第107話 レヴィアたん
クラーケンをはじめ、次々と現れる海のモンスターを撃破しながら、俺とベルフェーネは『水没魔城』を順調に突き進んでいた。
やがて俺たちが辿り着いたのは、一際美しい珊瑚が群生する円形の巨大な空間だった。
「久しぶりねぇ、ベルフェーネ。ふふ、まさか直接わたしの拠点に乗り込んで来るなんて」
頭上から声が響いてくる。
視線を向けると、七色に煌めくクラゲの上に座る悪魔の姿があった。
「っ! レヴィア!」
ベルフェーネが忌々しげに叫ぶ。
「あいつがこの城のボス、公爵級悪魔のレヴィアか」
ふわふわと浮遊するクラゲの椅子に腰かけ、優雅にお茶を口に運んでいる。
ていうか、物凄い美女である。
おっとりとした美貌に、長身でグラマラスな身体。服は身に着けておらず、自前の鱗が辛うじて局部を隠している。
とてもエロくて最高です。
「ふん! どうやらここが最深部のようね! 思っていたより大したことないじゃない、あんたの城! これならあたし一人でも十分攻略で来たわ!」
ベルフェーネが勝ち誇ったように宣言する。
しかしレヴィアは悠然と微笑み、
「だって、せっかくあなたがここまで来てくれたのだから、わたしがお出迎えしてあげないと失礼じゃないの」
「そんな風に余裕ぶっていられるのも今の内よ」
「あら? ふふふ、その言葉、そっくりそのままお返しして差し上げるわ」
そのときだった。
それまで身を潜めていたモンスターたちが一斉に姿を現す。
「ちょっ、なんて数なのよっ!? これだけであたしの拠点の倍以上はいるじゃないの!?」
海棲のモンスターだけでなく、レヴィアの配下と思しき悪魔もいる。
俺たちをこの場所で待ち構えていたのだろう。
「ここまで辿り着けたのはどうしてかしら? それはこの場所で確実にあなたを仕留めるために温存していたからよ」
「くっ……」
「本当にお馬鹿ねぇ、ベルフェーネは。そんなだから味方が愛想を尽かして離れていくのよ? それにしても、自暴自棄になって突入してきたのかと思ったら、本気で攻略しようとしていたなんて……ふふっ……ふふふっ……ごめんなさい、あまりにも可笑しくて……」
レヴィアはお腹を抱えて笑い始めた。
笑い方まで色っぽい。
「それにあなたの拠点に、すでにわたしの傘下にある爵位持ちたちを向かわせているところよ? 主が不在で、一体どうやって防衛するつもりかしら?」
「う、うるさいわねっ! あたしだって何の勝算もなしに乗り込んできた訳じゃないっての!」
「あら? 何か秘策でも?」
「あるわ! こいつよ!」
ベルフェーネが俺を指差してきた。
レヴィアは今初めて気が付いたというように、その視線を俺へと向けてくる。
「そのいかにも弱そうなあなたの手下の悪魔が?」
「そ、そうよ!」
おい、俺は手下じゃねーぞ?
