第15話 エルフ幼女がかわいい
「まぁ、そういうことだったの」
ティラの必死の説明のかいもあって、ティラママは納得がいったというふうに頷いた。
それから、ティラママはフィリアを見て、
「よかったわね、フィリアさん。怖くはなかった?」
「うん、だいじょうぶだった! こわいやつは、パパがやっつけてくれたの!」
こわいやつ……。
オーエン……なんか、すまんな……。
「それでは、お母様。早速ですが、私はこれから手に入れた研究資料を調べてみようと思います」
「あ、そのことなんだが。残念だけど、その資料にお母さんの病気の治療に役立ちそうなことは載ってないぞ」
「え?」
「そもそも回復魔法じゃ治せないんだ、この病気は」
「そ、そんなっ……」
「ま、でも安心してくれ。お義母さんの病気の原因ならもう分かっているから」
顔を青くするティラに自信を持ってそう告げつつ、俺はティラママのベッドに近付いていく。
「これは呪いだ」
呪い。
呪術。
それは原始的な古い術体系で、現在この世界で主流となっている魔法とはまた別の系統に属している。
セィラ 64歳
種族:エルフ族
レベル:31
状態:衰弱の呪い
「呪い、ですか……?」
「ああ。けど、そんなに厄介なものじゃない。……えっと、お
「どうだったかしら……もう半年以上、前のことだし……あ、でも、うちの倉庫を整理したのが、その頃だった気も……」
「じゃあそれが原因かもな。長い年月を経た道具などに、時に霊魂が宿ることがあるんだ」
日本で言うところの付喪神だ。
「けど、そうと知らずに捨ててしまったりすると、その怒りを買って呪いをかけられてしまったりするんだよ」
一応、人族の方だと呪術師なんていう呪い専門の職業があって、解呪なんかをしてくれるみたいなんだが。
「こんなに精霊の力の強い場所で呪いが発生するなんてことは、ごくごく稀のことだろうし、疎いのも仕方ないだろうけどな」
「お詳しいのね」
「いやいやそれほどでも」
「……何で顔を赤くしてるんですか」
しまった。
ティラママは当然ながら人妻だ。幾ら可愛くても懸想してはマズイ。
『懸想したのですか……。幼女から64歳の熟女まで、マスターの守備範囲の広さには驚嘆を禁じ得ません』
幼女には懸想してませんよ? しかも64歳といっても、見た目はせいぜい二十代だからな?
それはともかく。
これくらいの呪いなら解呪するのは簡単だ。
『マスター。〈呪術・極〉は悪用しないようにしてください。強制的に相手を自分に惚れさせることができる呪いなども存在しますので』
マジか。
くくく、それを使えばハーレム作り放題……
って、俺がそんなことするやつに見えるかよ!
『はい』
ナビ子さんからの信用が皆無です。
「よし、もう大丈夫だ」
俺はティラママにかかっていた呪いを解呪した。
「……魔力の放出が……止まったわ」
垂れ流しになっていた魔力が、蛇口を閉めたようにぴたりと止まる。
「治った……んですか?」
「ああ」
俺が頷いてやると、ティラが感極まった表情でいきなり走り出した。
これはまさか……っ!
う、狼狽えるな。
ここは男らしく、堂々と彼女の気持ちを受け止めてみせるべきだ!
俺は大きく手を広げ、彼女を迎え入れる準備を整える。
さあ、俺の胸に飛び込んでおいで!
「お母様っ!」
次の瞬間、ティラは俺の脇を通り抜けて、ティラママに抱き付いていた。
ですよねー。
「よかったっ……お母様っ……」
「あらあら、何も泣くことないのに」
泣きじゃくる娘の頭を、ティラママは優しげな手つきで撫でている。
「フィリア」
「んー?」
「パパと一緒にちょっと外に出ていようか」
「うんっ」
俺はフィリアの手を引いて、部屋を出た。
親子水入らずってやつだ。
俺は空気を読める男なのである。
まぁ外からでも〈千里眼〉を使えば見れるんだけどな!
