第81話 おっぱいの楽園にやってきました(※人魚の里です)

 不思議な感覚だった。

 水の中にいるというのに呼吸ができるし、身体がまったく濡れない。

 人魚さんたちの魔法の効果である。

 ……まぁ俺の場合は〈水中棲息・極〉という、水中でも棲息が可能になるというスキルがあるので別に必要なかったのだが。


 俺たちは助けた人魚さんたちに連れられて、人魚の里へとやってきていた。

 まるで浦島太郎だな。


「みんな! ただいま!」


 俺たちを連れて来てくれた人魚のお姉さん――ちなみに名前はリューナさん――が手を振ると、そこらにいた人魚たちがこっちを振り返った。


「えっ、リューナ?」

「うそ、海賊たちに捕まったんじゃなかったの……?」

「それにタツナたちもいる!」

「無事だったのね!」


 わっ、と人魚たちが一斉に俺たちの元へと群がってくる。


「うん! この人族の方たちに助けてもらったんです!」

「へぇ!」

「ありがとう!」



「うおおおおおっ!」



 俺は思わず叫んでいた。


 人魚たちは服を着ない。

 だからおっぱい丸出しなのだ!

 俺の目の前で惜しげもなく晒される、生のおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱい!


 しかもそろいもそろって美女美少女ばかりときた。

 素晴らしい!

 楽園はここにあったのだ! 俺もうここで暮らす!


「……鼻血でてるんですけど……」


 ティラがジト目で何か言ってくるが今の俺の耳には届かない。


「族長のところに案内しますね!」


 リューナに先導されて、俺たちは里の中を進んでいく。

 真っ白い家々にそれを取り巻く色鮮やかな珊瑚。


「きれーい!」


 フィリアの言う通り、物凄く綺麗な街だった。

 時折魚の群れが目の前を通り過ぎていく。

 時折見かける住民人魚もやっぱり皆おっぱい丸出し。


「あれだ。ここは俺たちも服を脱ぐべきだよな、ティラ」

「脱ぎませんよ!?」

「だが俺は脱ぐ!」


 俺はズボンに手をかけた。


「ちょ、やめてください脱がないでください!」

「ん、これが自然」

「って、シロがもう脱いじゃってるんですけど!?」


 シロはすでにスッポンポンである。


「ぬぐーっ!」

「フィリアちゃんまで!? ダメです!」

「パパもぬいでるよー?」

「って、だから脱がないでくださいってば!」

「別に俺が脱ぎたいから脱いでいる訳じゃない! あくまで人族と人魚族の友好のためだ!」


 俺の主張にエレンがハッとしたように頷いた。


「確かに、郷に入っては郷に従えと言うし、ここはあたしも脱ぐべきか……」

「エレンさん! そんなにあっさり騙されないでください!」

「あ、みなさん別に脱がなくて大丈夫ですよ?」

「がーん」


 リューナさんの一言で俺の企みがあっさり打ち砕かれてしまう。

 空気読んでくださいよぉ……。


 ちなみに人魚たちの寿命は人族と大差ないらしいが、人族と違って基本的に死ぬまで若い姿のままだという。 

 だから里には若い女性ばかりなのだそうだ。


 それと、男の人魚はいない。

 繁殖期になると一部の女性が一時的に性転換するらしい。

 素晴らしきかなこの百合システム! 俺やっぱりここに永住する!


 やがて族長が住むという家に到着した。

 きっと彼女も物凄い美女に違いない。俺は期待に胸を膨らませ、リューナに続いて中に入る。


「おお、お主らがリューナたちを救ってくれた恩人か。歓迎するぞ」


 そう言って俺たちを迎えてくれたのは、人魚の干物だった。


「……あれ。おかしいな? 人魚なのに皺くちゃのババアなんだけど……」


 俺は目を瞬かせる。

 うん、あれだ。きっと俺の目が一時的におかしくなったんだ。

 軽く目を揉んでから、俺は改めて視線を向ける。


 やっぱりそこにいたのは皺くちゃのババアだった。

 胸なんてだらーんとヘソの下くらいまで垂れ下がっている。

 今まで見てきたおっぱいで得た鋭気を、根こそぎ持って行かれそうになるレベルの悍ましさだ。


「人魚って死ぬまで若い姿なんじゃないのか……?」

「さすがに百五十年も生きておるからのう」


 ババアもとい族長は遠い目をして言った。


「何でそんなに生きてしまったんだ……」

「その発言物凄く失礼ですよね!?」

「せめて服を着てもらえないか……? 目が腐りそうなんで」

「かっかっか! 随分と冗談好きな人族じゃのう!」


 いや冗談とかじゃないんで。マジなんで。


「ともかく、今晩は宴じゃ! 御客人方、存分に楽しんでいってくれよ!」




   ◇ ◇ ◇




 里の中央にある広場で盛大な宴が催されていた。

 沢山の人魚たちが集まっている。


 給仕してくれている人魚たちもおっぱい。

 ダンスを披露してくれている人魚たちもおっぱい。

 歌を歌ってくれている人魚たちもおっぱい。


 右を見ても左を見ても生のおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいなのだ。

 ああ、やっぱりここは楽園だったよ……。


 ちなみに何やら少し前に悍ましいものを見たような気もするが、すでに忘却の彼方へと追いやったので問題ない。


「どうじゃ? 楽しんでおるか?」

「ぎゃあああっ!」


 目の前に突如として化け物が現れたので、俺は思わず悲鳴を上げていた。

 垂れた乳が視界に入る。

 うおおおっ、目がっ、目がぁぁぁっ!


「なんじゃ、大袈裟な。そんなにわしの裸が魅力的か?」

「破滅的だよ! 腰をくねらせてポーズ取るのやめろ! 本当に目が腐る! 死ぬ!」

「かっかっか、そんなに照れんでも。良ければ揉んでみてもええぞ?」

「んなことしたら手が腐るから! 細胞が一瞬で死滅する!」


 しかもどうやって揉むんだよ。

 引っ張るくらいしかできないだろ。

 めちゃくちゃ伸びそうだな……。


「なんだか少し、眠くなってきました……」


 俺がこの里の唯一の汚点とやり合っていると、不意にティラが俺の肩に頭を預けてきた。

 うお、何だこの突然の素敵シチュエーション!? 地獄に仏とはこのことか!?


「……すぅすぅ……」


 と思ったが、何やら様子がおかしい。

 人前で寝ることなどめったにないティラが、あっさりとそのまま寝落ちしてしまった。


「……あたしも……眠い……」


 エレンが頭をふらふらさせ、こてんとその場に倒れ込んでしまった。


「お?」


 直後、俺も睡魔に襲われる。

 あ、これ食事に睡眠薬盛られてたな。


「許せ、御客人方。里の者を護るためには、こうするしかなかったんじゃ」


 皺くちゃババアが申し訳なさそうにしつつも、冷厳とした口調で告げた。


「お主らには海神様の生贄になってもらう」

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