魔界領土戦争編
第105話 領土争い
「へー、ここがお前の城か。なかなか立派じゃねーか」
「当然よ。これでも公爵級悪魔なんだから」
そう自慢げに胸を張るベルフェーネに案内されて、俺は魔界にある彼女の城へとやって来ていた。
いかにも悪魔らしい装飾が随所に施され、雰囲気は禍々しい。
広くて立派な城なのは確かだが、あまり住みたくはないな。
まぁ悪魔にとっては住み易いのかもしれないが。
もちろんそれだけでなく、凶悪なトラップや魔物も配備されていて、さながらゲームのラストダンジョンである。
「ぎゃう!?」
「って、何でお前がトラップ引っ掛かってんだよ」
「う、うるさいわね! 定期的にトラップの配置が変わるから覚えられないのよ!」
お尻に刺さった毒矢を抜きながら叫ぶベルフェーネ。
涙目になってはいるが、さしてダメージはなさそうだ。
ちなみに今の俺は例のごとく〈変身・極〉スキルで悪魔へと姿を変えている。
これなら人間だとバレることはない……のだが、そもそも城内に全然他の悪魔を見かけないな。
そんなことを思いながら城内を進んでいると、ようやく第一悪魔と遭遇した。
「お帰りなさいませ、ベルフェーネ様」
そう言って恭しく頭を下げてきたのは、青い髪の美女悪魔だった。
紳士服に身を包んでいて、それが彼女の長身と怜悧な顔つきにとてもよく似合っている。
男装美女キターーーーーッ!!!
「留守番ご苦労だったわね、ミランジュ」
と、ベルフェーネが労いの言葉を投げかける。
ミランジュと呼ばれた美女悪魔は一礼してから、その青い瞳を俺の方へと向けてきた。
「こちらの方は?」
「こ、こいつは、えっと……あ、あたしの新しい眷属のカルナよっ!」
いや、何で俺がお前の眷族なんだよ。
逆だろ、逆。
ベルフェーネが慌てて耳打ちしてきた。
「ミランジュはお爺様の代からあたしの家に仕えている執事なのっ。……あ、あたしがあんたに隷属させられているなんて、とてもじゃないけど言えないわよっ」
「ほほう、つまり間接的に俺は彼女のご主人様という訳だな。そのことを心と身体にしっかり分からせてやらねば……グフフフ」
「やっぱりこんな奴、連れて来るんじゃなかった……」
「なに言ってんだ。お前が領地が欲しいって言ったんだろ?」
「言ったけど! ほ、ほんとに取り戻してくれるんでしょうね?」
俺たちがひそひそとそんなやり取りをしていると、ミランジュが「ごほん」という咳払いとともに割り込んできた。
「ベルフェーネ様、ご報告がございます」
「ほ、報告?」
「先日、傘下のマルコーキ伯爵が離反されました」
「えっ、マルコーキまで!?」
ベルフェーネは悲鳴じみた声を上げた。
「レヴィア公爵傘下に鞍替えしてしまったようです。これで爵位持ちの離反は五人目。我が公爵家の勢力圏は先代のときと比べて、これで三分の二以下にまで減少してしまいました。このままでは近いうちに侯爵に格下げされる可能性があります」
「うぐ……」
魔界では、自らの領地を持つ悪魔に爵位が与えられるという。
そしてその位は、主に領地の広さに応じて決定する。
下から男爵、子爵、伯爵、侯爵、公爵である。
そして爵位ではないが、公爵のさらに上、魔界の頂点に君臨しているのが魔王だった。
魔王領は魔界西部の大半を占めているらしく、多数の爵位持ち悪魔を従えているという。
それに次ぐ公爵級は、ベルフェーネを含めて全部で六人いるらしい。
それぞれ大規模な領地を治めているだけでなく、彼らもまた下位の爵位持ち悪魔たちを多数その支配下に置いているようだ。
ベルフェーネの領土は魔界東部のほぼ真ん中にあった。
三方を他の公爵級に囲まれているという立地の不利はあるものの、それでも長きに渡って東部最大の領地を誇り続けてきたという。
名のある爵位持ち悪魔も大勢、その傘下に入っていたそうだ。
だがそれがここ最近になって、続々と離反者が現れて勢力圏が瞬く間に減りつつあるという。
「ていうか、全部あんたのせいよ! ……あんたがあたしを勝手に呼び出したりなんてするから……その隙を突かれて……」
「いや俺はあんまり関係ないだろ? お前が領主になった百年前からずっと領地が減り続けてるんだから、どう考えてもお前自身の能力の問題だよな」
「う、うるさいわね!? 人が考えないようにしてることに、平気で突っ込んでこないでよ!」
「……そこはちゃんと自省しろよ」
魔界では何千年にも渡って、常に激しい領土争いがなされ続けてきたという。
しかし争いというのは、負けた方はもちろんのこと、勝った方にとっても大きな負担になる。
せっかく領土を奪ったというのに、長引く戦いで土地や住民が疲弊してしまっては、得られるものも少ない。
そんな訳で、魔界における領土争いはいつしかスマートなものへと進化してきたのだとか。
爵位持ちの悪魔なら必ず有している〝拠点〟。
侵略する際にも、必ずそこしか攻撃してはならないことになっているのだという。
そして拠点を落としさえすれば、領地を丸々得ることができるとか。
もしこのルールに違反し、拠点以外の場所で戦った場合は、魔界中を敵に回すことになるらしい。
ゆえに戦いは両陣営の拠点のみという、かなり限定した場所でしか勃発しない。
お陰で被害を最小限に抑えることに成功している。
「むしろ人間より悪魔の方が進んでるな」
『もっとも、何千年という争いの歴史の果てにようやくその形に落ち着いたのですが』
ともかく、領地を拡大させるためには、他の爵位持ちの拠点を陥落させればいいということだな。
「レヴィア公爵だっけ? じゃあ、とりあえずそいつの拠点から潰すか」
「ちょ、いきなり無理でしょ!? 公爵級の拠点に飛び込むなんて、自殺行為よ!」
訊けば、爵位持ち悪魔の拠点は、ほぼ例外なく超難度のダンジョンになっているとか。
もちろんこのベルフェーネの城もそうだ。
言わば、相手にとって絶対的に有利なホーム。
拠点に攻め込んで勝つためには。
二階級上であるか、もしくは同格の悪魔が三体協力するか。
どうやら最低でもそれだけの戦力が必要になるらしい。
つまり同格の悪魔の拠点に単体で攻め入っても、まず勝ち目はないということ。
しかも爵位持ち悪魔にとっての最大戦力は、自分自身。
自ら敵陣に攻め込んでしまえば自陣は手薄になり、その間に他の悪魔に拠点を攻められる可能性もあるという。
「なるほどな」
「分かってもらえた? 領地を奪うのはあんたが思うほど簡単じゃないのよ。まずは下位の爵位持ちから順番に……」
「分かった分かった。よし、レヴィア公爵とやらの拠点へ案内してくれ」
「全然分かってないじゃない!?」
「大丈夫大丈夫」
「何が大丈夫なのよ!?」
「パッと行ってパッと潰してパッと帰ってくればいいんだよ」
「……ダメだわ、こいつ……。期待したあたしがバカだったわ……」
頭を抱えて座り込むベルフェーネ。
「心配するなって。公爵って言ったって所詮はお前と同格だろ? だったら楽勝楽勝」
「その言い方すっごくムカつくんだけど!?」
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