エルフの美少女母娘が抱き合う眼福光景を堪能する。
脳内メモリーにもしっかり保存しておこう。
◇ ◇ ◇
ティラママを救った俺は、その日、ティラの家で手厚いおもてなしを受けた。
ティラパパにも会った。
美人の妻と娘を持つ上に、自身も超イケメンという憎き野郎ではあるが、俺の義父になるべき相手。いきなり爆裂魔法をぶっ放すようなことはしなかった。
『当然かと』
そして俺は「娘さんをください」と頭を下げた。
すると、こんなやり取りになった。
「どこの馬の骨とも分からん男に、はいどうぞと言えるわけがない!」
「ですよね、お父様っ。それが普通の反応ですよねっ」
「そもそも娘は誰にもやらん!」
「お、お父様……?」
「結婚なんかさせるものかっ! たとえ幾つになったとしても、ティラはずっとこの家におるんじゃ~っ! おばあちゃんになっても、わしと一緒なんじゃ~っ!」
「ちょ、それはそれで困るんですけど!?」
ティラパパは、かなりの親バカらしかった。
まぁこんなにかわいい娘なのだから、無理もない。
これはじっくり攻略していくしかなさそうだな……。
そんな親バカだが、実は族長だという。
道理でデカい家に住んでいるわけだ。
エルフの里は七つの集落に分かれており、各集落を族長が治めている。
ティラパパはその内の一人だ。
ちなみに族長たちの家はすべて、伝説のエルフの王――ハイエルフに連なる血筋らしい。
「だからティラたんはこんなにも神々しいのか」
「……なに言ってるんですか」
俺の呟きに、ティラが半眼を向けてくる。
一晩ティラの家に泊めてもらって、翌日。
俺たちはエルフの里を歩いていた。
ティラに里を案内してもらっているのだ。
俺たちは三人連れ立って、樹の枝で作られた橋を渡っていく。
地上がむちゃくちゃ遠いな。二百メートル近くあるから当然だ。
その上、橋とは言っても、ほとんど不安定な吊り橋である。
かなり怖い。
無邪気に走り回っていたフィリアが橋から転落しかけ、肝を冷やした。
まぁいざとなったら風魔法で空を飛べばいいんだが。
途中、何度か里のエルフたちとすれ違った。
「ティラ様、お帰りなさいませ」
「ティラ様、無事でよかったです! お母様がすっかりよくなられたとか!」
「ティラさま、ダンジョンクリアしたってほんと? すっごーい」
族長の娘ということもあってか、ティラは随分と慕われているらしい。
「ところで君は? あまり見かけない顔だけど……」
「ずっと旅をしていたからな。偶然、ダンジョンで彼女と会って、この里に連れてきてもらったんだ」
「へぇ」
俺も里の人たちと何度かそんなやり取りを交した。
エルフたちは人族に対していい印象を持っていない。
それどころか、人族を嫌悪しているエルフも多いという。
なので本来なら、こんなふうに平和なやり取りはできないのだが、
「そんな魔法まで使えるんですね……。本当にエルフにしか見えないです」
俺は変身していた。
どこからどう見てもエルフにしか見えない、完璧な変身だ。
『〈補助魔法・極〉スキルは、身体強化魔法、封印魔法、反射魔法、隠蔽魔法、変身魔法など、サポート系の魔法を高レベルで使用することが可能になります』
説明ありがとう、ナビ子さん。
ちなみにフィリアも、この力でエルフの幼女に変身させていた。
てか、エルフ幼女、マジでかわいいんだが……。
オーエンの爺さんには絶対に見せられないな。
「呪術のことと言い、もはやあなたが何をしても驚かなくなってしまいましたよ……」
「パパ、しゅごーい!」
「ふっふっふ、パパは凄いだろー」
「……ですが、本当に申し訳ありません」
不意にティラから謝られ、俺は面食らった。
「え? 何が?」
「……母を救っていただいた恩人だというのに、姿を変えなければ出歩くこともできないなんて……」
うーん。俺は別に全然気にしてないんだけどなぁ。
普通に里を満喫してるし。
そもそも人種間の軋轢なんて、別におかしなことではないだろう。
「けど、何でエルフたちは人族のことを嫌っているんだ?」
「それは……」
それからティラは教えてくれた。
エルフたちがなぜ、人族のことを嫌悪しているのかということを。
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