第79話 頑張れ僕らの触手モンスター

 触手に足を掴まれたエレンが、逆さまに空中へと吊り上げられてしまう。


「このっ!」


 彼女は空中で身を捻ると、足に巻きついた触手を手で掴み、引き千切ろうとした。剣はキャンピングカーに置いてきているのだ。


「……つ、掴めない……っ!?」


 だが触手の表面を覆うぬめぬめのせいで、エレンの手がつるりと滑ってしまう。

 その間にも複数の触手が彼女に襲いかかっていた。


「……んっ……あっ……や、やめっ……」


 四肢を触手に拘束されてしまうエレン。

 お尻や首周りを触られ、色っぽい悲鳴を漏らす。


「いいぞ、触手! もっとやれ! よし、フィリアも俺と一緒に触手さんを応援するぞ」

「うん! しょくしゅーっ、がんばれーっ!」

「くっ……こんなことでは、あたしは屈しない……っ!」


 歯を食い縛り、エレンは触手攻めに耐えようとしている。

 ふふふ、その強がりが果たしていつまで持つかな?


「おい胸だ! 今度は胸を攻めろ!」

「むねーっ!」

「はぅっ……ちょ、あんっ……」


 エレンはすでに全身ヌルヌルだ。

 俺のテンションはさらにヒートアップ。


「よーし、水着の中にも侵入するんだ!」

「なかーっ!」

「……そ、そこはだめっ……」


 そのときだった。


「エレンさんっ!」


 ティラが放った風の刃が、エレンを拘束していた触手を切り裂いた。

 ばしゃーん。

 拘束から解放され、飛沫を上げて海に落下するエレン。


「うわっぷ…………た、助かったぞ、ティラ!」

「それにしても何なんですか、このイヤらしいモンスターはっ!」


 次々と迫りくる触手を風の刃で斬り飛ばしながら、ティラが怒鳴り声を上げる。


 しかし触手は無数に存在し、切っても切ってもキリがない。

 彼女が餌食になるのも時間の問題だろう。


「が、ん、ば、れ、しょ、く、しゅ!」

「がーんーばーれーっ!」


 俺とフィリアは拳を突き上げ、懸命に触手に声援を送る。

 もはや触手応援団だ。


 ちなみにシロはずっと海面にぷかぷか浮かんで寝ていた。

 相変わらずマイペースな奴である。沖にまで流されないといいけどな。


「あ、あたしが触手をどうにかする! ティラはその間にデカい魔法を!」

「分かりました!」


 エレンとティラが連携を取り始めた。

 ティラを庇うようにエレンが立ち、迫る触手を拳で打ち払っていく。

 その間にティラが呪文を詠唱。


「おい、まずいぞ触手! あの魔法を唱えさせるな!」

「しゃせるなーっ!」


 俺の言葉を理解できたのか分からないが、触手モンスターはティラの魔法を阻止すべく、全触手を懸命に振るう。

 だが――


「エレンさん!」

「了解!」


 ティラの合図で、エレンが飛び退く。

 直後、ティラの上級魔法が発動した。


 雷鳴が轟き、触手モンスターを電撃が襲う。


「触手ぅぅぅぅっ!?」

「しょくしゅーっ!?」


 俺とフィリアはそろって悲鳴を上げた。


 ティラの魔法の直撃を受け、我らが触手モンスター様が黒焦げになってしまったのだ。

 自慢の触手も大半が焼け、もはや虫の息である。


「まだだ! まだ諦めるなっ! お前の活躍を皆が待っている! こんなところでお前は死ぬ訳にはいかないんだっ!」


 俺はそう激励の言葉を吐きつつ、触手モンスターに向かって高位の治癒術を発動した。

 見る見るうちに傷が癒え、元の素晴らしいぬめぬめを取り戻していく。


 元気になった触手モンスターは、再びエレンとティラに襲いかかった。

 ヒーローの復活に、俺は快哉を叫んだ。


「さあ、行け! 触手よ! 俺たちの夢を叶えてくれ!」

「って、さっきから何やってるんですか、あなたは――――ッ!!」




 このあとめちゃくちゃ怒られた。




   ◇ ◇ ◇




「あの……ティラさん? そろそろ出してもらえないでしょうか……?」


 俺は恐る恐る訊ねた。


「ダメです。もうしばらくそこで反省しててください」


 しかし返ってきたのは、ティラ様の冷たいご返答。


 俺は先ほどの罰ということで、頭部以外の全身を砂浜に埋められていた。

 この状態ですでに一時間。

 皆が海で楽しそうに遊んでいるのを、ずっと眺めているだけ。

 とても暇である。


「まぁでも、このアングルから見る世界もなかなか良いものですなゲヘヘ」

「ぜんっぜん反省してませんよね!?」

「ふぎゃ」


 ティラに頭踏まれた。

 スク水美少女に裸足で頭を踏み付けられるのは、むしろご褒美ですけどね!


「ティラ、見つけたぞ!」


 とそのとき、海の方からエレンの声。

 ティラはそれに頷いてから、


「どうやらようやく執行人が現れたみたいです」

「え……執行人て……?」


 とても嫌な予感とともに、俺は首を海の方へと向けた。


 先ほどとはまた別の触手モンスターがそこにいた。

 そいつはエレンに剣でつつかれて誘導されているらしく、真っ直ぐ俺の方へと向かって来ている。


「喜べ、こいつは雌だ」

「……まさか」


 俺の頬を冷や汗が流れた。


「逃げないでくださいね?」


 ティラが怖ろしい笑顔で念を押してきた。


 直後、無数の触手が一斉に俺へと迫りくる。

 一部は地面に突き刺さり、砂の中から俺の身体へ――



「いやあああああああっ!」



 男が触手モンスターに蹂躙される。

 このあと繰り広げられたのは、そんな誰得展開だった。











 慣れると結構気持ち良かったです。

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