「大した魔力は感じないのだけれど……」
ちなみに俺は今、〈変身・極〉スキルで悪魔へと姿を変えている。
「そうよ! ほら、見せてやりなさい、あんたの力を! あのムカつく女をぶっ殺してやるのよ!」
「だが断る」
「何でよおおおおおおおおおおっ!?」
俺はベルフェーネとレヴィアを見比べながら言った。
「あっちのお姉さんの方が好みだからな。俺、これからは彼女のために頑張ることにする」
「ふっざけんなこのクソ野郎があああああああああっ!!!」
ベルフェーネが叫ぶ。
一方、レヴィアは俺のラブコールに対して、
「生憎、あなたにはこれっぽっちも興味がないわ?」
マジか……。
俺はその場に座り込み、膝を抱えた。
「何でそんなにショック受けてんのよ!?」
ベルフェーネは大きく溜息を吐いて、
「この拠点を落としたら、あの女をあんたにくれてやるわ! だから手伝いなさい!」
「よし、手を貸すぜ」
「変わり身早っ!?」
俺は立ち上がった。
俺、レヴィアを配下にしたら、「レヴィアたん」って呼んで可愛がるんだ……。
レヴィアが妖艶に微笑み、配下たちに命を下した。
「やってしまいなさい、あなたたち」
直後、圧倒的な数の敵勢が一斉に襲い掛かってきた。
――数十分後。
「う、嘘、でしょう……?」
目の前に広がる光景が信じられないとばかりに、レヴィアが愕然とそんな声を漏らした。
自信満々だった先ほどまでの様子は見る影もない。
それもそのはず。
あれだけいた配下たちが今や一体残らず戦闘不能に陥り、美しい珊瑚の空間はまさしく死屍累々といった有様へと変わり果てているのだから。
「あー、さすがにこれだけの数を相手にするのは骨が折れたな」
俺はこきこきと首を鳴らす。
「な、何者よ、その悪魔は!? わ、わたしの配下をほとんど単身で全滅させるなんて、どう考えてもあり得ないわ!? そんなことができるとしたら魔王くらいじゃないの!」
レヴィアが声を荒らげ問い詰めてくる。
「……いや、あたしとしても、さすがにここまでは予想外だったんだけど……。ほんと、何なのあんた……?」
ベルフェーネも唖然としていたが、先ほどの手下設定を思い出したのか、すぐに取り繕って、
「どうよ! これがあたしの眷属の力なんだから!」
「う、嘘をおっしゃい! あなたより明らかに強いじゃない! なぜあなたなんかに隷属しているのよっ?」
「そ、そこはほら、えっと……そ、そう! あたしの魅力のお陰よ! こいつはあたしにベタ惚れなの!」
「さっきわたしの方が好みだって言っていたけれど?」
「あああ、あれは違うのよ! あ、あたしにちょっと意地悪することで、気を引こうっていう魂胆だったのよ!」
俺はメンヘラ彼女かよ。
「と、とにかく! これであたしの勝ちね! この拠点は今日からあたしのものよ!」
ベルフェーネの宣言に、レヴィアはしばし逡巡する素振りを見せる。
だがすぐに溜息とともに、
「……そうね。どうやらわたしの負けのようね」
まだ最大戦力の彼女自身が残ってはいるが、それでも俺には勝てないと判断したのだろう。
「ベルフェーネ。もう一つ、教えてほしいことがあるわ」
「何よ?」
「その彼の求愛に、あなたはちゃんと答えてあげているのかしら?」
「っ!? こ、答えるって……」
「どうなの?」
「あああ、あたしはそもそも男になんか興味ないし!」
「やっぱり。じゃあ、あなたもわたしと同じなのね」
「同じ……? 何のことよ?」
首を傾げるベルフェーネに、レヴィアは断言したのだった。
「決まってるでしょ? あなたもわたしと同じレズビアンだということよ」
「……は?」
ポカンと口を開けるベルフェーネを余所に、レヴィアは言う。
「いいわ、ベルフェーネ。わたし、あなたのモノになってあげるわ。ふふふ、あなたの好きにしてくれていいわよ?」
「ちょっ、あんた何か勘違いしてるでしょ!?」
「大丈夫。同性愛は何も恥ずかしいことではないわ」
「だから違うってば!? ていうか、そんなのは某天使だけで十分だから!」
「わたしがあなたの領地ばかりを執拗に狙って削り続けていたのは、あなたを自分のモノにしたかったからなのよ」
「それ、できれば知りたくなかったんだけど!?」
「だけど、今は逆でもいいかもしれないと思っているわ……。あなたにペットのように可愛がられる毎日……ふふ、ふふふふふ……」
その未来を想像してか、恍惚とした顔で妖艶に笑うレヴィア。
ベルフェーネは涙目になって叫んだ。
「だから、あたしはそんな性癖じゃないってばぁぁぁっ!!!」
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