第104話 三つ子の魂百まで的な
「ただいまー」
「ただいま、帰りましたわ」
俺はルシーファを連れて天界から地上へと帰ってきた。
と言っても、俺の屋敷――スカイアイランドにある竜王の城だが。
竜王になってから、ここは俺の家になっていた。
兼、食堂と言ってもいいかもしれないが。
今日も俺の分身が作った料理を食べるため、大勢のドラゴンたちが訪れていた。
帰還した俺を見つけて、フィリアが嬉しそうに駆け寄ってくる。
「パパ!」
「フィリア。ごめんな、俺が居なくて寂しかっただろう?」
「ううん! へいきだった! パパいっぱいるもん!」
……あれは俺の分身であってパパ本体じゃないからね?
「お帰りなさい」
「む、帰ってきたのか」
ティラとエレンも出迎えてくれる。
「……る、ルシーファさんも」
「ご心配は要りませんわ、ティラ様」
微妙に頬を引き攣らせるティラに、ルシーファは天使の笑みを浮かべて告げた。
「わたくし、しっかりと天界で更生してまいりましたの。今後一切、ティラ様にご迷惑をかけず、天使に相応しい振る舞いをすることを誓いますわ」
「えっ、ルシーファさんが真面になっています!?」
ティラは信じられないといった顔をする。
一方のルシーファは、天獄で味わった苦痛を思い出したのか、遠い目をして、
「……もう二度と、あんな目には遭いたくないですの……」
よっぽど辛かったのだろう。
それにしても、俺はあの天使長こそ早くどうにかするべきだと思うのだが……。
「……色々あったけど……今回の件で……姉さんは、ちゃんと反省したらしい……」
と、念を押したのはガブリエナだ。
元々、ルシーファを天界に強制連行したのは、双子の妹である彼女である。
更生された姉を見届けるため、わざわざここまで付いてきたのだった。
ガブリエナが俺の方を見てくる。
「……カルナ……礼を言う……ありがと……」
ぼそぼぞと恥ずかしげにそう呟いてから、彼女は翼を広げて天界へと戻っていった。
「いやいや、そこはお礼としてキスの一つでもしていく場面じゃね?」
「……ぜひとも今度はカルナさんを更生してもらいたいところです」
そう半眼でぼやいてから、ティラはルシーファの方へと向き直った。
御淑やかに佇む天使らしい天使の姿に、彼女は満足げに頷きながら、
「それにしても、まさか本当にルシーファさんが真面になって戻ってくるとは思いませんでした。さすがは天界ですね」
そんな彼女には悪いが、俺ははっきりと断言する。
「いやいや、何を言ってるんだ、ティラ? 変態が変態を卒業できるわけないだろ? しかもこんな短期間で」
「へ? ど、どういうことですか……?」
そのときだ。
天使らしい整った笑みを浮かべていたルシーファの表情が、急に、にへら、とだらしなくいやらしいものへと変貌する。
さらに彼女は無防備なティラに抱き付くと、腹部に思いきり顔を埋めた。
「ぬほおおおおおおおおっ! ティラ様のにおいぃぃぃぃぃっ! 久しぶりに嗅げましたわあああああああああっ! すばらっ! すばらですわぁぁぁぁぁっ! これだけでわたくし、逝ってしまいそうですのぉぉぉぉぉぉっ!」
こういうことです。
「ぜんっぜん、更生してないじゃないですか――――ッ!!!」
さっきまでのは妹を偽るためのただの演技でした。
「ガブちゃんなんてチョロイですわぁっ! これでもう、わたくしたちの愛を邪魔する者はいませんの! ああああっ、ティラ様っ、脇の匂いも嗅がせてくださいませぇぇぇぇっ!」
「ぜったいに嫌ですッ! サンダースパーク!」
「あばばばばばばっ! ……良いっ、良いですわぁぁぁぁっ! やっぱり痛めつけるより、痛めつけられたいですのぉぉぉぉっ!」
このドM属性……やっぱ兄妹だな……。
「ガブリエナさん! お願いですからこの変態天使、早くまた天界に連れ帰ってくださ――――いッ!!!」
ティラの懇願の悲鳴が空に響き渡った。
「……ん? そう言えば、何か忘れている気が……?」
◇ ◇ ◇
その頃、天獄では。
「あばばばばばばっ!? な、なんでこのあたしがこんな目に遭わなくちゃいけないのよぉぉぉぉっ!? あばばばばばばっ!?」
公爵級悪魔ベルフェーネが、全身に電撃を浴びながら悲鳴を上げていた。
◇ ◇ ◇
「そう言えば、何か忘れている気が……?」
『今回、マスターに囮役として利用された公爵級悪魔のことでは?』
「あっ」
そう言えば、ベルフェーネを天獄に放置したままだった。
たぶん今頃は捕まってるだろうな……。
「召喚(サモン)」
「あばばばばば――――――っ!?」
召喚してみると、髪の毛がちりちりになったベルフェーネが出現した。
どうやら天獄の地下四階に入れられていたらしい。
「こ、今度という今度は、許さないんだからぁぁぁぁぁっ!!!」
怒ったベルフェーネが腐蝕の風を纏って躍り掛かってきた。
「うぅ……だから、何であんたの方があたしより強いのよぉ……」
――一分後、返り討ちにされたベルフェーネは膝を抱えて蹲っていた。
『……マスター、容赦ないですね。むしろ今のは大人しくやられておくべきシーンでは?』
「ばかっ。そんなことしたら美少女悪魔の泣き顔を見れないじゃないか!」
『〈下衆・極〉……』
そんなスキルはありませんよ?
「……ほんと、踏んだり蹴ったりよ……。こんな変態人間に隷属させられるわ、領地はどんどん少なくなっていくわ……。公爵から格下げされるのも時間の問題ね……。ああ、いっそもう、あのまま天獄で死なせてくれればよかったのに……ふふふ、天使どもに殺されるなんて、あたしにはお似合いの屈辱的な死に方よね……」
「……お前も苦労してんだな……」
「誰のせいだと思ってんのよ!? 同情するくらいなら領地でも寄こしなさいっての!」
同情するなら領地くれって、これまた随分とぶっ飛んだ要求だな。
「まぁ別にいいけど。領地くらい」
「えっ!?」
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