第108話 美女悪魔じゃないし、巻きで
魔界における勢力を大まかな図にすると、だいたい以下のようだった。
ただしこれは、俺が魔界に来る前の状態だが。
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| | ベリア | レヴィア |
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| 魔王 | ゼブブ | |
| | |ベルフェーネ |
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| | スーモ | マモーン |
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魔王を覗く六体はすべて公爵級の悪魔である。
囲まれている部分がその勢力圏。
もちろん直轄地もあるが、大半はより下位の爵位持ち悪魔の領地で構成されているという。
まぁ中世ヨーロッパの封建社会をイメージすれば分かりやすいだろう。
ただし、それよりもう少し王様(=公爵)の権威や影響力を強くした感じ。
要するに、ほとんど七体の悪魔たちで魔界を七分しているような形だった。
中でも魔王は魔界のほぼ半分をその支配圏としている。
ベルフェーネの支配領域は元々この三倍くらいはあったらしいが、レヴィアをはじめ、他の公爵級との領地争いに負け、公爵級としては最小の勢力にまで落ち込んでいた。
だが今回、レヴィアの拠点を落としたことにより、一気に魔界第二位の勢力にまで躍り出ている。
さらにその勢いに乗って、俺たちは次々と周辺の領地へと攻め込んだ。
他の公爵級の傘下にある爵位持ち悪魔たちの拠点を攻略していったのだ。
当然、配下と支配領域を奪われた公爵級たちがそれを良く思うはずもない。
真っ先に反撃してきたのは、南部で勢力圏が接している公爵級悪魔マモーンの勢力だった。
傘下の爵位持ち悪魔たちに大号令を出し、ベルフェーネの拠点へと攻め入らせたのだ。
俺たちはその大攻勢を迎え撃ち、そして完膚なきまでに叩きのめした。
まぁこっちには俺やベルフェーネはもちろん、レヴィアまでいたからな。
当然の勝利である。
逆に主戦力に壊滅的な打撃を受けたマモーン傘下の悪魔たちは、白旗を上げて次々に降伏。
俺たちはベルフェーネの拠点を護り切ったばかりか、逆に敵の支配領域をごっそりといただくことができたのだった。
そうして満を持して、公爵級悪魔マモーンの拠点へと攻め込んだ。
『万魔殿(パンデモニウム)』と呼ばれているその拠点は、金銀財宝によって造られた目が眩むような絢爛な宮殿だった。
その最奥にいたマモーンは鼠のような容姿をしていた。
ただし身に纏っている衣服は随分と豪華だ。
「あ、あり得ないでちゅう! たった二人で、おいらの拠点を攻略するなんて!」
俺とベルフェーネを前に、マモーンは驚きの声を上げる。
「ちゅうって、赤ん坊か……」
『鼠だからではないでしょうか』
いずれにしても公爵級にしては随分と締まらない語尾である。
「だ、だけど……ここの財宝は誰にも渡さないでちゅうッ――――ひでぶ!?」
「美女悪魔じゃないし、巻きで」
……マモーンを倒して拠点とその領地をいただくと、次にターゲットにしたのは公爵級悪魔ゼブブの拠点だった。
鬱蒼とした草木に覆われて昆虫型の魔物がわんさか棲息しているダンジョンを進んでいくと、その最奥に巨大な蝿の姿の化け物がいた。
「ああ、ベルフェーネ! 僕に会いに来てくれたんだねブン!」
今度の語尾は「ブン」らしい。
「んな訳ないでしょ! とっとと降伏して、あんたの領地をそっくりあたしに寄こしなさいよ!」
「恥ずかしがらなくてもいいブン! 君から出ている僕への求愛フェロモン、ビンビンに感じているブン!」
「出してるのはどう考えてもあんたの方でしょうが!」
「つまり僕らは両想いということだブン!」
「会話が成り立たないんだけど!?」
ベルフェーネは頭を抱えた。
「……だから、こいつのところだけは来たくなかったのよ……」
「レヴィアのときといい、意外とモテモテじゃないか」
「ぜんっぜん、嬉しくないんだけど!」
「けど蝿に好かれるってことは……うん――」
「あたしは臭くないから!?」
そのときいきなりゼブブが咆えた。
「そいつは誰だブン!? 随分と仲良さそうに……ま、まさか、不倫ブン!? ゆ、許さないブン! 僕という悪魔がいながら、他の悪魔に手を出すなんて! 激おこブンブン!」
プンプンみたいに言うな。
「いい加減っ、その頭のおかしい妄想を止めなさいよおおおおおおっ!」
その後、嫉妬心を露わに俺に襲いかかってきたゼブブだが、返り討ちにしてやった。
こいつも美女悪魔じゃなかったのでもちろん巻きである。
「ベルフェーネ……一度でいいから……君の……×××の匂いを……嗅いでみたかったブン……ガクッ」
俺の大活躍のお陰で、ベルフェーネの支配領域が一気に広がった。
これが現在の魔界の勢力図である。
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| | ベリア | |
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| 魔王 | ベルフェーネ |
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| |______ |
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| | | |
| | スーモ | |
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「すごい! もうほとんど魔王の支配領域と変わらないじゃないの!」
ベルフェーネが手を叩いて喜びを露わにする。
「じゃあ次は魔王の拠点にでも攻め込むとするか」
俺がそう提案した瞬間、いきなり顔色を真っ青にして慌て出した。
「ばばば、馬鹿なこと言わないでよ!? あんな化け物に喧嘩なんて売れるわけないでしょうが!」
「そんなにヤバい奴なのか、魔王って?」
「そりゃそうよ! あたしのお爺ちゃんのそのまたお爺ちゃんの代から、ずっと魔王に君臨し続けてる伝説級の悪魔なんだから! あたしらが独立領を持ててるのだって、あいつが今以上に領地を増やそうと思っていないお陰よ!」
そして公爵級悪魔も、誰一人として魔王の領地には手を出せないらしい。
「しかも魔王には、公爵級にも匹敵する配下がごろごろいるのよ」
「そう聞くと大したことなさそうだよな。要するに、マモーンとかゼブブとか、お前レベルってことだろ?」
キャラは濃いかもしれないが。
「ナビ子さん、魔王ってヤバいの?」
『はい。ヤバいです。レベルは314です』
「マジか」
ちなみに俺のレベルが108である。
およそ三倍かよ。
竜王であるシロのとーちゃんですらレベル122だったのに。
『その気になれば、魔界でも天界でも地上でも容易く支配できる強さを持っています』
天界最強とされるミカエールを遥かに凌ぐという。
と、そのときだ。
「べ、ベルフェーネ様、報告がございます」
男装美女悪魔のミランジュが部屋に入ってくる。
いつも落ち着いていて淡々としている彼女だが、珍しく動揺しているようだった。
「西部のルガ侯爵から、強大な魔力の持ち主が我が拠点に向かっているとの情報がもたらされました」
「強大な魔力? まだ残っている公爵級かしら?」
今さら攻めてこようとまったく怖くないとばかりに、余裕たっぷりに鼻を鳴らすベルフェーネ。
しかしその直後、ミランジュの継ぎ句でその顔が凍り付くのだった。
「それが……ルガ侯爵によれば、魔王様かもしれない、と」
「……へ?」
フラグの回収が早い。
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