


「剣を抜くまでもないな」

「な、何だこの女っ?」

「素手で刀を受け止められた!?」

「ぐぼっ!?」


 パワーではフィリアに劣るものの、アルサーラ王国最強、一騎当千の破壊姫の名は伊達ではない。

 この程度の海賊たちでは、彼女の拳を喰らえば軽く数メートルは宙を舞って海にジャボンである。


「くそっ、こいつらやべぇぞ!」

「あのエルフを狙えっ!」

「おおおっ!」


「あの……ちょっと匂いがきついので、あまり近づかないでいただけますか……?」


「臭いって言われたぁぁぁっ!」

「し、しっかりしろっ!」

「っ! お、おい、魔法がっ……ぎゃああっ」


 辛辣な言葉で海賊たちのメンタルを削りつつ、ティラが風の上級魔法で海賊たちを吹き飛ばしていく。


「すぅすぅ……」


 自分が戦う必要はないと判断したのか、シロは甲板の上に横になって寝息を掻いていた。こんな状況でよく寝れるよな……。


「ちぃっ、女子供も相手に何やってやがるっ!」


 手下が次々とやられていく中、海賊船の女船長が声を荒らげる。


「仕方ねぇ。オレがやる」


 そして自ら前に出てきた。


「はっ、少しはできるようだな。だがよ、このオレを誰だと思ってやがる? かの伝説の大海賊の末裔、ソ――――ぶぎゃっ!?」

「えーい!」


 口上の途中でフィリアに体当たりを見舞われて吹き飛び、女船長はマストに激突して悶絶した。

 うん、フィリア。そこはちょっと空気読んであげても良かったかもしれないな。




   ◇ ◇ ◇




「もぉやだぁ……陸に帰るぅっ……ぐすっ……」

「お、お頭ぁぁぁっ!? それじゃあ海賊王になるという夢はどうなるっすか!?」

「無理ぃ……だって、あんな化け物がいるんだもぉん……」

「いつものお頭はどこに行ってしまったっすかぁぁぁっ!」

「ああ、ダメだ……お頭が完全に幼児退行しちまった……ソイル海賊団も終わりだな……」


 俺たちに完膚なきまでに叩きのめされたソイル海賊団は、この後すぐに解散したらしい。


「助けていただき、ありがとうございます」


 それはともかくとして、海賊船内には彼らに捕縛された女の子たちがいたので解放してあげた。

 女の子と言っても、下半身は魚だけどな。


 つまりは人魚である。


 どうやら海賊団は彼女たちを捕まえて奴隷商人に売るつもりだったらしい。

 人魚には見目麗しい者が多く、かなり高値で買い取ってもらえるそうだ。実際、捕えられていた子たちは美女美少女ばかりだ。


 それにしても……この子たち、おっぱい隠さないんだなぁ……ハァハァ。


 五人いるのだが、全員が胸部を惜しげもなく晒している。

 俺が凝視してもまったく嫌がったり恥ずかしがったりする様子はないし、たぶん隠さないのが彼女たちにとっては当たり前なのだろう。

 何て素晴らしい種族なんだ!


「何で特定部位ばかりじろじろ見てるんですか?」

「見てない見てない」

「鼻の下、伸びてるんですけど?」

「ちょ、杖で突かないで。鼻の穴が広がっちゃうから」


 ティラが魔法の杖で俺の鼻の穴をぐりぐりしてきた。


「あの、もしよろしければ私たちの街にいらっしゃいません?」


 と、そこで人魚の一人が提案してくる。この中でも一番形のいいおっぱいをしている女の子だ。……触るのはやっぱりNGなんだろうか?


「街?」

「はい。海底にあるのですが、私たちの魔法があれば人族の方でも呼吸ができるようになっています。ぜひとも助けていただいたお礼をしたいのです」


 なるほど。人魚さんはなかなか律儀なようだ。

 俺は頷きつつ、当然ここで訊いておくべき質問をした。


「ちなみに街の中でも人魚の皆さんはみんなそういう格好で?」

「え? あ、はい。私たちには人族の方々と違って服を着る習慣はありませんので」

「行きます」


 それ以外の選択肢はあり得なかった。


「ちょっと動機が不純すぎじゃないですか!?」

「そんなことないさ。やっぱり彼女たちの厚意を無下にしてはならないと思ったからこそだ」

「じゃあ何でそんなイヤらしい顔してるんですか!?」

「普段からこんな顔だ」

「……」


 あ、そこは否定してくれないのね!?


 そんなこんなで、これからおっぱいの楽園に行ってきます。

 鬼族の島? そんなの後でいいよ。

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